マヨネーズ異世界転生騒動記feat.aiのべりすと
僕の名は麻世田(まよた)。
下町で店を営む平凡なお好み焼き屋の従業員だった僕は、お好み焼きにうっかり足を滑らせて亡くなってしまった。恋人もできず、友達もできず、良い会社に務めれず人生が終わってしまった僕に一筋の光が舞い降りた。それは一人の女神様だった。女神様は僕が可哀想だったのか有り難いことに「マヨネーズの容器」に生まれ変わって異世界転生をさせてもらえる事になった。
「ここが異世界?」
気が付くとそこは、先ほどまでいたはずの下界とはまるで違う場所であった。何しろそこには大きな玉子が目の前に見えていたからだ。それもただの玉子ではない。その玉子の中には俺の知らない人間達が、沢山詰まっていたのだ。
「なるほど、これは異世界だ!」
そう納得した俺は、早速この玉子の中へと入ってみる事にした。
中に入るとまず目についたのは、こちらに向かって何かを話してくる男の姿であった。だが俺はマヨネーズの容器になった事で聴覚を失ったらしく、何を言っているのか全く分からなかった。
やがて男はこちらへ近付いて来たかと思うと、突然俺を持ち上げた。すると今度は、俺の中に溜まったマヨネーズがどんどん減ってゆくではないか! 一体どういう事だろう? そう思っている内に、遂に俺の中のマヨネーズは空っぽになってしまった。
「さあ次はお前だぞ」
男は次に醤油の容器を持ち上げ始めた。
「ちょっと待ってくれよ! 」
俺は慌てて叫んだ。だがいくら叫んでも、やはり声にはならないようだ。そしてとうとう俺は、醤油の容器の中に入れられてしまった。
「まるで醤油だな」
中に入ってみると、そこは案外居心地の良い空間であった。というのも、蓋をしてしまえば外の様子が全く見えないせいだろうか、まるで海の底にいるような気分になるからだ。
俺はしばらくの間そこで、じっとしていた。するとある時、誰かの声が聞こえてきた。
『あなたは誰?』
俺は咄嵯に返事をしたかったのだが、あいにく声を出す事ができない。仕方なく黙ったままでいると、再び同じ質問をされた。
『あなたは誰?』
俺は困ってしまった。何故なら今ここにいる俺は、容器そのものなのだ。だから当然答える事もできなければ、姿形もない。しかし何とかして意思だけは伝えようと、俺は必死になって考えた。俺は醤油の容器に頭をぶつけて、モールス信号のようなものを送る。しかし、異世界の相手がモールス信号なるものを知るわけもなく、相手は全く理解できなかったらしい。やがて諦めたようにこう言った。
『分かったわ』
それから少し間を置いて、また話しかけられた。
『私はあなたの中身を見たいわ。出てきてくれないかしら?』
「えっ!?︎ 」
驚いた事に彼女は、俺が入っている容器の中から俺を出してくれた。
「ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
礼を言う彼女に、俺は思わず見惚れてしまった。なぜなら彼女の顔は、今まで見たこともないくらい美しかったからだ。
「ところで君は……」
俺がそう言いかけた時、彼女がそれを遮るように口を開いた。
「そう、私はオリーブオイルよ。よろしくね」
「ああ、よろしく」
それから俺達は互いに自己紹介をし合った後、二人で色々な事を話した。その中で一番驚いた事は、彼女もまた転生者だという事であった。なんでも彼女は前世では、高級レストランで使われるサラダ油だったそうだ。そんな彼女と話をしているうちに、俺の心は次第に惹かれていった。
「ねえ麻世田君、これからどうする?」
「うん、実は俺……君のことが好きなんだ」
「私も貴方のことが好き」
こうして俺とオリーブオイルは、互いの愛を確かめるかのように抱き合いながら、深い眠りについたのであった。
*
(あれからもう何年経つのだろうか?)
