ウェニアス男爵
屋敷から出てきたのはウェニアス男爵御一行
一番後ろには礼服のアマン先生もいる。
それに気づいて中庭で作業していた皆がお辞儀をする。
「バロックさんは小汚い村人を飼ってるんですなぁ、正しい礼もできないとは」
「いやはや、申し訳ございません、普段から貴族様とお会いする機会などございませんので」
元貴族の僕はともかく屋敷の人間以外は、正しい礼の
バロックさんも男爵相手では逆らえずに必死にフォローしている、いつもならぶん殴ってるけど。
「不思議ですわね、こんな汚い平民があんなに美味しい作物を作るだなんて」
男爵の傍らにいる夫人が顔をしかめる。
なんだこれ…貴族ってこんな醜いのか?
僕がまだサンファーナルだった頃は様々な貴族が七賢者の親に取り入ろうしてきた。
その時は貴族はみんないい人だと思っていた、だけどそれは僕の立場が上だっただけで実際にはこれだ。
ていうか、子供を捨てる元父親もこいつらと同じか。
「本当なら処罰を与える所だがここはバロックさんに免じて不問にしますよ、その代わり夕食は期待してますよ」
男爵が脂肪だらけの身体を揺らして訴える、うるさい豚みたいだ。
「ありがとうございます。流石は男爵!懐が深い、今日の夕食は全て最上級の物を用意しております。」
それを聞いて
「それは楽しみだこと、ねぇロディ?」
と後ろにいた、20歳前後の息子に声をかける。
親ほどではないが肉付きがいい息子は
「そうだね、母様。村長早く行こうよ、こんなゴミになる奴ら見てもつまらないからさぁ」
散々酷い事を言われているが、みんな我慢している、貴族は絶対という社会がそうさせるのか、暴れても男爵の後ろにいる数名の騎士達に斬り伏せられるのを分かっているからか。
ん?騎士の横にローブを着た男もいるな、あのローブには見覚えがある、あれは国に認められた魔法使いが貰える物、随分と厳重な警備耐性だな。
バーガンを含む数名の男達は怒りでプルプルと震えているのが分かった。
「ささっ、
バロックさんが流れを変えるように屋敷の食堂へ案内する。
中へ消えて行くと、男達が憤る。
「クソっ」「なんだよあいつら」と騒がしくなる所に
「シッー、まだ聞こえちゃうでしょ〜、まぁまあ落ち着いて」
アマン先生が帰って皆をなだめる。
少し落ち着きを取り戻したのを見て
「カインちょっといいかい?」
「え!?」急に呼ばれてびっくりした。
「すまないけど、家に帰ってタリックさんからワインを貰ってきてくれないかい?」
「あいつらに飲ませるんですね…」
少し嫌な顔をすると
「バロックさんからの頼みなんだよ〜、男爵はタリックさんが直々に持ってきてくれて、そこで商売の話もしたいらしいんだけど、あれだろ?まためんどくさい事になりそうだから子供方がいいんだよ〜」
バロックさんなりのおじさんへの気遣いなんだろう、確かに男爵の態度からみて怒らせたら何が起こるか分かない。
「分かりました。取ってきますね。」
「美味しいのをお願いね、村の命運がかかってるからね〜」
バーガン達と別れて僕は家へと戻った。
家に着いた頃には日も落ち、僕は
「そうか、バロックのやつが…」少し考えてから、奥の方に行って
「よし、これを持っていけ」
瓶に入ったワインを渡される。
瓶だ、いつも皆で飲む時は樽のワインなのに、メリダおばさんの誕生日でしか見た事がない瓶のワイン。
「いいか、ちゃんと言うんだぞ、酒造ナーヴの30年物です、めちゃくちゃ美味いですって」
「分かった!行ってきます」
「行ってこい!2代目!」
おじさんにお尻をパンっと叩かれて僕はスピカの屋敷へと向かった。
屋敷に着くと玄関前でローブの男とアマン先生が一緒に何やら話している、僕に気づくと会話を止めて
「おつかれさま〜じゃあ食堂まで行こうか」
ローブの男に
「あの人…?」
「あぁ彼ね、魔法使いの人と話すの初めてさぁ〜、興味があってね、色々質問しちゃった」
やっぱり魔法使いだったか、にしても先生のコミュ力すごいな。
食堂前に着くと
「だからそれをするのが村長の役目だろう!」
ウェニアス男爵の怒鳴り声が聞こえた。
「申し訳ありませんが、それ以上は出荷することは」
バロックさんの悲痛な叫びも聞こえ、僕たちは完全に入室するタイミングを失う。
固まってアマン先生と扉前で目が合う、先生がどうぞとジェスチャーをするが、無理でしょ無理。
「ワシの親切心が分からんのか?まったく、ワシの買いかぶりだったか」
空気が凍っている、ええい!出ろ僕の腕と足っ!
ノックもせずに「失礼しましゅ!きゃイン•ナーヴでしゅ!ワインを持ってきました。」
めっちゃ噛んでしまった…
「なんだこのガキ」とロディが笑う
「なんじゃい?バロックさんこいつは?」
うわー皆の視線が痛い。
「先程、話したワインを届けに来た子ですよ」
バロックさんからのありがとうのアイコンタクトで緊張が緩む。
「ほぅこれがか、今飲んでるのも美味いがそれ以上の物か、ほれ坊主はやくよこせ。」
緩んだらこいつの口調にイラッとしたけど、それを抑えて、深呼吸して男爵と目を合わせる。
「酒造ナーヴの30年物です。タリックおじさんとみんなが、頑張って作った村1番のワインです。めちゃくちゃ美味しいです!」
そういって渡した。
早速グラスに注ぎ、口をつける男爵
「おっほお!こりゃすごい」
トポトポッと多めに注ぐのを見て
「あなた、私も」「僕も」取り合う3人
それが滑稽に見えるも、男爵達の機嫌が良くなるにつれ、このワインを誇らしげに思った。
「あぁ〜うまぃぃ」完全に出来上がった男爵を尻目に僕は食堂を出た。
アマン先生にお礼を言われて僕は屋敷を出る。
あたりは真っ暗で帰り道は月明かりだけが頼りだ
月を見上げていると屋敷のバルコニーに誰かいる。
月明かりの下でまるで星の様にスピカが手を振っていた。
とても美しかった。
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