第2話 早津馬との出会い

 「こんな霧見たことないなー」さっき【窓】で見てめぼしをつけていた人の一人言だった。「危なかった。出てきたところがずれていてよかった。こんな不自然な霧から出てくるところを見られていたら…」求美がそう思いながらその人を見ていると目があった。これは「チャンス」と思い声をかけようとしたその時、その人から先に話しかけられた。「小さな雲みたいな変な霧ですよねー、あなたが作ったんですか?」求美が「これはまずい、見られてたのか」と焦り返事ができないでいると「もちろん冗談ですよ、変なこと言ってすみません」と笑った。求美がほっとしていると求美の後ろに隠れていた華菜が「あのスッピンハゲのせいだ」とつぶやいた。その言葉が聞こえたようで「スッピンハゲ?」とその人が求美に聞いてきた。「華菜のやつこんな時に何を言ってるの…」と思いながら「さっきまで知り合いの人のことを二人で話してたんですよ」と言い、自分の後ろに隠れている華菜を手で自分の前に押し出し「この子、華菜っていうんですけどその人のハゲかたがスッピンみたいだからスッピンハゲって呼ぶんです」と半分だけ嘘をついた。確かに丸顔神はハゲていたからだ。「スッピンハゲかー、どんなハゲかたをしてるか分かるし、うまい表現だなー」と感心するおじさんを気に入った華菜がおじさんのすぐ横に並び「私、華菜っていいます。名前を教えてください」と求美がどう会話の糸口を作ろうか悩んでいたのが馬鹿みたいにあっさり会話が始まった。「こんなことってあるんだねー。最初二人を見た時から凄い美少女だなーと思ってたから、こんなじじいでも話くらいしたいなと思ったんだけど、声をかけたら変態呼ばわりされると思って、でも今出てる変な霧のことだったらそう思われないだろうと思って、やっと声をかけられたんだ。まさかこんなに凄い美少女の方から名前を聞いてくれるとは、あの変な霧のおかげだなー」と言った。凄い美少女と言われたことが嬉しくて「そんなー、美少女じゃないですよー」と言いながらも顔はニコニコだった。「あのスッピンハゲのやつ変な霧を出して…と思ってたけど、会話につながるとは」と思った求美の脳裏に丸顔神のニヤついた顔が浮かんできた。なんとも微妙な気分になった。「俺の名前は星鷹早津馬、あなたが華菜さんであなたの名前は?」と華菜と求美の顔を順番に見ながら聞いてきた。「私は求美です。白金求美」と名乗ると早津馬が「お似合いのいい名前ですねー」と言うのでお世辞と分かっていながら求美が照れているといつの間にか華菜が早津馬の横から消えていた。まわりを見ると華菜はすぐに見つかった。変な霧が消えたあと見えるようになった殺生石をバックに写真を撮っているグループの背後に立っていた。そして背後霊に変身していた。「これはまずい」と思った求美だが、大声で呼ぶと背後霊姿の華菜を見られかえって悪い結果になるので、「早津馬さんさえ見ていなければ」と祈る思いで早津馬を見ると早津馬は殺生石をじっと見ていた。「助かった」求美がそう思って胸をなで下ろしていると早津馬が「なんで割れたんでしょうね?」と求美に問いかけてきた。本当のことを言うわけにいかないので「どうしてでしょうねー」と求美がとぼけていると写真を撮っていたグループから悲鳴が聞こえてきた。そして殺生石を背に駐車場に向かって走りだしていた。撮った写真を確認していて華菜が変身していた背後霊に気がついたようだ。華菜はいつの間にか求美のところに戻っていてニヤニヤしていた。「なにがあったんでしょうね?殺生石が割れたのと関係あるんですかねー」と言う早津馬に「なぜなんでしょうねー」と求美がまたとぼけた。「私疑われているのかな」と思う反面「疑っていたら違う聞き方するよな」とも思う求美だった。早津馬が「なごり惜しいんだけど、そろそろ東京に戻ろうと思うんだ」と言った。「東京」と聞いた求美と華菜が顔を見合わせニンマリし、求美が「車で来てるんですか?」と聞くと早津馬が「うん、そうだけど」と答えた。すかさず華菜が「東京に行きたーい」とお得意の下から目線で早津馬に訴えると求美も「東京に行きたいので乗せてもらえると助かります」と続けた。元々二人を誘いたいくらいの早津馬だったので嬉しさを隠しきれないまま「一人より話し相手がいる方が楽しいからいいですよ」と答えて二人を促すようにして駐車場に向かった。先導する早津馬の後ろで求美が華菜を叱っていた。もちろん背後霊に変身し人間を脅かしたことである。華菜はというと一応謝りながらも面白くてやめられないようすだった。駐車場に着き一番手前のワンボックスカーのドアロックを解除した早津馬がスライドドアを開け二人に乗るように促すと求美が「私、助手席がいいです」と妖怪らしくない気づかいをみせた。嬉しすぎる早津馬が急いで助手席のドアを開けて「どうぞ」と声をかけたが顔が完全に緩みきっていた。しかしよくよく見ると求美のようすがおかしい。さっきのは気づかいでなく早津馬に一目ぼれしていたのか。初老の早津馬のどこがなにが気に入ったのだろう。妖怪の気持ちは分からない。いつの間にか早津馬の顔を直視できなくなっていた求美がうつむきながら助手席におさまった。

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