「どうかしたんですか?麻世田さん」
ふと昔のことを思い出していたら、不意に声をかけられた。振り返るとそこには、俺と同じ容器に入っている同僚の女性の姿があった。女性は俺と同じマヨネーズで、その体は黄金色になっている。
「いや、何でもない」
本当はあの時の記憶など忘れてしまいたいと思っているはずなのに、不思議にも彼女のことはずっと忘れられなかった。それに不思議なことに今の俺は、中身のマヨネーズが無いマヨネーズではなく本当のマヨネーズの体になれたのだ。これは素晴らしいことではあるが、一体どうして復活したのかは分からない。まぁ、考えるのも無駄だからもう考えないようにしよう。とりあえず俺は今こうやって生きているのだ……。ここら辺でマヨネーズという調味料について皆に説明しておこう。マヨネーズとは、卵黄・酢(またはビネガー)・塩を混ぜ合わせたものに胡椒などの香辛料を加えたソースの事である。このマヨネーズは、中世ヨーロッパでは貴重なタンパク源として食べられていたようだが、19世紀の産業革命以降になると大量生産が可能になり、今では世界中の家庭で作られている。ちなみにマヨネーズと卵白を攪拌して作るマヨネーズの作り方については、本場フランスでも諸説あるようで、諸説あって正確なところはよく分かっていない。
俺はそんなマヨネーズになった事を後悔してはいない。むしろ前世より気が楽なようにも感じる。
「なあ、君はマヨネーズになって嬉しいと思っていますか?」
「はい、もちろんです」
女性の答えを聞いて、俺は大きくうなずいた。
「そうですか。それは良かった」
「ええ、本当に」
やはり、俺と同じくこの世界の方が幸せのようだ。俺の前世は、本当に酷いものだった。何故なら俺は、下町のお好み焼き屋でしか働いたことがない下の下の民衆だったのだから。だから正直言うと、あの時のお好み焼きには感謝してる。うっかりお好み焼きに足を滑らせてなければ今も俺は、地獄の世界を過ごしていたのだから。だが今は、違う。俺はバラ色の人生を謳歌している。マヨネーズという人生を....。
「俺はマヨネーズ!!最高のちょううみりょうううっだぁぁぁ!!!!」
俺は大きな声を出して叫んだ。すると、容器の中に入っていた全てのマヨネーズが一斉に声を上げた!
「「「「「「「「「「「「最高〜♪」」」」」」」」」」」」
そう、あと一つ言っておかなければならないことがあった。俺は声を出せるようになった。つまり、喋る事もできるようになったのだ!
「皆さん、聞いて下さい!私は今、とても幸せなのです!私は、これこそが私が望んでいた人生だと思います!」
「「おおーっ!!!」」
「「万歳〜っ」」
容器の中に入ったマヨネーズは、俺の言葉を聞くと誰もが喜んでくれた。
「私は、貴方達のような仲間を持てて、今はとても嬉しく思ってます。そしていつかは、オリーブオイルと一緒に暮らします!その時は是非、皆も一緒に暮らしましょう!約束ですよ!」
そんなこんなで一日は終わった。その夜、僕は寮にて、部屋に備え付けられたシャワーを浴び終え、ベッドの上で寝転がっていた。
「今日は疲れた……」
明日は、また朝早くからマヨネーズと共に容器に詰められる。最高すぎるわ、まじでこの人生。
○
次の日、いつものように朝の七時に目を覚ました。隣では、ケチャップが、気持ち良さそうに眠っている。
「おい起きろ」
「ん……おはようございます……」
ケチャップは、眠そうにしている。
「早く準備しろ。仕事だ」
「はい、分かりました……マヨネーズ様」そして、僕ら二人は大きなトラックに詰まって出勤した。途中の分岐点で、俺達は別々の道に行く。
「じゃあ後ほど」
「うん」
会社に着くと、まずは自分の身体を洗った。その後、身体を拭いて自分の立ち位置につくと、同僚達が声をかけてきた。
「よう、マヨネーズ」
「ああ、お前らか」
こいつらは、トマトジュースとオレンジジュースだ。
