妖怪・求美の狐対艶狸
奈平京和
第1話 拘束からの解放
春というにはまだ早すぎるある真夜中、殺生石の中から話し声が響いていた。その正体は悪狐として殺生石に変えられたことになっている九尾の狐が人間の姿に化けた求美と、求美が何の神か分からず顔が丸いので勝手に名づけた「丸顔神」との言い争いだった。殺生石に変えられたはずなのになぜ殺生石の中にいるのか?それは求美がこれまでに犯した罪を認めないうえ、確たる証拠も出てこず、かといって他の神様のてまえそのままにしておく訳にもいかず、殺生石に変えたことにして丸顔神がそのばしのぎをしていたためだった。
「何だよ、この不味いお茶は」と丸顔神が怒っていた。「いつまでも私をこんな所に閉じ込めておくからよ」と返す求美に「しょうがないじゃないか、私も忙しいし立場があるし」と丸顔神「私、知ってますからね、忙しいのは毎日キャバクラ通いしてるからだって、その時々の流行にのっかって何千年女遊びすりゃ気がすむのよ」と言う求美に図星の丸顔神が絶句し、心の中で「誰が教えるんだよ閉じ込められてるやつに余計なことを」と、思っていると求美が更に続けて「私、もう何百年もここにいるんだよ、いいかげん出してよもう」と言った。「もうもうって、お前は牛か、狐だろ」と言った後少し考えた丸顔神が「うーん、そうだな、お前の悪行もみんな忘れた頃だろうから、もう いいか」と言うと求美が「だからあれは私がやったんじゃないって言ってるじゃない、あれは…」と続けようとする求美をさえぎり丸顔神が「六足狸の飛蝶がやったって言うんだろう、だけど残ってる証拠を見る限りオメーがやったとしか思えねーだろうが…。まあ捏造の可能性も否定はできねえけど」「神様でいらっしゃるのにその言葉使いはいかがなものでしょうか」と丁寧な言葉使いで抗議する求美を無視し丸顔神が「それにしてもいつの間にこんなに部屋を広げたんだ、いくらこの石が巨大な岩を神通力で小さくした石で、実際の大きさが巨大であってもやりすぎだろ…、この石割れないか心配だなー」と話を変えた。すると「割れないか心配?ああそれでヒビが入ったのか」と求美、「お前この石にヒビを?」とあわてる丸顔神に求美が「でも気がついてないようだから教えてあげるけど、さっき私が入れたお茶を飲んで不味いって怒った時割れたよこの石。さすが神の力はすごいなと思ったんだけど」と求美。「えっ」と言って周囲を見回した丸顔神、後ろがなくなっているのに気づき「どうりでやたら寒いと思った。あっ片割れがあんな先に…。まずい、このことを天上界に知られたら…」とつぶやいた後「ヒビを入れたのはお前なんだからこれ、お前がやったことにしてくれないか」と頼んだ。「いやです、ヒビは入れましたが割ったのは私じゃないですから」と言う求美に更に頼むこともなくあっさり引き下がり「やっぱりな」とつぶやいた丸顔神、しばらく考えた後「俺、ここに住む、当分天上界に戻らないから」と言った。「神様が俺って、キャバクラ通いしすぎてるからよ。それに丸顔神、男でしょ、男と一緒に暮らすなんて嫌、うら若き乙女なんだから」と求美が言うと「うら若き乙女、って何歳だよ。何百万年も生きてるくせに、それにお前、俺のこと丸顔って呼んでるのか?」と聞く丸顔神に求美が「あっ、ばれた。でもどこからどう見ても私、美少女でしょ」と言うと丸顔神が「お前は妖怪だからな」と返した。場の雰囲気がまた悪くなりかけた時、求美が「さっき、もういいか、って言ったよね、私ここを出るわ、それで全て解決」と言うと丸顔神がちょっと考えた後「代わりに俺がここにいて様子を見てればいいか…。まあしょうがないか」と言った。