第582話 お嬢様曰く頭が高い
◇お嬢様曰く頭が高い◇
「ハルト!もうあんまり時間が無いよ!…凄いね。続々と集まってきてるよ…」
祭祀場の端にロスカーとヒュージルを運搬した俺に向かってナナの声がかかる。彼女の顔は威嚇するように空に向けられており、そちらを確認しなくても
そして、すぐさま耳障りな鳴き声が周囲に満ち始め、同時に俺にとっては雑音のように感じる他者の風魔法の気配が複数近づいてくる。十中八九、
「タルテ。ここです。ここを壊してくださいまし。ちょうどこの下に向こうの洗礼盤?単なる水盤かは分りませんが、そこに流れる水路がありますわ」
「任せてください…!いい具合に壊しますよ…!」
そんな
そうやってタルテとメルルは文化財とも言える祭祀場の建造物を壊して回っている。オルドダナ学院に居る歴史系の教授がそれを見ようものなら憤死しそうな光景ではあるが、どの道この祭祀場はこれから戦場になるのだから無事では済みはしないだろう。
そんな彼女達を尻目に俺は空から迫る
「…
俺は迫る
そして
「ガァアアアアオ!!」
「グァアアアアガ!!」
向こうも様子見をしているのだろうが、石舞台の上では風が強まっているだけで本格的な攻撃は飛んできていない 。変わりに
「火蓋を切れば一気に襲ってきますよ…!群れる
「あら、それなら私がお見舞いしましょうか。素早いなら油断しているうちに仕掛けたいのですの」
半身といえども意識は個別に存在しているのか、吼える竜鎧を無視するようにして装着しているタルテが今の状況を俺らに説明する。その言葉を聞いてメルルが俺に許可を求めるように視線を投げかけてきた。
敵が空を舞っているため俺が責任もって叩き落そうと考えていたのだが、なにやらメルルに考えがあるらしい。他の皆も戦う準備はできているため、俺は彼女に頷いてから言葉を返した。
「いけるか?地に落としさえすればナナがどうにかしてくれると思うが…」
「それならまかせて。むしろ飛んでる個体に攻撃するのは…ちょっとね…」
そう言ってナナは気まずそうに目を逸らす。確かに風魔法に秀でた
…単に当てられる自信がないのだろう。魔法の制御は得意なのだが、狙った的に当てるという魔法とは関係ない制御能力が相変わらずなのだ。…むしろ精霊化を成せるほど魔力制御が上手いのに、なぜノーコンなのかと問いただしたい。
「ふふ。では始末はナナとタルテに任せますわよ。落とせる限り片っ端から落としていきますわ!」
「任せてください…!鎧ちゃんもヤル気ですよ…!」
メルルが火蓋を切る気配を見せたからか、タルテの言葉に合わせて竜鎧も一際大きく吼える。その咆哮の裏で、透き通った声でメルルが魔法を唱え始めた。
「死肉の泥濘、愛は眠りに落ちてしまう…。私の想いが静かに涙を流す間に…。
水魔法によって水を圧縮し、それを闇魔法で急激に冷却する。圧力によって氷点下の低下した水は零下になっても凍結しない。通常とは違う過冷却水となった水弾を複数展開させ、メルルはそれを一斉に
一つ一つは小さく、それこそ
その水弾が異常なものだと気付き、
群れていた弊害でもあるのだろう。群れの中では風が渦巻き、その流れに乗って複数の個体にメルルの魔法が襲い掛かった。数発身に受けただけでは影響はない。だが身に浴びた瞬間に凍結するその水は着実に彼らの重さを増やしていく。そして同時に身体の動きすら拘束し始め、そうなったらもう遅い。
瞬く間に複数の
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