山本と阿久津

 あさぎりは学園島の西湾を出ると、快調に速度を上げた。


学園島を出発して約1時間後、レーダーが反応し、航行管制AIが警告を発した。

「警告、警告。本艦右15、距離2000、グロワース艦補足。艦数5。ミサイル補足、距離2000、弾数10。」

 

「なぁにぃ、敵艦? 練習艦に武装なんかないぞ! あさぎり、回避だ!取舵いっぱい、出力最大!」

艦長席の山本が飛び上がるように立ち上がってAIに指示した。


あさぎりが左急旋回で船体が大きく傾く。


「警告、警告。着弾します。」


「みんな!衝撃に備えろ!」

山本が艦長席の背もたれをつかみながら叫んだ。


ガガガーン。

ミサイル着弾、


「警告、警告。機関部被弾、エンジン出力、30%に低下します。」


「くそ、練習艦がミサイル攻撃から逃れられる訳がないか。脱出準備するぞ。」

山本が救難艇準備のために甲板へ出た。


「警告、警告。ミサイル補足、距離2000、弾数20。」


「また来た!弾数が増えてるじゃないか!」

阿久津が悲鳴をあげた。


ガガガガガガーン。

ミサイルが着弾する。轟音と共に、前方甲板が吹き飛ぶ。救難艇の準備をしていた山本が爆風で飛ばされた。


「あぁぁぁ、山本教官!」

阿久津が更に大きな声で悲鳴をあげた。


「みなさん、本船は放棄して、全員で退船しましょう。山本教官の救護も必要ですし。」

みさきが委員長らしい、凛とした声でみんなに呼びかけた。


全員で甲板へ降りる。山本が右肩、右わき腹から大きく出血して倒れていた。


「山本教官!聞こえますか!山本教官!」

応急措置指導員の資格を持つ友里が、腰の救急セットを使って山本に止血をしながら呼びかけるが、意識は戻らない。


 阿久津が意識の無い山本を背負い、全員が救難艇へ乗り込んだ。


拓海が自動航行装置の目的地を学園島にセットすると、救難艇は学園島へ向かって自動航行を始めた。


後方であさかぜが爆発音と共に轟沈していく様子が見えた。


 学園島西湾に接岸すると直ぐに、山本を抱えて校舎へ戻り、救護室の救命カプセルへ入れた。救命カプセルの診断AIでは負傷度60%、要注意状態と表示されている。


阿久津が右手で壁を殴りながら大きな声で呟いた。

「くそ、オレが補習を受けなければ山本教官はこんな目に会うこともなかったんだ。オレのせいだ。」


ふと、阿久津の中で何かが弾けた。

「よし、オレは行くぞ! 確か、学校の倉庫に封印されてる艦があるって聞いたことがある。動態保存ってことは動くってことだよな?」

普段の陰キャ系のボソボソとした語調ではなく、まるで山本のような熱血系の声だ。


「あ、阿久津さん・・? 封印されてる艦。それって都市伝説じゃないんですか?」

みさきが軽く首を傾げた。


「まぁ、とにかく行くだけ行ってみようぜ。ヤツらがここへ来ちまったら終わりなんだし。」

みんなの返事も待たずに歩き出した阿久津に続いて、全員が倉庫へ向かった。


 西湾沿いにある古い倉庫のドアを開けるとガラクタだらけの倉庫の中に、地下へ続くドアがあった。生体認証デバイスが付いているが、完全停電で機能を失っているようだ。


「古い倉庫の中のドアとは思えない程厳重なセキュリティだな、これ。非常用解除レバーすらついてないんだぜ、このドア。ま、電源喪失してて今は物理鍵しか無いんだから壊してみるか。」

そう言い終わるや否や、阿久津がレンガでドアノブを破壊した。完全にキャラクターが変わっているようだ。


結局、地下入口のドアを含めて4か所目の扉を開けて、いや、破壊して、ようやく広い場所へ出たが真っ暗で全体が見えない。倉庫というより体育館、いや、もっと巨大な空間に思える。


「ここにも簡易発電装置があるはずだな、あった。」

阿久津が簡易発電装置のスイッチを入れた。


左から順番に照明が点き始める。広い、想像を絶する広さだ。

と、巨大な空間に浮かび上がったのは、巨大なドライドック、そして戦艦、それも現代艦とは全く違うシルエットの大きな主砲を持つ、旧歴時代の戦艦のような姿をしている。


「なんだこれは・・でかい。でかすぎるぞ・・。」

勢いに乗っていた流石の阿久津も大きな艦を見て固まってしまった。


「確かに封印されている艦かもしれないけど、こんな巨大艦、私達じゃ動かせないでしょ。」

みさきが拓海に問いかけた。


「動かす以前に、そもそも動くんですかね? こんなデカいのが?」

拓海は首をかしげながら答えた。


「まぁ、とにかく艦橋へ行ってみようぜ。」

フリーズが解けた阿久津がタラップに向かって歩き出す。

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