「ありがとう、ありがとう」と求美、和やかな雰囲気になった。「それで割れたのどうするの?」と聞く求美に急に改まった丸顔神が「私を誰だと思っている。神である。人間にはこの部屋が見えずただ割れただけとしか分からないようにするから大丈夫だ」と言った後、何やら戦隊ヒーローのような動きとともに「はっ」と声を発すると壁のようなものが出来、外が見えなくなった。驚いた求美が思わず拍手すると「簡単だよ」と丸顔神が誇らしげに言ったので、カチンときた求美が「元には戻せないんだ」と聞くと「戻せないことはないけど今ちょっと時間がないから」と苦しい言い訳をし天を、ではなく天井を仰ぐ丸顔神がいた。「ふ~ん」と信じていないのに信じたそぶりだけ見せ、さっそく殺生石から出る支度を始める求美に「そんなに急がなくてもいいじゃないか」と丸顔神、「さっきの口直しにおいしいお茶を入れてくれよ」と続けた。「お茶、欲しいですか?」と聞く求美に素直に「喉がかわいてるからな」と丸顔神が答えると「えらそうに言わないで最初からそう言えば煮詰めたセンブリ茶なんか出さないのに」と求美が答えると「煮詰めたセンブリ茶、だからあんなに強烈な味が…」と丸顔神が絶句していると笑顔で求美が「はい、どうぞ」とお茶を丸顔神の前のテーブルに置いた。「笑顔が気になるな」と顔をじっと見てくる丸顔神に「せっかく出られることになったのに丸ちゃんの気が変わるようなことしませんよ」と求美、「丸ちゃんに変わったか、まあいいだろう」と言ってお茶をひとくち飲んだ丸顔神が「さっきみたいにクソ不味くはないけど、なんか変わった味のお茶だなあ」と言うと求美が「熊笹で作ったお茶ですからね」と答えた。「お前、やっぱり気がついていたか。お前なら言わなくても気がつくと思ってこっそり隠し扉をつけておいてよかった。外に出られれば少しは退屈しのぎができると思ったんだ。それでこのお茶の材料の熊笹はどこから取ってきたんだ」と言う丸顔神に求美が「隠し扉…あああれ、何百年も時間があったんだから誰でも気がつくと思うけど…、熊笹はどこからなのかなぁ、華菜が取ってきたからどこか知らないけど」と言った後、心に念じるように「華菜、熊笹はどこから取ってきたの?」と声をかけると後ろの方からオナラのような変な声が返ってきた。それは人間に化けている時は見えない求美の九本ある尻尾のなかの真ん中の尻尾で、求美と合体している時の華菜の声だった。「どこからだったかなあ、だいぶ前なんで忘れたなあ」と言った。そして続けて「どこだっていいじゃん」やっと聞こえる程度の小さな声で華菜がぽつりと言うと丸顔神が「確かにそうだ、話しの流れで聞いてみただけ…って、えっ…、華菜って誰だ?」と求美に聞くと「あれ!知らなかった?私の尻尾の秘密、私と一体であって一体でない…、運命共同体とでもいうのかな…、うーん私にもよく分かんないけど、その中で一番能力が高い子が華菜なんだ。神様なのに分からなかったかー」と言われた丸顔神、一言返すかと思いきや聞こえなかったふりで「でも隠し扉から出入りしてたんならお茶でもコーヒーでも手に入っただろう。なんで手間ひまかかるのに熊笹茶なんか作って飲んでたんだ?」と返した。求美が「私、無駄遣いはしないので、いいお嫁さんになれそうです」と言うと丸顔神が「妖怪がいいお嫁さん?まさか人間をだますつもりじゃないだろうな」と真偽を確かめるように求美の顔をまた覗き込んだ。「こんな姿に生まれてきてしまったけど心は人間の女です。結婚するときは本当のことを伝えてそれでもいいという人とするので大丈夫です」とやや怒った表情で言う求美にさらに火に油を注ぐように丸顔神が「なんかオカマみたいなこと言ってるな」と言った後、求美の表情の変化に気がつき慌てて「人間の時のお前は超美少女だから大丈夫だと思うよ」と言うと求美が「オカマ?