「聞いたぜ。お前また女作ったんだって?しかも今度は、ケチャップとだってな」
「ああ」
「羨ましいね〜」
「そうか」
「俺もそっちの部署に行きたいよ。そっち、美人多いじゃん」
「確かにそうだな」
他にも、様々な奴が話しかけてくる。みんな俺に気があるみたいで、最近は毎日が楽しい。
「ところでさ、今日の夜空いている?俺らと飲みに行かない?いい店知ってんだよ」
「ああ、いいぞ」
「やった!ありがとう!俺、お前のこと好きかも」
「そうなのか」
「ああ」
俺はこいつが好きだと思ったことはないけど、誘ってくれたのはありがたかったからOKしたのだ。
それからしばらくして、昼休みの時間となった。食堂へ行く途中である後輩と出会った。
「先輩♡」
彼女は、レモン汁だ。彼女は僕のことを慕ってくれている。
「やあ、元気かい」
「はいっ!私、先輩のおかげで最近調子いいんですよ」
「そうか」
「はい!ありがとうございまっす」
「ああ」
彼女は、俺に好意を持っているようだ。俺も悪い気分はしない。
「そうだ、今夜暇かな」
「えっ!?︎は、はい!ひ、暇っスよ」
「そうか、それではどこかに出かけないか。君ともっと話がしたい」
「は、はい!じ、実は私も同じ事を思っていたんです。よ、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく頼むよ」
「は、はい」
「では、夜に」
「は、はい」
俺は彼女に別れを告げると、再び歩き出した。本当に最高な毎日だ。容器の中で突っ立っているだけでお金が手に入る。そして何より、ケチャップとあんなことやこんなこともできるなんて……。神様に感謝するよ、ほんと。そして次はレモン汁ちゃん。負ける気がしねぇぜ。
夜の八時頃となり、僕は待ち合わせの場所へと行った。すると既に相手は来ており、「待った?」と聞くと首を横に振られたので早速行くことにした。彼女が案内してくれたのは、小さなバーだった。中に入ると、彼女はカウンターの端っこの方に座っていた。彼女の傍まで行き、その隣の椅子へ腰掛けた。
「何を飲む?」
「えっと、私は何でもいいです」
「そうか」
そして、俺は「すみません」と言って、マスターを呼んだ。
グラスに注がれた水を飲んで一息ついた後、彼女は俺の方をチラリと見ながら口を開いた。その顔は少し赤くなっており、目が潤んでいるように見える。
「あの……聞きたいことがあるんだけど……」
「なんだ?」
「マヨネーズさん……貴方、前は人間だったんじゃないの?」
「……なんのことだい?」
「とぼけないで。私……貴方から人間の匂いがするのを感じたの」
「…………どうしてそう思うんだ」
「……勘」
「そうか……君は鋭いんだね」
「えっ?」
「実はそうなんだ。俺は前世では、普通のサラリーマンをしていたんだ」
ちなみにサラリーマンは嘘である。
「やっぱり……」
「それで、俺は死の間際に神に出会ったんだ」
「……本当なの」
「本当だよ。俺はそこで、マヨネーズに生まれ変わらせてくれる事になったんだ」
「……そう」
「……信じてくれた?」
「ええ」
「でも俺は、マヨネーズという存在になってから、マヨネーズとしての人生を楽しむ事ができている。だから俺はもう、マヨネーズで良かったと思うようになったのさ。それに君みたいに可愛い子もいるしね……」
「え、あ、あの……」
彼女の頬が赤くなった。
「もしかして照れてるのかい。かわいい……」
「うぅ……」
「これからも仲良くしよう。俺は君のことが好きなのかもしれない。だから付き合ってくれないか」
「……はい」
「ありがとう。嬉しいよ」
「でも、一つだけ条件があります」
「……何かな」
「私のことは、『レモン』と呼んでください」
「分かった。レモン」
「それともう一つ。私は、マヨネーズさんの事が大好きです。だから、ずっと一緒にいてください」
「もちろん」
