実験艦大和

 艦内に入ると電源喪失している島の中なのに艦内照明も自動ドアも稼働している。


「セキュリティの厳重さ、これだけ大規模な施設の維持、独自電源の確保、この艦、間違いなく普通の艦じゃないわね。」

友里がつぶやいた。


 エレベーターに乗り込み、艦橋へ向かった。

扉が開くと同時に照明が点いてコンソール類が稼働し始める。


「報告です。私は実験艦大和の統合管制AIです。皆さんが科技大生であると確認致しましたので、大和の全機能を再始動させました。」

艦橋のスピーカーからAIが音声情報が流れた。


友里が何かに納得したかのように頷いた。

「やはり、機能が完全に動いている。普通の艦じゃないわね。」


阿久津がAIに尋ねる。

「大和?統合管制AI? この艦はいったいなんなんだ?」


「報告です。本艦はグロワースとの開戦以前、地球が地球連邦に統一される以前に建造された戦闘実験用の艦です。機関には原子力が使われているため、事実上無限の電力供給が可能で、その電力を使った武器装備の実験装置が搭載されています。ご存じの通り、原子力装置はグロワースからの攻撃対象となり、全て破壊されてしまったため、運用、研究開発が継続できず、この艦が唯一現存する原子力装置でもあります。また、統合管制AIの他に支援AIとして、独立した航行管制AI、武器管制AIが搭載されており、基本的に自動運用が可能です。」


「原子力艦ってことか? 確かに戦時中では研究開発に金も技術も使えないから対応できなくなったってことなんだろうか。原子力装置なんか敵に狙われたら、自爆用の核爆弾みたいなもんだもんな。昔はそんな危険なことしてたんだな。だから封印か・・なるほどな。」


「報告です。技術的にはご想像の通り、保持することも危険なので、現在は研究も行われていません。また、予算的な面でも大和はとても負担がかかるので、実践投入用の量産化もされていません。ちなみに、大和の建造費用は現在の連邦の国家予算の約20年分です。」


「え・・国家予算20年分の艦? 桁違いどころの騒ぎじゃないね。そうか、原子炉があるんじゃ破棄することもできないし、封印して維持するしか選択肢が無かったってことか。」

阿久津が納得したかのように頷いている。


その時、AIの警告情報が出た。


「警告です。 学園島東北東20、距離3000、グロワース艦補足。艦数5。」


「さっきのグロワース艦だよな。ついに学園島まで来たか! どうする?」

阿久津がみんなの顔を見た。


「島に残った所でミサイルでやられるだけでしょ。これ、戦艦なんだから練習艦よりは、連邦本部へたどり着ける可能性は高いんじゃない?」

友里の言葉にみんな頷いている。


「もう考えてる余裕もなさそうだぜ、行こう! 大和、出航!」

阿久津がAIに指示を出した。


「報告です。大和、出航準備。 敵艦補足中につき、緊急発進に切り替えます。ドック内緊急注水開始。水圧で艦が揺れますのでご注意下さい。」


ドライドックの壁が割れて一気に大量の水がドック内に流入する。


「うわぁ、ドックの壁を壊して注水、これは確かに緊急注水だ。無茶する仕組みだなぁ、これ。」

拓海が悲鳴をあげた。


注水というより津波のような水で、一気に喫水線まで水に浸かった大和が浮力で大きく揺れた。


「報告です。水深が航行可能深度を超えました。ゲートオープン。」


ドックの前面が大きく開き、外の明るい光が差し込んできた。


「報告です。大和、出航。湾内航行速度。」


大和の巨体がドックを出て西湾に入る。


 大和が学園島の西湾を出た所でAIからの警告情報が出た。

「警告です。ミサイル補足、距離2000、弾数10。」


AIの警告を聞いたみさきが、両手で耳を閉じる姿勢でうずくまってしまった。



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