今頃そんな言い方する人いないですよ。遅れてるなぁ。まあそれはさておき自分で言うのもなんですけど、私かつて玉藻の前と呼ばれていた頃、言い寄ってくる男性達をさばくのが大変だったんですからね。そしてこの姿、人間でいる時の本当の姿で化けてる訳じゃないですから」と言った。「性同一性障害とか言うんだろ、それよりオカマって言ったほうが言いやすいし、分かりやすいだろ。それはそうとしてお前は人間なのか、狐だろ。それも特殊な。だったら化けてるんだろうが」と丸顔神が言うと求美が「そこが間違いなんです、認識不足なんです。私の心は真から人間なんです。見た目が狐でも人間なんです。神なら理解できるはずだと思うんですけど…」と言われた丸顔神、理解できないというと求美に馬鹿にされそうな気がして、納得していないのに「分かるよ」と言ってしまった。それに気を良くした求美は「なので私は街に出ます」と宣言した。「お前本当に男探しに行くのか?」と聞く丸顔神に求美が「いずれは…、でもその前にやることがあります」と言った。「やること?それは何だ?」と聞く丸顔神に求美が「決まってるじゃないですか、私の身の潔白を証明するんです。飛蝶と対決しに東京に行きます」と答えた。「東京?飛蝶は東京にいるのか?どうやって調べた?」予期しない求美の答えに驚いた丸顔神が投げかけた質問を無視し、ふたたび求美が「私、東京に行きます」とだけ答えた。「じゃ、後はよろしくお願いします。」と言ってリュックを背負い、丸顔神に笑顔を残して求美が隠し扉から出て行こうとすると、丸顔神が「ちょっと待て、私も神である。この件に関してはうすうすおかしいと思っていた。お前のその性格であんな悪質なことはできないと思っていた。そして今それを確信した。だから手伝ってあげたいが私も忙しい。自分でかたをつけなさい」と言った。「最初からそのつもりですけど」と言う求美に丸顔神が「今まで閉じ込めてしまっていたかわりといってはなんだが、これをあげよう」と求美の前に竹刀をさしだした。「私が剣術が得意なこと知ってたんだ、うれしい」と言って竹刀を受け取ろうとした求美は思わず手を引っ込めた。「すっごい汚いんですけど」と求美が言うと丸顔神が「わかったきれいにしてあげるから」と言って竹刀を一振りすると新品のようになった。「わー綺麗、って何を言わせるんですか…、ところでこの竹刀なぜくれるんですか?よくよく考えると旅のじゃまなんですけど」と求美が聞くと丸顔神が「気を悪くしないで聞いてほしいんだけど、今回の悪行の件調べているうちに入ってきた情報の中に、飛蝶とお前が戦ったっていうのもあったんだ。お前飛蝶に負けたみたいだな。神通力で守られたこの殺生石の中にいるうちは飛蝶もお前に手を出せないが、これからはいつどこから襲われるか分からない。だからこれで身を守るようにということだ」と丸顔神が言うと求美が「油断してたからですよ。簡単な相手じゃないことは分かってますけど勝てない相手じゃないので大丈夫、実際トドメをさされそうになったけど逃げきりましたのでご心配なく。それにこんな竹刀でどうやって身を守るんですか?」と聞いた。すると丸顔神が「そう言うと思った。見かけは普通の竹刀だからな。でもこの竹刀、持っていて損はない。特別な力を持っている。もしもの時、絶対役に立つ」「役に立つってどう役に立つんですか?」と求美に聞かれた丸顔神が、真面目な顔で「じゃ説明しよう…」と言いかけたとき求美がそれをさえぎり「特別な力があるんならその竹刀でこの石の外の様子見られますか?