収穫祭 【花火】

ドンチャン騒ぎの中央広場、ステージでは弦楽器を奏でている男性に合わせてドレスを着た綺麗な女性が歌っている。

あっちのテーブルはクマの着ぐるみ?皮みたいなのを着た大柄な男性が豪快に肉に食らいついている。


男性は仮装するという決まりだが8割がいつもの服装か正装、残りの2割と子供が仮装しているという感じで、女性は各々おのおの自分を美しく見せる服装をしている。


僕は待ち合わせをしている場所へ向かう、もちろん会場の1つであるスピカの家だ。

スピカの家の中庭に足を踏み入れる、こちらも中々の賑わいだ。

広場と違ってここは偉い人が多いな、牧場主や商業組合の人達が男爵と同じテーブルにいる。

あちらでは男爵の息子がドレスを着た女性をはべらせている。

全くいい御身分だ、ホント貴族って奴は…まぁ僕も元貴族なんだけど



「カインーこっちだ!」

バーガンの喧騒の中でも分かる大声が、僕を中庭の端っこにある丸テーブルまで導いてくれた。


「カインは魔法使いか、俺の格好と相性抜群だな!」

「かっこいいなバーガンその服!海賊みたいだ」

「だろ!母ちゃんと一緒に作業着改造して作ったんだぜ、俺たち冒険者みたいだな!」


男のロマンを語り合っていると

「コホン!男共おとこどもレディーを前にして何かいう事あるんじゃない?」


後ろからルーナとスピカが顔を出した。

ルーナは青、スピカは赤を基調としたワンピースドレスを着ている。


「お、おう。ま、馬子にも衣装だな」バーガンが珍しく少し照れながら褒めると

「ううっ」ズドンッといつものルーナからのボディブロー炸裂!

そこでうずくまってる海賊は置いといて

「う、うんとっても可愛いよ…」

僕も照れながら感想を言う、恥ずかしくてスピカを直視できないや。

「あ、ありがとう…ございます…カインもとってもカッコいいですよ」

「あ…ありがとう」

お互いに照れてギクシャクしているところに

「よーし!全員揃ったし、飯にしようぜ、俺腹減って死にそうなんだよー」

ダメージから生き返ったバーガンの提案にみんな頷く!



「ちょっとバーガン!あとで色々周るんだから食べ過ぎないようにね」

「大丈夫大丈夫、今日は朝飯抜いたんだから。ルーナも今日ぐらいは食べろよダイエットしてるか知らねぇけど、別にお前は可愛いから少し太ったくらいじゃ変わらないだろ」

「えっ!?き、急に何よ!」


みんなで好きな料理を取る、僕もお腹ペコペコなのでいつもより多め、ローストビーフなんて滅多に食べれないんだし。


昼食が終わると4人で祭りの散策へ

まずは中央広場に戻るとステージでは村のお年寄り達のトークショーが開かれている。


「ワシらが子供の頃はシルト村には精霊様がおってな、悪さをすると連れて行かれると言われ…うんぬんかんぬん」 

を尻目に若い衆はそれぞれに盛り上がってる。


もちろん僕達にはこの場所は退屈で

「よし北の牧場の方に行ってみようぜ!」

バーガン船長の掛け声で進路変更する



北の牧場会場では草競馬が行われていた。

賭け事もあるが村1番の馬と乗り手を決めてる大会と言った方がいいだろう。

僕達も席に座り、祭りの時でしか食べれない牧場特製のアイスクリームを食べながら観戦する。


「あ〜おいしい」

「甘くて美味しいですっ♪」

女の子が恍惚の表情を浮かべる。

「行けぇぇぇぇぇぇ!3番差せぇぇぇぇ」

「頑張れー!5番!」

男の子は勝負に夢中だ!

とても楽しい、この4人が心地よい。


食べ物の屋台を周ったり、手作りの輪投げなんかもしたり、収穫祭を謳歌した!

4人でいると時間が経つのが早く気づいたらもう夕闇が押し寄せていた。

開会の挨拶でバロックさんが言ってたように、男爵が魔力花火を打ち上げてくれるらしいので中央広場に向かう。



魔力花火、魔石が入った火薬の玉を魔法使いが打ち上げることで空に大きな華が咲く、文字通り魔法の花火。

魔力を注ぎ込む量が多くても少なくとも成功しない、腕がいい魔法使いにしか出来ない芸当だ。

僕も屋敷に居た時に何回か見たことがある。



広場では松明たいまつやロウソク、ランプで会場が照らされていて、昼間とは違う幻想的な空間になっていた。

「お〜いみんな〜こっちこっち」

アマン先生に呼ばれて、見晴らしの良い席まで案内されるとそこには学校のみんなもいた。

「バロックさんのご好意で皆さんに特等席を用意して貰いました〜みんなで花火を見ましょう〜」

みんな初めて見る魔力花火にワクワクしていると、バロックさんがステージに登壇した。




皆が静まる。

壇上には他に男爵と男爵の息子それとローブを着た魔法使い、おそらく彼が打ち上げるのだろう。

「シルト村の諸君、本日は招いていただきありがとう、私からの餞別せんべつとして盛大に花火を打ち上げようではないか」


「「「うおおおおおおお」」」

盛り上がりは最高潮を迎える。


ニヤリと男爵が笑い

「ではラスティ君頼んだよ」


「はい…」


ローブを着た魔法使いが火薬玉を高く上げ詠唱する


「我が炎よ…拡散し…爆ぜよ【弾幕砲火バラージフレイム】」



火薬玉がバチバチバチと音を立て空に上がっていく。

そしてバーン!バーン!バーンと大きな花火となった!

「きれい…」隣に座っているスピカが呟く。

僕達はいつの間に手を繋いでいた。

魔力が魔石に反応して何十発と空に華が咲く




この時が一生続けばいいと思った…







だけど







これが僕にとっての地獄の始まりだったんだ…

















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