弟VS出来損ない

中庭には使用人達、クラウス先生、姉弟、母様そして中央に父様とリベルが鎮座している


リベルはこちらをあざけるように口元を緩ませてる


「見せろ」と僕の肩掛けカバンの中身をチェックする父様

「ふんっ…」と僕にカバンを返して

「只今より、リベルとカインの模擬戦を行う、ルールはどちらかがギブアップするまでか相手を戦闘不能にした場合だ、2人とも準備はいいな?」


「「はい」」


刃物は禁止されているが、僕は訓練用の木刀を手に持っている、今できる勝つ方法としては一撃を頭に入れて気絶させなきゃいけない


「はじめ!!」


「うおおおお!!」

木刀を持って一直線に突っ込む


【つむじ風】ファールウィンド


「あああっ!!?…くっっ」

35キロの体重だと簡単に吹き飛ばされてしまう、距離が10メートルから縮まらない

姿勢を低く保ちながら、じわじわと前に歩いでいくが


「兄様、どうしましたぁ?早く来てくださいよー。あっ!もしかしてちょっと魔法強くしすぎました?」

おおやけの場で兄をボコボコにできる、そんな喜びの顔を向け、煽ってくる。


僕が何も出来ずにいると、つまらなくなったのか、つむじ風ファールウィンドの威力を弱めてきた。

「反撃してきてください兄様、このまま勝ってもつまんないですよ」

「ちっ…クソぅ」

僕はカバンから筒状のモノを取り出し地面に叩きつける。

するとたちまち僕を中心に白煙が上がる。

「へぇー煙幕か、卑怯な方法しか勝ち目がないもんね」

携帯煙幕、魔法使いが距離を詰められた時などに使用する、クラウス先生の授業で習ったものだ。


一つ貰っといてよかった。


「うぷっ…」声でバレないように煙でむせるのを必死てこらえながら、木刀を両手に全力で走る、心臓が爆発しそうだ。


うっすらとだがリベルの影を目視した、全力で木刀を振り下ろす。

「うおぉぉぉぉ」


【乱気流】タービュランス


白煙が一気にかき消され、僕の身体が持ち上げる

「わぁ…ぁぁぁぁ」

情けない悲鳴を上げ地面に背中から落ちる、戦いに慣れているものなら十分受け身を取れる簡単な攻撃だろう、ただ僕にはそんな経験も判断力もない

打ちどころが悪かったのか息が出来ずに悶える


「きゃはははは、死にかけのネズミみたい。

煙幕なんかに頼る【出来損ない】にはお似合いだよ」


「うるさいっ!うるさいうるさいうるさい」

怒りでどうにか立ち上がり、半ばヤケクソでカバンから昨日裏庭で集めた、小さな石を投げつける

「お前に何が分かるんだよ!何がぁ!」



「分からないよ兄様、弱者の考えとか気持ちなんて分かるはずないじゃないか?それに…ずっと目障りだったんだよ。僕より弱いのに、長男だからって理由で贔屓ひいきされて」

語気強め、風の障壁で全ての石を跳ね返してくる

僕が投げた何倍もの速度で石が帰ってくるため、腕や足が切り傷だらけになる


「ほらほらちゃんと避けないとねぇ【泥濘】マッドバインド


足が泥の中に沈んでいく、逃げられない


「僕はお前みたいなゴミで無能で才能がない出来損ないが大っ嫌いなんだよ!【風殴打】ウィンドブロウ!ほらほらどうしたぁ?」


「がっ…うわっ、うっうっ」

風の衝撃波にめった打ちにされる、顔面、肩、足、それでも泥からの脱出を試みる


こんな嫌な弟がいる所だけど…僕はこの家に居たい、母様とレイネ姉様と一緒に居たい


必死の形相ぎょうそうでリベルを睨みつけると

「早く倒れろよ、このっこのっこのぉ!」

視界が霞む…意識が飛びそうだ…足を上げなきゃ…足をっ



気力を振り絞る


あがれぇ


ヌチャっと膝まで埋まった泥から足が上がっていく


その時だった


「死ねよ、出来損ない!!!!」


「ガハッ……!!」


特大のアッパー風殴打ウィンドブロウがみぞおちに入り、僕の身体を持ち上げる、再び地面に


目の前が真っ暗になり、意識がもぅ…



歪む視界で微かに分かるのは倒れている僕の顔を見下すリベル

何を言ってるのか分からない


あぁ負けたんだ…負けたんだ…勝てるはずなかった…負けたくなかった…勝ちたかった…


涙が溢れていくのが分かる


勝ちたいなぁ…魔法が使いたいなぁ…


僕は願ってしまった…


感覚がない手をゆっくり上げ


「ふぁぃぁ…ぼーる…ふぁぃぁ…ぼぅ…る」


何度も何度も消えそうな声で詠唱する


しかし灯し火は決して点かぬまま


僕の意識は消えた…


……………………………………………



リベルは笑う

この無様な兄は意識がないのに、まだ魔法のしがみつこうとしているのが滑稽で滑稽で虫唾が走る

軽く舌打ちをし

「本物はこうやるんだよ、火球ファイアボール


意識がないカインに向けようとしたとき


「もうやめてぇぇぇぇぇぇ!」

イザベラの悲鳴と共にレイネがリベルの腕を掴む


不満そうな顔しながら火の玉を消すリベル


そこでこの模擬戦に終止符が打たれた。























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る