竹刀なんだからまあ無理ですよね」と言う求美に「もちろん見られるよ」と自慢げな顔で丸顔神が答えた。「本当!助かるー、それ以外の力は後でメモでもらえればいいので」と求美が言うと丸顔神が「お前絶対神をなめてるよな。でもなんで外を見る必要があるんだ」と聞く丸顔神に求美が「東京に行くには足が必要じゃないですか、前なら空を飛んで行けたけど、長い間閉じ込められてたせいか今は飛んで行くだけのパワーがないんです」と恨めしげな顔で丸顔神に言うと、自分にとって都合の悪いことは聞こえないふりで「そう言えば私が忙しくて見に来られないのをいいことに飛蝶のやつ、私がお前を殺生石に変えたことにしたのにそれでもまだお前が生きていると思って、お前を殺そうとこの石にさんざん毒ガスを撒いたようだ。当然外から何をしても神通力で守られてる石だから効果はないけどな。でも一歩でもこの石の外に出ればそうはいかない。だから心配なんだ。それにしてもこの周りの生き物たちには気の毒なことをしたが…」という丸顔神に「飛蝶のやつ毒ガスなんか撒いてたんだ気がつかなかったな…でもどうせその毒ガスも私が撒いたと思ってたんでしょうね」と言う求美に「すまん、その通りだ。でもその頃にはお前がやったんじゃない気がしはじめてもいて、犯人にされていることが理由で腹を立ててるんなら私にも責任があるのでどうするか悩んでいた。それでちょっと調べたら飛蝶が毒ガスを撒いたことが分かったんだ」と丸顔神。「ちょっと調べたら分かった?それなら私にかけられた悪行の疑惑もちゃんと調べてくれさえすればすぐ晴れたんじゃないですか?…」と言う求美に「あの頃は体調が悪かったしなあ」ととぼける丸顔神を見て、「何百年も体調が悪かった…、そんな訳ないでしょうが」と心の中でつぶやいた後、「私はほったらかされていたってことか、それなら特殊能力を備えた凄い竹刀とはいえもらってもいいんじゃないか」と思った求美が「そこまでおっしゃるんなら御好意を無にするわけにもいきません。いただきます」と言って竹刀を受けとり、丸顔神に深々と頭を下げた。「それで良し、じゃあその竹刀の使い方を教えよう、本物の刀になるよう念じながら一振りしてみよ」と丸顔神が言うので、求美が言われたとおり念じながら竹刀を一振りすると、竹刀が怪しく光る真剣に変わった。求美があ然としていると丸顔神が「元に戻れと念じながらもう一振りすると元の竹刀に戻る、これが基本、変わってほしいものを念じて振ればそのものに変わる。だから外を見ようと思えば見られる。なっ、役に立つだろう」と言って丸顔神がニヤリと笑った。「確かに役に…、でも卑怯じゃないかな?」と言って斜め上を見る求美に丸顔神が「そんなことない」と言おうとしたとき「そんなことないか」と自身であっさり解決した求美を見てポカンとする丸顔神がいた。「よくよく考えてみたらそもそも私1人じゃなかったっけ、華菜の他にも8人いるから私を入れて10人だったわ、もともと1対1じゃないんだからその時点で卑怯と言えば卑怯、だけど運命共同体みたいなもんだから一緒なのがあたりまえだし」と求美、「10人?ああ九尾の狐だから9本の尻尾も入れるとな」と言う丸顔神に「本で数えないでください。華菜が気を悪くします」求美のその言葉が終わるか終わらないかのうちに「じじい」という華菜のオナラのような変な声が聞こえた。その声を丸顔神が聞きのがすはずがなく「華菜とかいったな、じじいとはなんだじじいとは、神である私に対して失礼の度が過ぎる、事と場合によってはこのままではすまさんぞ」と大きな声を出すと華菜が冷静に「どうなるんですか?」と聞いた。