ただいま
「まずは邪魔な艦隊を排除しましょう。大和、艦内コードレッド発令! 機関最大出力!目標、敵艦輪形陣の中心!」
みさきの凛とした声が響いた。
「警告です。ミサイル補足、距離2000、弾数250。」
「250って。。こっちは単艦なのよ。あいつらには武士道精神はないのかしら!」
なぜか友里もキレているようだ。
拓海がみんなの方を振り向いた。
「オレ、さっきまで大和の仕様書を見てたんですけど、この艦には全方位型超電導推進スラスターが装備されてるらしいんです。それを使ったら更に船速が上がって急旋回も出来ると思うんですけど。。大和、超電導スラスターは動作するのかな?」
「報告です。超電導クラスターは動作可能ですが、一度も実験を行った記録がありません。よって、航行管制AIが対応できません。」
「大和、では自動航法をやめて、マニュアルで操艦すれば使えるってこと?」
「報告です。可能です。超電導スラスターを前進方向で最大出力で作動させると理論上大和の速度は2割程度速くなります。大和の運用上の最高速度は30ノットですが、これは航行管制AIの上限であって、設計上の最高速度は50ノットです。よって、スラスターでブーストすれば、約60ノットになるはずです。ただし、速度が速すぎて安全距離での停船ができません。」
「60ノット、オレのスピードボートよりちょっと遅いですね。じゃ余裕かな。」
「え?スピードボート?」
阿久津が拓海を見た。
「拓海クンは草スピードボートレースの連勝記録保持者よ。」
拓海に代わって友里が右手の親指を立てながら答える。
「そうね、拓海クン、お願い、あいつらをなぎ倒してちょうだい。」
みさきがニヤっと笑った。
それを見て軽く微笑んだ拓海が操縦桿をつかんだ。
「正確には、今も連勝記録更新中ですよ。行きますよ、全員シートに座るか、しっかり捕まっててくださいね! 大和、航行管制AI解除、マニュアル操艦に切り替え。機関運用制限解除、最大出力、超電導スラスター最大!」
続けてみさきも仁王立ちになった。
「大和、目標、艦隊群。操艦は航海士任せ。主砲連続発射、副砲はミサイル防衛、打ち漏らしたミサイルはレールガンで破壊!超指向性超音波を大和前面に展開して魚雷防御!」
「報告です。ミサイル全弾消失。魚雷全弾破壊。」
「警告です。ミサイル補足距離1500、弾数120。」
大和がレーザーを連射しながら巨艦からは想像も出来ない高速でグロワース艦隊の先頭の艦に突っ込んでいく。
「報告です。グロワース1、2、被弾、大破炎上。残存艦23。ミサイル全弾消失。」
「警告です。ミサイル補足距離100、弾数50。」
「報告です。グロワース3、4、5、被弾、大破炎上。残存艦20。ミサイル全弾消失。」
大和が炎上しているグロワース艦の真横をすり抜けて輪形陣の真ん中で急旋回をして陣形を抜けた。グロワース艦が大和が急旋回で作った大波を左舷に受けて横転して沈没してゆく。
「報告です。グロワース20、21、22、23、24、25、横転沈没。グロワース7、10、15、19、被弾、大破炎上。グロワース残存艦11。」
「警告です。ミサイル補足、距離1000、弾数20。」
「これで仕上げですね。拓海クン、もう1回お願い!」
みさきは仁王立ちのままだ。
「了解!」
大和が再びグロワース艦隊へ向かう。もう既に陣形は崩れていて、海面にはあちこちに残骸が浮いている。
「報告です。ミサイル全弾消失。」
「報告です。グロワース6、8、9、11、12、13、被弾炎上。残存艦5。」
拓海が残存艦の間を縫うよう最高速度ですり抜けた。
「報告です。グロワース7、14、16、17、18、被弾炎上。残存艦なし。」
「大和、微速前進。艦内コードレッド解除。コードイエローで監視を継続。」
「ふぅ。」
みさきが一瞬片膝をつくまで座り込んでから、立ち上がる。
黒髪、黒い瞳のいつもの姿に戻ったみさきがみんなの方を振り返った。
「みんな、お疲れ様。拓海クン、ありがとう。これで帰れるわね。」
連邦本部を覆っている黒い霧のようなものが薄くなって行く。
徐々に姿が見えてきた連邦本部から発光信号が出ている。
「報告。連邦本部からの発行信号読み上げます。連邦本部は無事、救援感謝する、です。」
「大和、こちらも発光信号をお願い。ただいま、と。」
実験艦大和の逆襲 @Sakamoto9
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