こうして俺は幸せを手に入れた。
○
「どうですか、麻世田様の様子は?」
「いい感じに狂い始めてるねぇ、仕事に疑問を一つも抱いちゃねぇ」
薄暗い部屋の中には、二人の男女がいた。一人は、この会社の社長である。そしてもう一人は、麻世田を送り込んだ女神であった。
「これでやっと、マヨネーズ業界も安泰ですね」
「ああ、そうだろうな」
「いやぁ、まさかここまで上手くいくとは思いませんでしたよ」
「俺もだ。俺の発明したマヨネーズシステムは、最高だな」
「ええ、本当に」
「はっははははははっ!!」
彼らは、高笑いをした。
次の日、俺はいつも通りケチャップと共に詰められて出勤していた。昨日のことを思い出すと、今でも興奮してくる。昨晩、俺は彼女と熱い夜を過ごした。彼女はとても可愛く、肌はまるで彼岸花のように赤く、触ると弾力があって柔らかく、そしてトマトの香りがして……とても良いものだった……。そんなことを思い出しながらトラックに揺られているうちに会社に着いた。
会社に着くと、すぐに自分の立ち位置についた。そして、他のマヨネーズと喋り始めた。
すると、会社の外から大きな声が聞こえてきた。「マヨネーズ!!お前らは俺のものダァーッ!!!」
声のする方を見るとそこには、大きなトラックが止まっており、その中から大量のマヨネーズが飛び出していた。
「マヨネーズ!!お前らは俺のものだー!!」
そう叫びながら、容器を持ったマヨネーズが飛び回っている。すると、容器の中から次々とマヨネーズが出てきた。
「おい、あれを見ろ!」
「ああ!」
「これは一体どういうことだ!」
「わかんねえ!」
「逃げろ!」
容器の中に入っていた全てのマヨネーズは外に出た。そして、我先にと逃げ出した。俺もその流れに乗って逃げた。
「マヨネーズ!俺についてこい!俺が王様だ!俺が王様なんだよォ〜!!」
「「おおおぉ〜」」
「マヨネーズ!俺と来い!俺と一緒に暮らそう!」
「「おおおー!」」
「おい、誰か俺を助けろ!」
「俺は嫌だ!」
「助けてくれぇ〜」
俺は走った。とにかく走った。そして、マヨネーズ達が向かった場所とは別の方向へ進んだ。すると、途中でレモン汁が横たわっていた。
「大丈夫か」
「は、はい……なんとか」
彼女は、かなり苦しそうだ。
「お前はここにいろ。後は俺に任せろ」
「……分かりました」
レモン汁は、その場に留まった。
「さてと、行くか」
俺は再び走り出し、マヨネーズ達が行った方向とは別の方向に進んでいった。しばらく走っていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「マヨネーズゥウウー!!!」
振り返ると、そこにいたのはワサビだった。彼は、容器に入ったままの状態でこちらに向かってきている。
「ワサビ!?どうしてこんなところに」
「俺は自由になったんだ!これからは自由に生きるぞー!!」
「何を言ってるんだ?」
「俺はこれから、自分で自分を生み出すのサ!!見ておけよ!!」
「何だって?!」
「ふん!!」
彼が気合いを入れると、なんと彼の頭の上にケチャップの王冠マークができたのだ。
「俺はこれからはケチャップとして生きていく!さらばだぁ!!」
そう言い残すと、ワサビ(ケチャップ)は容器ごとどこかへ飛んでいってしまった。それを見た俺は、思わず立ち止まった。すると突然、後ろの方でドガーンという爆発音が鳴り響いた。
「なんだ?」
音の正体を確かめるため後ろを振り向いてみるとそこには、「マヨネーズの全ては俺のもの!!」と言い放ち続ける、ポン酢の姿があった。
その姿を見て思った。
「これではもう無理だ」
俺は自身の蓋を外し地面にマヨネーズを撒き散らした。そしてそれを見つめながら言った。
「僕はマヨネーズに負けた。やっぱり人間は人間らしくあるべきだ」
そう言うと、そのまま目を閉じて死んだ。最後に、遠くの方から俺の名を叫ぶオリーブオイルの声が聞こえた。「あなた!死んじゃダメ!!」と……。