その後の返しを考えていなかった丸顔神が言いあぐんでいると、更に落ち着き払った声で華菜が「どうなるんですか?」と少し声を大きくして繰り返した。もともと優しい性格で厳しい仕置きなどできない丸顔神が困っているのを見た求美が「やめな華菜」と言うと小さな声で「ごめんなさい」とだけ華菜が答えた。「まだ若いつもりだったから少しショックだったけどお互い何百万年も生きてるし、そういう意味じゃじじいか…」丸顔神がそう言うと求美が「どさくさにまぎれて何を言ってるんですか、あなたは何百万年じゃなくて何千万年でしょ、さばを読みすぎです。それに私は何度も生まれ変わってるので、まだまだ美少女ですからね」と返した。すると丸顔神、またかってに話題を変えて「さっきの話が途中だったな、なぜ外を見る必要があるんだ?飛んで行くパワーがないことと関係あるのか?」と求美に聞いた。求美が「さっきまでは歩いて行こうと思ったんですが大変じゃないですか。でも飛んで行けないし、そうなると誰か東京まで連れてってくれる人を探さなきゃならないじゃないですか、お金もないですし…、この石を見に来る人の中から車で来ていて、人の良さそうな人を探すのに使えればいいなと思ったんです」と答えた。「ヒッチハイクってことか、でもお前ちょっと見ただけでいい人かどうか判断できるのか?」と聞く丸顔神に求美が「玉藻の前と呼ばれていた頃、言い寄って来た男数知れず、男を見る目はあるつもりです」と言うと丸顔神が「また玉藻の前の頃の話か。他にないのか」と言ったのがまずかった。間髪入れず「あなたがここに閉じ込めたからその後何の経験もできなかったんでしょ、それをよくもまあぬけぬけと」と求美のいつもより激しい言葉が丸顔神に降り注いだ。「すまん、そうだった」と神様とは思えぬ平身低頭さで謝る丸顔神を見て逆にいたたまれなくなった求美が「こちらこそ言い過ぎました」と頭を下げた。子供のようにはにかんだ顔で丸顔神と求美が見つめあった。「これで飛蝶に勝てるのかなー」華菜がぼそっとつぶやくのもうなずける優しい光景だった。「優しいって強さの証明、だと思うから大丈夫、大丈夫」とつぶやく華菜、案外のんきな性格のようだ。その後、丸顔神とくだらない会話を続けているうちに夜が明けてきた。まだ寒い時期とはいえ、そろそろ観光客が来始める時間帯になったので、求美が丸顔神に教わったとおり「外が見られるものになれ」と念じながら竹刀を一振りすると中央に【窓】とだけ表記されている板に変わった。その板を目の前に持ってくると、その板の表面がスクリーンに変わりその先の石の外が見えはじめた。求美が「どこでも窓みたい!」と言うと華菜が「あっそうか、この作者、パクリって言われるのが嫌だったから みたい を付けたんだ」と小さな声でつぶやいた。なかなかするどい尻尾である。さすがに平日の早朝、すぐには観光客は現れなかったが日が昇るにつれちらほらと現れるようになった。でも求美の目にかなう人物はなかなか現れなかった。時折、求美にかけられる丸顔神のつまらない冗談に適当に相づちを打っているうちに集中力を途切らせ、よそ見をしていると、華菜がいつのまにか求美の体から分離し隣に座っていて【窓】を覗いていた。そして「今、変なおじさんと目があったよ」と言った。求美が少し興味を持ち「目があった?そんな馬鹿な、こっちが見えるはずないんだけど。一番手前の人?」と聞くと「違う、その先で振り返ってこっちを見てる人、絶対私達を見てる」と華菜が言った。「確かに私達を見てるみたいだね。人間に私達がと言うよりこの石の中が見えるはずないんだけどな、そうでしょ!」と丸顔神の方を見ると丸顔神はへらへらしながらグラビアらしきものを見ていた。