奴隷オークション 【任命】

地下牢を出た頃には夕闇の中薄っすらと月が顔を覗かせていた。


闘技場廊下もあわただしくなり、正装した盗賊がテーブルクロスや食器などをガチャガチャ運んでいる。


厨房の入り口に着くと

沢山のサービスワゴンが埋め尽くされ、その上に次々と前菜の料理が運ばれている。


「あっ!帰ってきたね!」


さっきエプロンをくれたお姉さんが僕に気づく。

衣装も変わっており調理服から白いワイシャツにスカート、胸元もガバッと開いている。

誰の趣味か一目ひとめで分かる派手ピンクのハートのブローチも付けているけど上手く着こなしている。




「君はこの汚れ物を洗い場まで持って行って、終わったらまた戻ってきてね」


キビキビと指示を出される

お姉さんはサービスワゴンを拭き、新しいクロスを掛け、手入れをしていた。




お風呂のような大きな流し場に食器を入れる。


厨房は先程よりバタバタしており

肉が焼ける音、油で揚げる音、蒸し器で蒸される煙など戦場と化していて僕が帰って来たことに誰も関心がない


再びお姉さんの所へ向かおうとすると、奥の部屋から出てきた副料理長とばったり鉢合わせる。


「おぉ少年戻ったか、暇ならこっちへ来て手伝ってくれ」


「分かりました。」


流石に副料理長の頼みが優先なはずだ。

あとに続き部屋に入っていくと


「寒っ!!」


極寒の世界!!いや極寒の小部屋か


「ハッハッハ!凄いだろこれが冷蔵室だ

部屋の壁に氷の魔石が埋められいてな

沢山食材を保管できるなんて天国みたいだろ!」


買ったばかりの玩具を自慢する子供の様だ


「はは…凄いですね…」


棚には様々な食材が分類別に分けられている。


「目的はこっちだ」


床の取手とってを引くと下へと続く階段が


「暗いから足元気をつけろよ」


薄暗い階段を降りると


凄い数のお酒がお目見えする


地下ワインセラーがそこにはあった


「えーっとプルートの25年物と…それから

ジェミのもあった方がいいな…あとは…」


有名なワインの名前を言いつつ副料理長がワインを厳選していく。


「とりあえずこれを持っていこう」


机にワインが10本程並ぶ

どれも本でしか見たことない高級品だ


「凄い、これはメルティ…メルティラーボンだ!」


中でも超高級な物を見て興奮してしまう!



「なんだお前ワインのこと分かるのか?」


本当ならナーヴ家を継ぐはずだったのだから

有名なワインやブドウの勉強はしていた。


「あ、はい…実家が…醸造所じょうぞうじょだったんで…」


「そうか……よし!2本ずつ持っていくぞ」


何かを察してくれたのか、仕事モードに戻る副料理長



3往復して厨房まで高級ワインを運びこんだ




「なぁ少年、お前はワインのそそぎ方を知っているか?」


突然そんなことを言われた。

まぁしょっちゅうやってたことだし


「はい…」


「やってみろ」


料理用安いのワインを渡されて、副料理長がグラスを構える。


『いいか?カイン!ワインを注ぐときはな

女の子の手を取るように優しくゆっくりだぞ。泡を立てない様に、空気にたくさん触れさせるんだ』


タリックおじさんの教えを実践する。


「よし合格だ!ついて来い」

「合格?」



厨房の外でお姉さんが待っていた。



「もう、遅いよ!何やってたの!?」


「いいんだナンシー、ワシが呼び止めたんだ

それより少年、名前は?」

「カインです」


「よしカイン!お前は今日、伯爵はくしゃく付きのソムリエに任命する」


「「え!?」」


「ちょっとこんな子供にできるはずなんか?」


「少なくともお前達見習いよりか腕はいい!

本当ならワシがやるんだが、知っての通り厨房は人が足りてないからな

臨時で雇った者もチンタラやっとるし」


「でも……」


「というわけだ、段取りしっかり教えとけよ」


言うだけ言って厨房へ帰って行った



「はぁ……なんでこうも…」


ため息をつき、こちらを睨んでくるナンシー


「よろしくお願いします…」


「OK!伯爵様に御無礼を働かないようにみっちりと教えてあげる」


ねたまれているよなこれ



ナンシーの視線から逃げる様に天を仰ぐといつの間にか夜になっていた。

闘技場の外からも中からも、ざわさわと結構な人数の声が聞こえてくる



もうすぐ始まるのか…


この悪魔達の宴が…



























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