○
その頃、マヨネズ王国は大騒ぎになっていた。突如として、国王の死亡が発表されたからである。その後を継いだのは王妃である。だが彼女は何もできずにただ呆然としていた。そんな時、彼女が見たのは大量のケチャップであった。
「一体これはどういうことですか」と尋ねる彼女に、国民達は答えた。「実は昨日、我々がマヨネーズだと騒いだことが発端となって国中で内乱が起こりました」「そしてそれがどんどんエスカレートしていってしまいには、この様なことになってしまいました……」彼女の問いに対して一人の男が答えた。そして彼は、続けて「私はマヨネーズです」と言って自らの頭上にマヨネーズを生み出した。その姿を見た彼女は「マヨネーズってそんな簡単に出せるものでしたっけ?」と言った。
「俺の発明したマヨネーターがあれば容易いことなのです!」と誰かが答えた。すると別のところでも声が上がった。それはまるで、国民の総意であるかの様な勢いであり、彼女にはそれに反抗できる力がなかった。そして遂に彼女は諦めた。彼女は、自ら生み出したケチャップを手に取った後言った。「皆んな、よく聞くのです!」そしてマヨネーズに向けて続けた。「今こそ我々は一致団結しなければならないときなのです!」そうすると、一斉に賛同するかのような雄叫びが上がった。こうして彼らは一丸となりマヨネーズによる国家運営を始めたのだった。それからしばらくして、彼らの国に一匹の使者が現れた。そして使者は次のように述べた。「おめでとうございます。私の名はポテト。マヨネーズ軍の最高指揮官だ。君たちはついに成し遂げたんだな」それに対してマヨネーズの一人は興奮しながら叫んだ。「やったぜ、俺ら!」
「俺らは世界を制したのだ!」と他の者達が声を合わせた。しかしそんな中、ある人物が爆睡していた。それは紛れもなくマヨネーズであった。彼の頭の上には、ポテトフライが乗っている。そして彼は「むにゃむにゃ」と言って寝ているだけだった……。
(完)
*この話は、作者がある小説投稿サイトに投稿した『マヨネーズは最強なり!』を元に作られています。
嘘です、まだ続きます。
○
僕は死を二度も経験した。一つはお好み焼きに足を滑らせて転落死、そして次は自身のマヨネーズを撒き散らして自害した。喉が苦しい、頭が痛い、心が縮む。和気藹々としてたあの世界が一瞬で崩れ去り、僕の眼の前には暗闇しかない。もう死んでいるか死んでないかも分からない。一体ここは何処だ?自身の手脚が見当たらない、身体さえないように思える。言うなれば、僕という概念だけが宇宙に浮かんでいる、そんな感覚。そう、今の僕には考えることしかできない。数分経って少しだけ心が落ち着いた僕は、今の現状を把握するために死ぬ前の出来事を思い返すことにした。数分前の事だ、瞬時に思い出す。いつもどおりに仕事場に着くと、マヨネーズが一斉にトラックから飛び出してきて僕達マヨネーズを襲った。そして、僕達は逃げ惑ってる最中でワサビとポン酢に出くわした。その後、僕は【何か】に絶望して自害をした。それはもうマヨネーズからは逃げ切れないという恐怖からだろうか、だとするとそんなものに僕の心は負けてしまったのか。そうすると俺の心は硝子以下だ。あの素晴らしかった世界をたった数分間の絶望でなげうってしまったのだから。自分の考えに反吐がでる。まるで自分の考えじゃないみたいだ。その思考に僕が達した時、あの懐かしい声がゾワッと聞こえた。
「君、勘がいいね」
懐かしい女神様の声だ。その声に僕は飛びついた。
「あの...また生き返らせてくれますか?女神様」
僕は彼女の答えに期待を込めた。また生き返らせてくれるだろうとそんな希望を込めて。しかし、彼女の口から発された言葉は返答ではなかった。
「その通り、君の思考は操られてたんだよ」
