ゆびきり

「これで…よし!」




救護室で身体に包帯を巻いてもらったあとに


バチンと背中を叩かれる


「君は一応、怪我人って扱いなんだから、みんなの前ではそれっぽく振る舞ってね!」


「分かりました」


「ねえねえ、この薬私が塗っていい?」

「いいわよ!たっぷり塗ってやんな

おっと、その前に…はいこれ着てね」


出されたのは白いボタン付きのシャツと紺色の半ズボンと洗ったばかりの生乾きのマフラー


おばさんに作ってもらったローブは穴が空きボロボロでもう着れないので処分してもらうことになった…



着替え終わり

顔の火傷にスフィリアが薬を塗ってくれる


本人は真剣にやっているんだろうが

口は半開きでマヌケ顔に見える、ちょっとおかしい

集中しているせいがどんどん顔が近づいてきている


「名前…?」

「え?」

「あなた名前は?」

「カイン…」


「カ…イン…カイン!カイン!」


満足そうな顔で名前を連呼される。


「本当にアンタ気に入られたわね、この子が笑うなんて珍しいのよ」


マリーが横から絆創膏を貼ってくれる。


「これで全部ね…じゃあ…部屋に戻りますか」


マリーがスフィリアの様子を窺いながら

この時間の終わりを告げる



「……やだ」

さっきの笑顔とはうって変わり、沈んだ表情をうかべる


「スフィリア…分かってるでしょ…言う事きいて…」

マリーも真面目な顔付きになり悟す






…コクッ

としょげた顔で頷くスフィリアに


「あの…さっきのお礼だけどさ…」


ちょっと待て!何言ってるだよ僕


「今度会った時じゃダメかな?」


どうせもう会えないだろ?

僕は奴隷として売り飛ばされるんだ…


「約束…」

スフィリアが小指を出してくる。


おいやめろ!

そんな無理な約束なんて…無責任だよ…




何故そんなことを言ったのか分からない…


機嫌を取るため?この場をしのぐため?


そんなことを考えている内に僕も小指を出していた


「ゆびきりっ!!」


スフィリアの満面の笑顔



それと同時にスピカの最後の光景が頭をぎる


僕は…死にたいんじゃないのか…









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







コツコツコツと階段降り、大部屋へと戻る


「ありがとうね、あの子嬉しそうだった」


「はい…」


行きとは違い、戻りはマリーと並んで歩く



そして大部屋前で


「この部屋に入ったらアンタとアタシは他人同士、でも最後に言わせてもらうわね!

女の子と約束としたんだから、絶対に守りなさいよ!」


「……」



返事が出来なかった、バーガン…スピカ…

僕は約束を守れなかった人間だ…




するとマリーが僕の頭を優しく撫でながら

「アタシとスフィリアはまたカインと会いたいんだからね、それだけは覚えておいて」




そうして大部屋の扉を開ける



「早く入りなさい!」




部屋に入ると皆も入浴が終わったようで

僕と同じ白シャツ、紺の半ズボンだった。


扉が閉まりカチャと鍵が掛かる


「カイン大丈夫か?」


ロビンが心配そうに駆け寄ってくる。


「あぁ…ああ少し楽になったよ」

「そうかよかった、もうすぐ夕食だってよ」


皆も落ち着きを取り戻しくつろいでいる



「ねぇ君ってさっきセラムのローブ着てなかった?」


僕達の会話に割って入ってくる者が1人


「え…?」


「部屋に入ってきた時の格好だよ!

ボロボロだったけどガルマニック騎士団の!」


「まぁ…そうだけど」


「やっぱりそうか!あぁごめんつい興奮して

僕はジオ!君は?」


「カ…インだけど」


「そうかカイン!カインもあの本好きなんだよね?」


凄くグイグイくる子だ、歳は僕と同じくらいか


「僕もあの本すごい好きでね、そういえばあのローブは?」


なんだかこの感じバーガンを思い出すな…


「ごめん、ボロボロでもう着れないから処分してもらったよ」

「そう…」


急にしゅんとなる



「でさカインはどの話が好き?

僕はカイザードラゴンを皆んなで倒すところ

ギルフォードとセラムがカッコいいんだよ」


「あの2人でドラゴンの翼を斬るとこいいよね」

「でしょでしょ…それから…」


初めて、好きな本の話ができて、少し熱くなってしまう。


そのあとも2人で本の話をした。

他の皆も奴隷同士、親近感が湧いたのか仲良く談笑している。


最後の方になると

僕とジオ、それにロビン達、10人程で情報交換となった。


どうやらここはグラオンザーム領の

第二都市ベイルトリア


どうやら僕達以外の皆も境遇は似ていて

村を襲われたり、家族に捨てられたみたいだ。


ただあの怪しいマザー達から

奴隷は救い、貴族の元で安全に暮らしていけると聞かされていたらしく、卑屈な言葉は出なかった。



「僕はご主人様の為に働いて

いろんなの本を読ませて貰うんだ!

貴族様のお屋敷だから沢山本があるでしょ?」


「そうだね…」


ジオが笑いながら夢を語ると

周り皆も目を輝かせる。


……


僕がまだサンファーナルの頃

沢山の貴族達と会う機会があったが

奴隷は一度も見たことがなかった…

子供の前だから奴隷を話をしなかったのか…



思い過ごしだといいのだが…

























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