収穫祭 【乾杯】

収穫祭の日がやってきた。


心地の良い日差しと共に目覚める、いつもなら寒くてベッドからなかなか出れないけど、今日は違う、頭スッキリ胸がワクワク楽しみでたまらない。


 ダイニングまで行くとメリダおばさんが朝食の準備をしている、といってもお昼からの祭り本番の為に朝は軽めのパンと目玉焼きだけ。

 僕も食器を出すのを手伝い、おじさんと従業員の皆を呼びに行く。


 食事中におじさんからそれぞれ午前中にワインを届ける場所を指示される。

 大きな会場は5つあり僕はハンスとロビンと一緒に1番大きい中央広場へ配達だ!


荷車に巨大なワイン樽を5つ、かなりの重量だ。

「んぐぐぐぐぅおめぇぇぇぇ」

先頭で引くハンスとロビンが踏ん張り、僕が後ろから荷車を押す、最初がかなり重いんだよなぁ。

ギギギィと車輪が動くとかなり楽になり、余裕が出てきたおしゃべりハンスの雑談とともに広場を目指す。

「絶対今日はいい女捕まえてやるからな!」

「それ去年も言ってなかったか?」

「言ってたねーでも結局ダメで広場で裸踊りしてたし」

「お前らうるせぇ、あれは俺の魅力をアピールする為にだなっ」

2人の兄貴分あにきぶんと共に広場へと続く道を行く、周りからはご馳走の甘い匂い、芳ばしい匂い、子供大人老人の笑い声が聞こえる。


中央広場と家を3往復してワインを届ける頃には太陽が1番高い時間になっていた。

1時間後、中央広場でバロック村長の開会の挨拶があるため皆が集まり出す頃だ。


「カイン、ちょっとおいで」おばさんに呼ばれる。

 おばさんが薄紫色の布を手渡してきた。

「これは…ローブ?」

「あなたが読んでる勇者の本の表紙にいる魔法使いの服を作ってみたの、どうカッコイイでしょ?」

 皮肉なものだ…袖を通すことがないと思っていた魔法使いのローブをおばさんから貰うなんて、しかもそれを僕が喜ぶと思って作ってくれたのだろう…


「おばさんありがとう、着てみるね」

 複雑な気持ちで袖を通すと

「うん、ピッタリね似合ってるわよ魔法使いカイン」

「ありがとう」

 僕はちゃんと笑えてるだろか?なんだよこの気持ちは…まだ未練なんてあるのか…


「おっ、いいじゃないか、これウチの葡萄で染めた生地だろ、ウチの息子に相応しいぞ」

 おじさんも喜んでくれている。

 2人が喜んでくれてるなら、悪くないなと思い込もう、今日はお祭りなんだから。


皆で中央広場に向かう。

広場には村人の殆どが集まりごった返している。

中央ステージを囲み、酒やジュースを片手に持ちウズウズしている。

時間になりバロック村長が登壇する、横には男爵もいるな。


「シルト村の皆さん、本日は晴天に恵まれ絶好の収穫祭日和となりました。今年も豊作なのは皆さんの尽力のおかげです。今日は日頃の疲れを癒し、盛大に楽しみましょう!それと本日ウェニアス男爵にもご来訪頂きました。男爵のご厚意こういで日が沈んだ後に魔力花火まりょくはなびを打ち上げて頂けるそうです。」

 おおぉ、すごいと歓声と共に男爵が得意げな顔をする。


「皆さん準備はいいですか?

では村の豊作と平和にカンパーイ!!!」


「「「「「カンパーイ」」」」」


「うおおおおお飲むぞ」「ガッハッハ」

「おいしそー」「おつかれー」

祭りが始まった!

僕も家族と乾杯してジュースを飲む

うんやっぱりウチの葡萄は世界一美味しい!


乾杯が終わると半分ぐらいが別の会場へと向かって行く。

「それじゃあ私達は戻るから、楽しんでらっしゃい」

おじさんとおばさんは家の近くの会場で農家の方達とゆっくり飲むそうだ。

従業員のみんなもそれぞれ約束があり自由行動となる。

別れ際に

「カイン!お前が家に来てくれて本当に良かった!お前は俺たちの誇りだよ」

少しお酒が入っているおじさんにそんなことを言われた。

僕は少し照れながら

「ありがとう、おじさんおばさん、行ってきます!」

と返した。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る