彷徨う刃

第613話 金級を目指して

◇金級を目指して◇


「…また随分と変わった荷物ですね。特殊武器の類なのでしょうけど…。大型倉庫の一区画を開けてありますので、そこと契約で宜しいでしょうか?」


 狩人ギルドの受付員がタルテが持ち上げているハンググライダーを不思議な目で見ながらそう言った。しかし、自作の狩猟道具を用いる狩人は多いため、ハンググライダーも同じ部類のものだと思ったのだろう。直ぐに倉庫を貸し出す書類を俺に差し出してきた。


 メルルの家の王都邸宅に置くこともできるだろうが、やはり外に持ち出すことを考えるのならば狩人ギルドの所有する倉庫のほうが街門が近くて便利だろう。それこそ、このような見た目からして不可思議なものを貴族街に持ち込むことのほうが面倒臭い。


「ああ、それと竜素材の精査が終わりました。買い取り金額に問題がなければこちらにサインをお願いいたします。使用量はそちらから差し引きいたしましょう」


「分りました。…結構高値がつきましたね。内訳は…お肉ですか」


「王都では人気ですからね。競売に掛けられれば途端に値段が吊り上るんですよ。普段は遠方から取り寄せることばかりなのですが、今回は近場で竜肉が手に入ったことも大きいです」


 結構な値段が書かれている書類を見て、俺は驚きと共にそう言葉を漏らした。大きな倉庫を借りる費用が少しばかり気がかりだったのだが、この価格で売れるのならば十分なお釣りがくるだろう。結構な量の飛竜ワイバーンが取れたのにこの価格ということは、もし狩猟されたのが王種だけであったなら更に高価になったことだろう。


 ついでに言えば竜鱗や皮なども想定より高く買い取ってくれるようだ。王都の市場に大量の竜素材が流入することとなって、遠方から態々竜素材を持ち込んでいた商会が頭を抱えているといった話を聞いていたため、もっと買い叩かれるかと思っていたのだが杞憂だったようだ。


「それと、王都の治安維持に貢献したということで、僅かばかりではありますが王府から報奨金も出ていますよ。それも合わせてお支払いいたしますね」


「…おお…。ハ…ハルトさん…。これならもう少しお肉を取っておいても良かったんじゃ…?」


「…これ以上のお肉は勘弁してくれ。既に十分な量を確保してるから…」


 更にお金が貰えると聞いて、タルテがお肉を売らずに自分達で食べようと提案してくるが、流石にご遠慮願いたい。これ以上のお肉を確保するなら、それこそお肉のためだけに更に倉庫を借りる必要がでてくる。俺はタルテの潤んだ瞳を無視するように、差し出された書類にサインを認めた。


「あ…ああ…酷いです…。私の…お肉…。ナナさんも…メルルさんも…もっと食べたかったって言いますよ…?」


「ナナはともかく、メルルはもう十分と言うだろ。ほら、保存食に加工したのも沢山あるから…」


 タルテを宥めながら俺はギルド員にサインした書類を差し出した。ギルド員はタルテの様子に苦笑いを浮かべながらも、俺から返却された書類を確認する。そして問題がないことを確認すると、今度は別の書類の束を俺らに差し出してきた。


「これは…?」


「前にも申し上げましたが、妖精の首飾りの皆様は戦闘能力の評価は十分ですから、後は戦闘能力以外の評価を上げて頂きたいなと。一応、今回の件でも信頼度が大きく稼げましたので、既に十分金級に手が届く位置にいらっしゃるのですよ?」


 狩人でも傭兵でも、戦闘能力が秀でているだけではランクが上がることはない。傭兵系では信用できるかどうかが非常に重要視されるし、狩人と活動するには生態系や魔物に関する知識が無ければ大惨事を招くことにもなる。…この前、街に可哀相な獣ピティワームを引き寄せてしまったことがいい例だ。


「おお…これは…全て依頼の書類ですか…。結構な量がありますね…」


「皆様は学業を優先しているのは把握しておりますので、成るべく近隣の依頼に絞ってあります。…王都の狩人ギルドには単純な戦闘能力では解決できない依頼も集まってきますので、ぜひご健闘ください」


「先ずは持ち帰って仲間と相談しますよ。こっちとしても金級には上がっておきたいので」


 態々俺らのために依頼を見繕ってくれたのだろう。その依頼の束は彼女が俺らのために書き写したものだ。身も蓋もないことを考えれば、王都にて金級に昇格した狩人を増やしたいのかもしれないが、そのためだけにここまではしてくれないだろう。俺はギルド員の好意に応えるようにその書類を大切そうに受け取った。


 それにギルド員に言うとおり、王都には今の俺らに適した依頼が多く回ってくる。例えばこの前、メイブルトンから回ってきた人手が足りないから来て欲しいという依頼は、割には合わないが貢献度を稼ぐことができる。


 他には地方では解決できない依頼も大半は王都に集約されてから采配されるのだ。地方では解決できない依頼とは、単純に戦闘力が足りないというものもあるのだが、専門的あるいは特殊な技能を要求するため王都に回ってくるものも多く、こういった依頼も狩人の能力評価を向上させるという点ではおいしい依頼でもある。


「どうです…?なんか面白そうな依頼はありますか…?」


「できれば王都内の依頼もあればいいんだけどな。最近は少し授業をサボりがちだから、単位的には大丈夫なんだが、流石にな…」


「えへへ…。私も薬草のお世話があるので…近いほうがいいですね…」


 学業と狩人の両立は中々に難しいが、それでもやはり金級とは魅力である。それこそ、長く狩人として活動すれば誰でも銀には至ることができるが、金級以上は狩人として確かな実力が無いと昇格できないのだ。


 タルテは遠征は控えたいと言うが、彼女も金級に至れると聞いて狩人活動に力を入れることは賛成のようだ。俺とタルテは依頼書の束を大事に鞄にしまい、借り入れた保管庫に向かっていった。


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