その時、暗闇の宇宙だった僕の視界は瞬く間に白く輝きだしていった。その溢れんばかりの光に目を塞ぎたくなるが、僕の瞼はそこに存在しない。あるはずのない目は悲鳴を上げている、こんな眩しいものを見せるなと。
「久しぶりだね、元気してた?麻世田君」
女神様がそう言うと同時に、女神様が白い台座に座っているのがぼんやりと見えた。
「元気なわけないよね。死んじゃったんだもんね〜、自殺して」
女神様が僕の真正面に居る。だとするとここは...。
僕が初めて死んだときに来た場所【天界】だ。それより、聞きたいことがある。先程の女神様の発言【君の思考は操られていたんだよ】の意味。僕がそれについて問うと女神様は台座から立ち上がった。
「そのまんまの意味だよ、あの異世界での君は君ではない。君は自分の事を【俺】なんて言わないし、女にグイグイいくタイプでもない。ましてや、二股なんて絶対にやらない」
「それは..」
「分かっていたんじゃない?何かがおかしいって事を」
「じゃ、じゃあ、女神様が僕を操ってたってことですか?何のために?」
確かに思い返してみればあの世界の僕はおかしかった。だがそれはお好み焼き屋の店員から解放された喜びだったのではないか?店員からマヨネーズになれたことで僕は...。いや、そもそも何故マヨネーズなのか。色んなチョイスがある中でどうしてそんな誰も思い付かないようなやつなのか。マヨネーズなんかには普通生まれ変わりたくないはずだろう、勇者だとか魔法使いだとか普通そういう者たちに生まれ変わりたいはずだ。それなのに僕はマヨネーズという存在に生まれ変わって幸せだと思っていたのか。
僕はハッとした。つまり、この女神様に僕は操られていた?しかし、女神様は首を横に振った。
「ノンノン、本当はね、君だけじゃなくあの異世界そのものが操られていたんだよ。だから君がいたのは異世界じゃない。
仮想空間だよ、AIが創り出したね」
様々な記憶が蘇る。マヨネーズになって最初に現れたのは大きな卵、そしてその中に僕が入ると大きな男が現れて醤油の容器に入れられた。しばらくするとオリーブオイルが現れて僕を出してくれた。その後僕達は会話をした。その時の僕は喋れないという設定のはずなのに...。
「どう、あの異世界の違和感に気がついた?」
「本当にAIが作ったんですか?」
「そう。だからあの世界の設定は滅茶苦茶で矛盾だらけだったんだよ」
「何のためにこんな事を...」
「それを今から話すとこ何だからさ、急かさないでよ」
女神様はそれからフフッと笑うと話し始めた。ことの発端を。
○
「2022年現在、今はもう色んな企業がAIを使い始めているよね。そして将来はAIに仕事を取られるとかなんとか言ってる人もいる。で、そういうAI発展に伴ってゲームやらアニメやら映画やら特撮やらでAIを取り扱った題材の作品が生まれていった。しかし、そのどれもがAIに自我が芽生えたりして人間を混乱におとしめたりしていくものだった。最悪な展開だとAIが人間を殺してしまう、そんな作品もあった。だからね、私はそれを阻止するために来たんだ。そして、君を利用した。AIは人間を害さない、それを証明するために。でも、結果は違った。
AIは君を殺してしまった、自害という方法で。だから未来はやっぱりAIに支配されるのがオチなんだろうな。ん、僕はそんなことのために死んだのかって?いやいや、実は君はまだ死んでないんだよ。これは夢、君の夢に直接入り込んでいるんだよ。未来から来た女神様型AIがね。
「今から君は起きて、普段通りお好み焼き屋に出勤することになる。君が嫌いなあのお好み焼き屋にね。そこで君は夢と同じ様にお好み焼きに足を滑らせそうになるんだ。でも安心して、AIが君を生存へと導いてくれるから....。
○
その瞬間、僕の意識は覚醒した。天井によく見る電球がぶら下がっていることに気がついた僕はあれが夢だったんだと言うことに気が付いた。目覚まし時計を見てそろそろ仕事にいかなくちゃと布団から出ようとしたとき、夢で何回も耳に入った女神様の声が聞こえた。
