収穫祭前日 1

あれから6日後

シルト村の一斉収穫もとどこおりなく終わった。

ナーヴ家も家族従業員総出で果実の収穫と果実酒の仕込みでてんてこ舞いだったが、もう2年もやってるんだし慣れたものだ!


そして今日は収穫祭を明日に備えた設営日せつえいび

村の中央広場がメインの会場になり、それぞれ大きな農場や家、酒場がサブの会場、行き来は自由で明日はお昼から朝までどんちゃん騒ぎが繰り広げられる。

子供達も夜更かしを許されており、明日の夜は学校でパーティーだ。


おじさん達は明日のワインの準備で醸造所での仕事があるので、僕はお昼を食べてからハンスとロビンと共に中央広場に向かった。



広場の真ん中に大きなステージがあり、その周りを囲むように男達がテーブルや椅子を用意したり、向こうでは仮設テントを建てている人、大きな鍋を置く釜戸かまどをレンガで作ってる人もいる。

まさに祭り前って感じだ。


3人で設営の責任者がいる中央ステージ付近に近づくと見慣れた顔がせっせと作業している。

「バーガン!」と手を振ると気付いたようで汗を光らせこっちに来る。


「おう来たか、待ってたぜ! オヤジーー!3人来たぜー」


奥からねじり鉢巻をした体格のいいバーガンのお父さんがでてくる。

「ナーヴんとこのか、デカいの2人は屋台の釜戸手伝ってくれ。ちびスケはバーガンとイス作りな」

簡潔に指示を出して、持ち場に戻っていく、まさに文字通りの職人って感じだ。


それに比べて

「よっしゃカイン、どっちが先にイス作れるか勝負しようぜ!負けたら明日なんか奢りなっ」

おしゃべりでチャラいバーガンの提案に

「大工の息子に勝てるわけないだろ、ハンデなハンデ」

「よし1分やるよ1分」

「ダメ3分な」

「えっーー」


僕も樽作りや日曜大工の経験はあるけれど、バーガンの技術は正直比べものにならない。

秘密基地だってバーガンがいなかったら作れてないし、勉強出来ない癖して、めっちゃくちゃいい設計図も描ける、手先も器用だし、親からの才能を受け継いだんだと分かる。

羨ましいと思ったことはあるがねたんだことはない。


「よっしゃー俺の勝ち」

「速すぎでしょ、スピード上がってない?」

「ふっふっふ、これからイス作りのバーガンって呼んでくれ!」

「それ、カッコいいか?」

「うん…よく考えたら微妙だなハッハッハ」


底抜けに明るい、僕正反対の性格だけど、一緒にいると楽しい僕の親友だからだ。

もともと立食パーティーが主体の収穫祭なので、イスを作る数もそんなに多くなく、去年に作った状態がいいものもあるので、2人で雑談しながら作業にいそしんだ。



しばらくすると

「ちびスケ共、こっちのイスはもういいから、次は村長のとこ手伝いにいけ」

との事なので2人で村長の、つまりスピカの家に向かう



広場から5分歩いたこの村1番の豪邸だが、サンファーナルの家の1/10程度で土地のほとんどが農場と畑である。


一応、門はあるのだが門番などは立っていなく常に全開の状態だ、僕達もなんの躊躇ちゅうちょもなく門を跨ぐ。

昔はちょっとは警戒した方が…思ったが、この村では泥棒なんて出ないし、名前だけだが自警団もあったりする、まぁ半分以上は農家と掛け持ちなんだけど。


僕とバーガンはざわざわした活気がある中庭のパーティー会場に足を踏み入れた。







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