第680話 部外秘のはずの情報
◇部外秘のはずの情報◇
「…ここを拠点をしていたのは間違いないようだな。だが…帰ってはこないつもりか?」
ランタンに照らし出された部屋の中には、汚れた食器に使用した痕跡の残る寝具など生活感がありありと残っていた。しかしそれらは暮らす上での必要最低限の物ばかりであり、お気に入りの雑貨やインテリアの類は皆無といっていいだろう。それこそ住めれば問題ないと言いたげな室内はここが残夜の騎士団の一時的な拠点に過ぎないからだろうか。
念のため寝具やコーヒーの残ったマグカップに手を当ててみるが、そこには温もりはない。少なくともここがもぬけの殻となったのは俺が辿り着く直前ではなく、無人になってからは暫くの時間が経過していることが窺えた。
「チュィ…!」
「おい、あんまり荒らすなよ。後でアデレードさんに叱られても知らないからな」
俺が探るように室内を歩いていると、肩から
暗い部屋の中だが、隣の部屋から差し込む灯りが窓際にある机を闇の中に浮かび上がらせている。その机の上には書類が散乱しており、それ以外にもインク壷や羽ペン、鳥籠や卓上ランタンなども置かれている。俺はその中から卓上ランタンを手に取ると、この部屋の中を照らし出すために明かりを灯した。
「チッ…チチチチチッ!」
「なるほどね。お前はここに閉じ込められていたのか」
そして灯された卓上ランタンがその机の上の書類に書かれた文字を浮かび上がらせる。風で探るだけでは判別することが出来ないインクの滲みを追うように俺は視線を走らせた。その大量の書類は待ち合わせにやってきた子供が語ったようにオッソが聞き込みにて調べた情報や、他の残夜の騎士団が持ち込んだ情報なのだろう、取り留めのない情報が大量に書き込まれている。
「ここで情報を纏めて…何をするつもりだったかというと…」
俺はそのまま卓上のランタンを手に持つと、今度は壁の近くに歩み寄った。粗雑な木の壁はそのままコルクボードの代わりとなっており、机の上と同様に大量の書類が打ち付けられている。そしてその中央に張り出された書類を見た俺は、思わず眉を顰めた。
そこに張り出されていたのは王都中心部の地図であり、貴族街も含むその地図は一般には公開されていない情報だ。残夜の騎士団ならば入手していてもおかしくはないのかもしれないが、この後に騎士が踏み込んでくることを考えれば、この地図の存在も大事になってしまうだろう。
流石に俺がその地図や書類を回収するわけにはいかないため、俺は書き込まれた情報を記憶するように観察した。情報量が多いため簡単には読み解くことは出来ないが、それでも僅かながらに残夜の騎士団の思惑を感じることができる。
「…向こうもようやく辿り着いたようだな。ようやく俺の仕事も終わりだよ」
俺が場所を知らせる笛を吹いてからそこまで時間は経っていないものの、家の周囲に張り巡らせた風に他者の風が混じりこむのを感じた。直ぐにその風の主を確認すれば、それは間違いなく俺を追ってきていた風魔法使いの騎士達であり、俺は木窓を開けると灯したランタンを揺らして彼らにこの家の所在をアピールした。
深夜の清閑な旧市街で揺れる灯りは、まるで
「…困りますよ。勝手に中に入られては…」
「手紙鳥が中に入ってしまったんです。マルフェスティ教授から借りているのですから、無事に帰さないとまずいでしょう?」
「チチチチチ!!」
三人の騎士が部屋の中を観察しながらも俺にそう声を掛けてきた。確かに協力者にしか過ぎない俺が先んじて残夜の騎士団の拠点に踏み込むのは問題ではあるが、
駆けつけた騎士達は部屋の中を調べ始めるが、俺がそうであったように最終的には窓辺の小部屋に足を踏み入れることとなる。そして同じように壁の情報を目にした騎士達はあるはずの無い者に軽く舌打ちをした。
「これは…。いや、これがあって助かったのか?ここから目的を探れればいいのだが…」
「…申し訳ありませんが外に出ていて頂けないでしょうか。この部屋の中身は機密に触れています」
騎士の一人が俺に外に出るように声を掛けてくる。協力者であっても俺に見せる訳にはいかないと判断したのだろう。彼の表情は厳しく、反論を許さないような意志を感じ取ることができた。
「そこまで厳密にする必要はあるか?広めてよい情報ではあるが一定の地位の人間なら知ってる情報だろ。それよりも今はとにかく情報を読み解かなければ…」
「いえ、いいですよ。丁度…アデレードさん達も追いついたようです。中の様子を報告してきますよ」
他の騎士が締め出さなくてもいいだろうと取り持ってくれたが、風で馬の蹄の音を拾っていた俺はその提案を断った。近づいてくる馬は近衛の二人が王都を駆け抜けるために使用している物であり、まず間違いなくアデレードさんと近衛の男が乗っているはずだ。
肩に
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