それでもさすがに神、聞かれたことは分かっていたようで「基本的にはいない、が極々稀にいる、どれどれ…」と真面目な顔になり求美と華菜の後ろまできて二人の間から【窓】を覗きこんだ。そしてあっさり「能力があるとは思えんな。石はただ割れてるだけにしか見えないはずだし、石の表面に何か特徴があってそれでも見てるんじゃないか」と言った。「そうかなあ」求美と華菜が二人同時につぶやきながら【窓】を見続けているとそのおじさん、去ろうとしていたのをやめて石に近づいてきた。そしてつぶやいた。「なんだろう」そして首をかしげた。それを見た求美と華菜は思わず条件反射で身を伏せた。そしてその姿勢のまま様子をうかがっていると更に「なんか人の姿が見えた気がしたんだけどなあ」とつぶやいた。小さな声でも神と妖怪には十分聞こえた。二人同時に丸顔神を見て小さな声で「ほらー」と言うと丸顔神「少しは能力があるのかもな、でもこの石の中は見えてないようだからそれまでの能力、問題なし」とさらっと答えた。求美と華菜が呆れた表情で見つめあった後、求美が「何かのひょうしに見えるようになったりしたら、って考えないんですか?」と丸顔神に聞くと「考えない」とあっさり答え、続けて「私は神である。私の判断に間違いはない」とやや上の方を見ながら自信たっぷりに言った。そして丸顔神が二人を見るとすでに二人は丸顔神の話を聞いておらず、額をつき合わせ何か話をしていた。しばらく話をした後求美が丸顔神の方を見て「結論が出ました。私達あの人に決めました。車で来ているか分からないので仮ですけど」と言った。そして続けて「あの人の能力が突然開花しないか気になりますし、何より人格が…」と言いかけた時華菜が「チョロそうなので」とかぶせた。求美があわてて「いい人なのは間違いないと思いますので」とフォローしたが丸顔神は呆れた顔で華菜を見ていた。「もう明るいし人もいるし、見つからずに外に出たいので霧を出してもらえませんか?」と求美が丸顔神に頼むと「お前、自分で出せるだろう、なんで私に出させるんだ?」と丸顔神、すると求美が「私の名前漢字で書くと求める美、だから分かるでしょう。霧なんか出したらお肌が荒れちゃう」とはにかみながら言うと丸顔神、心の中で「妖怪のくせになにがお肌が荒れちゃうだよ」と思いながらも「分かった。今すぐがいいんだな」と聞くと求美が大きな声で「はい」と笑顔で答えた。丸顔神がまた戦隊ヒーローのような動きをして「はっ」と声を発した。求美が【窓】で石の外を確認するとすぐさま霧が出始め、あっという間に濃くなり何も見えなくなった。求美が丸顔神に「あの人が車で来ていたら乗せてもらうのでここには戻ってきません。今までありがとうございました」と言い、華菜の頭を手で押し下げながら自分も深々と頭を下げた。そして隠し扉から殺生石の外に出ると全く視界がないほどの濃い霧だった。それでも住み慣れた場所なので記憶を頼りに難なく殺生石の前にある柵を乗り越えた。「この霧どこまで続くんだろうね。さっきの人見つけないとね」と求美が華菜に話かけながら数歩進むと突然霧が完全に晴れた。求美と華菜は思わず顔を見合わせ二人同時に殺生石を振り返り「ばっかじゃないの…」と声を発した。振り返ったせいで霧全体が見え、それがやたら濃くてめちゃくちゃ小さいのが分かりあぜんとした。その頃殺生石の中では丸顔神がまたグラビアらしきものを見ながらへらへらしていた。求美が「こんな不自然な霧から出てきたのを見られたら…」とつぶやいたその時近くで声がした。
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