実験艦大和の逆襲
@Sakamoto9
学園島
西暦2521年、宇宙からの侵略者グロワースに地球のほぼ半分を奪われ、残った国々が地球連邦政府を設立し、統一国家となってから約200年が経過していた。
学園島と呼ばれる島、正確には、地球連邦政府所管高度専門職教育研究機関都市。敵の襲撃を受けないよう、地球連邦本土から離れた洋上の離れ小島に作られた戦争の喧騒から離れた平穏な島で、全土から選ばれたトップエリート達の教育、最新技術の研究をつかさどる、連邦政府の頭脳養成機関である。
「なぁ、阿久津。せっかくの夏休み、みんなは実家に帰ったり旅行に行ったりしてるんだぞ、お前は毎日補習で良いのか? さっさと課題を終わらせて青春の熱い炎を燃やしに行かなくて良いのか? なぁ、阿久津よぉ。」
熱血指導教官の熱い、いや、暑っ苦しいセリフを聞き流しながら阿久津は窓の外を眺めていた。山本指導教官とのマンツーマン補習も今日で5日目、留年を回避するための課題の提出も全く目途が立っていないが、阿久津自身、今年の夏休みは毎日補習なのだろうと、半ばあきらめているようだ。もっとも阿久津は引き籠り気味の陰キャなので、休日でも部屋から出ないから、そもそも夏休みのリア充系イベントの予定も無いのだが。
グオォォォォン。
突如耳をつんざくような轟音が響き渡り、辺り一面が真っ赤な強い光に包まれた。少し遅れて教室の電気が消える。まだ夕方だったはずの外の景色が深夜のように真っ暗に変わり、電気も消えているので、全くの暗闇になってしまった。
「な、なんだぁ? 阿久津!大丈夫か?」
山本指導教官が叫んでいる。
「だ、大丈夫です。」
足元がライトで照らされた。山本指導教官がスマホのライトを点けたようだ。
「おい、なんだ、何が起きたんだ? 真っ暗じゃないか。 星も月も見えない、真っ暗闇だぞ。おい、阿久津、怪我はないか?」
「オレは大丈夫っす。なんですか、これ?」
「わからん。よし、とりあえず管理センターへ向かってみよう。」
山本と阿久津はスマホのライトを頼りに科技大(科学技術大学)第1校舎の管理センターへ向かった。
「だめだな、主電源も補助電源も落ちてるからドアのセキュリティ解除も出来ないな。ドアの左側に非常用解除レバーのケースがあるだろ、ケースのガラスを割ってレバーを引いてくれ。ガラスに気をつけろよ。」
阿久津が非常用解除レバーを引いて、山本がドアを押し開けた。
「簡易発電装置を使ってみよう。メインコンソールの下にあるはずなんだが。」
「これっすか?スイッチ入れますよ。」
ヒュイイィィィンという静かな発電機の回転音と共に、管理センターの電気が点き、管理コンソールも稼働し始めた。
山本が連邦本部へ連絡しているが、応答がない。
暗闇が徐々に薄くなってきた。暗闇だったのは雲か霧のようなものに包まれていたかららしい。
「無線もネットも反応無し。校内のセンサー、モニター類は電源消失、これじゃ何も分からん。一旦外へ出て様子を見てみよう。阿久津、ついてこい。」
二人は校舎を出て、中庭へ出た。
「学園都市に居るのはオレ達だけなんだろうか?」
「夏休みに学校に来る人は誰も居ないですよ・・。」
「おい、あれは?」
山本が指さす先には一つだけ窓が開いている部屋があった。
窓から誰かが手を振っている。
「あれは。。生徒会室の辺りですかね?」
山本と阿久津は生徒会へ向かった。
生徒会室には、来年度のイベントの打ち合わせで登校していた生徒会長の綿貫みさき、副会長の横川友里、書記の木崎拓海の3人が居た。
生徒会室の会議卓で山本が全員の顔を見回した。
「これは自然現象ではないと思う。その証拠に連邦本部とも連絡が取れない。
状況が分からない限り、これだけの人数で学園島に居ても、安全である保障も無い。よって我々で西湾に停泊してる練習艦あさぎりを使って本部へ行こうと思う。君らは航海演習は終わってるよな? あ、落第点だから補習中の阿久津を除いて。」
「航海演習は赤点じゃないっすよ・・」
阿久津が口を尖らせる。
「私と友里は3年生ですので、近海航海演習も遠洋航海演習も終わってます。拓海クンは2年生なので遠洋航海演習はまだですが、プライベートで1級船舶ライセンスを持ってますので大丈夫です。」
みさきが答えた。
「よしゃ、では行こう。阿久津もこの航海で補習完了としてやろうか?」
山本がさらに阿久津をからかっている。
全員は西湾にある練習艦に乗艦し、最低限の出航前点検を済ませた。
山本は艦長席に座ると右手を大きく前に振り、いつもより更に熱い声を張り上げる。
「あさぎり出航!目標、連邦本部!」
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