第585話 群れを統べるもの
◇群れを統べるもの◇
「いいか!声掛けて動けよ!よくみりゃ単調な攻撃なんだから避けるのは簡単だ!」
ギルド長は弓を引き絞りながらも周囲の狩人に指示を飛ばす。既に彼の上着は完全に解かれ、いつものように上半身が裸になってしまっている。それでも、彼の解かれた上着は自身の放つ矢に結ばれるだけでなく、他の狩人が
ちらりと見た感じ、やはり
「ハルト!人が増えたし竜を落とすことに集中しようよ。…その…手伝ってくれるかな?」
「いいから好きなだけ火を放ってくれ。俺もその方が飛びやすい」
戦力が増えた状況ではあるが、問題は
だからこそギルド長は率先して弓を煎っているし、メルルやタルテも魔法による遠距離攻撃に集中している。仕留めるまではいかなくても、撃ち落す事さえできれば狩人達が蟻のように群がり、止めを刺してくれるからだ。
俺の返事に気をよくしたナナは、一斉に空に向かって火を放つ。
「大きいのいくよ!爆ぜるから気をつけてね!」
「あんまり派手なのは控えてくれよ!落としすぎちゃ狩人達が追いつかない!」
だが、その火魔法に俺の風魔法が合わされば逸らされる可能性はない。ナナの放つ火魔法は空中で不自然に軌道を変え、まるで誘導弾のように
そして、着弾するのは火魔法だけではない。ナナが火魔法を俺に任せてくれるおかげで、俺はその火炎が生む上昇気流を自在に利用することができるのだ。火魔法に紛れるようにして、俺自身も天空に飛び上がり、八艘飛びをするかのごとく
「火を地面に吐くんじゃない!危ないだろ!」
地に向けて火を吐く
「ご…ごめんなさい…!急に飛び出して着たので…当たっちゃいました…。平気ですよね…?」
「タルテ。ハルト様は自分から当たりに行ったのですわ。それよりも落とすことに集中してくださいまし」
自身の投げた岩に俺が接触したため驚いたのだろう。地上に着地した俺にタルテが心配そうに声を掛けた。だが、メルルは俺がタルテの投石を着地のために利用したのが解っているようで、俺が答える前に問題ないとタルテに声を掛けた。
俺もその言葉が正しいことを示すように手を上げて無事なことを彼女に示してみせる。メルルの言葉があれど、やはり不安だったのかタルテは安堵するように溜息を吐き出した。
「おい。ちょっと今いいか?手が開いてんなら少し聞きたいんだが…」
「…逆に聞くが、暇そうに見えるか?」
心配するタルテの代わりに俺に話しかけて来たのはギルド長だ。彼は訝しげに空を見上げながら、片手で顎鬚を撫でながらそう呟いた。随分と暢気に話しかけてきた彼につい塩気のある返答をしてしまったが、実際に忙しいのだ。
思うままに火魔法を放つナナの魔法をコンロトールし、更には自身も空に舞った旅の帰りなのだ。それに戦況を見るに直ぐにでも俺は空に戻って
「いやよ。
「やっぱり…この規模だと居ないほうが不自然か…?見渡せる範囲には居ないみたいだが…」
俺の塩対応を気にすることもなく、ギルド長は俺に話しかけてきた。その言葉を聞いて俺は悩ましげな表情して空を睥睨した。王種とはアルファ個体と呼ばれることもあるリーダーとなっている個体のことで、往々にして他よりも強く賢い個体なのだ。
そしてその強さや賢さは群れの規模に比例し、魔物たる所以なのか別種とも言えるほどの変異を遂げている個体も珍しくはない。そして現在、空を覆う
「大方、この群れの何処かに隠れているんだろうな。見た目がそう変わらないのは朗報だが…変に知恵があると厄介だな」
ギルド長は厳しい視線を空に向ける。現在進行形で力と力のぶつかり合いと言うべき戦場を構築しているため説得力はないが、卓越した狩人ほど魔物との争いは知恵比べと表現する。それこそ、賢い個体が群れの中に混じっているのならば、このまま安易な攻勢を継続するとは思えないのだ。
「タルテ!王種の気配は感じ取ることはできるか!?俺が風で探る限りじゃ判別がつかない!」
俺は近くで戦うタルテに声を掛けた。俺の風では王種の判別などできはしないが、彼女の龍由来の感性ならそれを見抜くことができるのではと考えたのだ。俺の声を耳にして、タルテは集中するように空を静かに観察する。
しかし、何かに気付いたのだろう。その静かな集中は僅かな時間だけであり、タルテは驚いたように唐突に目を見開いた。
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