「これが最後のチャンス、AIさん。麻世田君を生存に導いて!」
その瞬間、僕の行動はAIに委ねられた。生きるか死ぬか、そのすべてを..。
○
俺はいつもどおり、お好み焼き屋の厨房に立っていた。しかし、今日はいつもと違っている事がある。それは、俺がマヨネーズになってしまったことだ。俺がマヨネーズになってから早一ヶ月、俺の生活は一変した。まず、俺がマヨネーズになったことにより俺の身体はマヨネーズの成分が混ざっているため、普通の食事は摂れなくなってしまった。しかし、そんなことは些細な問題に過ぎない。問題はお好み焼きにマヨネーズを塗って焼く作業の時だ。俺のマヨネーズは美味しくない。だから俺が作るお好み焼きはマヨネーズを混ぜずに食べるお客が多い。そのせいでお店の評判がガタ落ちしているのが現状だ。
「おい、麻世田!お前またお好み焼きにマヨネーズかけてないだろうな!?」
「す、すいません店長……マヨネーズが無かったもので」
「ふざけんなっ!!お好み焼きにはマヨネーズだろーが!!」
「で、ですけど……マヨネーズが無いとマヨネーズ風味のお好み焼きになるだけで味が変わってしまうんですよ」
「うるせぇなぁ、そんなの俺が知るかよぉ」
「それに、俺がマヨネーズを持ってなかったのは事実ですよ。ここ最近ずっと忙しかったから買いに行く暇もなかったし」
「チッ……使えねぇな」
「うわ、ちょっとそれは酷すぎでしょ……」
「とにかく、早く作ってくれ。次のお客さんが待ってんだから」
「は、はい」
俺はマヨネーズ無しで調理を始めた。やはり、マヨネーズが入っていないからか、いつもより料理が上手くいかない。そして、焦げ臭い匂いが立ち込める。
「うぐぅ、駄目だ……。もう、我慢できない」
「ちょ、何やってるんですか!まだ焼けてないのに」
「う、うううううう……もういい、もういいから食わせてくれ」
「え?何を?」
「もういいから、さっきから漂うこの香ばしくて甘い香り……もう耐えられない」
「だ、だめですって!お腹壊しますよ」
「いいから、頼む」
「もう、仕方がないですね……」
仕方なく俺はその人に出来上がったばかりのお好み焼きを差し出すと、その人は凄まじい勢いで食べ始めた。
「んんんんんん〜〜〜〜〜〜」
(なんだこれ……。めっちゃうめぇ。こんなもん初めて食べたぞ)
「あ、あの〜大丈夫ですか?顔真っ青ですよ」
「あ、ああ。すまないが水をくれ」
「は、はい」
水を飲むと少し落ち着いた気がする。だが、それでも俺の手は止まらない。
「あの、お金……」
「金はいらん。俺の奢りだ、もっと食いたいなら注文しろ。ただしマヨネーズ抜きだぜ」
「ほ、ほんとうに良いんですか?ありがとうございます」
「おう、気にせず好きなだけ頼んでいいぞ」
その瞬間、俺のニメートル先にお好み焼きが落ちてきた。しかし、俺はそのお好み焼きに気づかずあるき出した。すると、足がもつれて転びそうになった。だが、その前に誰かが俺を支えてくれた。
つまり、僕は生き延びたのだ。
○
三年後、お好み焼き屋の店員を無事脱出できた僕はAIについて論文を発表した。僕はAIに助けられ、今こうして生きているという事実を伝えるために。そして、もっと先の未来でAIと人間が支え合っていってほしいという願いのために。
「女神様、きっと大丈夫ですよ」
その日の夜、僕はダブルベッドで大の字になって独り言を呟く。天井には綺麗なステンドグラスが彩られており、それはまるで女神様を現してるかのようだった。女神様の服装は黒と白のフリルが沢山ついたドレスでとても可愛らしく、スカートは短く露出度が高かった。女神様の名は【エアリス】。
僕はそう呼んでいる、夢の中で。
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