第567話 堅牢な街の特別搬入口
◇堅牢な街の特別搬入口◇
「おおおぉ。レポロ!どうなった!?見つかったのか!?」
俺らがメイバル男爵邸を訪れると、レポロさんが戻ったことに気が付いたのか中からメイバル男爵が飛び出してきた。てっきりレポロさん一人が戻ってきたと思ったのだろう。俺らが共にいることに気が付くと、軽く驚いたように目を瞬かせて見せた。
レポロさんはご説明いたしますとメイバル男爵に小さく呟いてから、近場に居たメイドに俺らを応接室へとご案内するようにと声をかける。そしてレポロさんとメイバル男爵は連れ立って他の部屋へと消えていった。
「…なんか妙に焦っているというか、余裕が無いように見えるんだけれでも…どうしたんだろう?」
メイバル男爵の様子を見て、ナナが小さくそう呟いた。確かに彼女の言うとおり、メイバル男爵はこの前に会ったときとは違いどうにも落ち着きの無さが見て取れた。その様子がナナの目には怪しく映ったのだろう。どこか訝しげな表情で扉の方向を見つめている。
風で向こうの様子を確認してみれば、レポロさんが狩人ギルドであったことをメイバル男爵に伝えていた。チックは見つかったものの残りの二人は未だに街の外に連れ去られており、その実行犯にアントルドンが居ると聞けば、メイバル男爵はうろたえる様に息を呑んで見せた。
都合がいい状況に、俺とメルルもシャリアンと会った話をナナとタルテに伝える。風で内緒話をしようにも口が動いてしまうため、レポロさんが居る状態では控えていたのだ。シャリアンが兄であるメイバル男爵を快く思っていないことと、指輪と
「じゃぁ…シャリアンさんは二人の争いに板ばさみになってるんだね…」
「やっぱり…結婚は愛が無ければ駄目ですね…!愛があればどうにかなります…!」
メイバル男爵になにも問いただせていないため、温和な雰囲気の彼の本性が狡猾なものだと決まったわけではないが、彼とアントルドンに振り回されているシャリアンのことを思って、ナナとタルテが憤慨した。
そして、それから大した時間を空けることなくメイバル男爵とレポロさんが応接室に姿を現した。メイバル男爵は先ほどよりも更に悲壮な表情を浮かべ、視線を宙へと泳がせていた。そんな頼りない様子のメイバル男爵にレポロさんが故意に咳き込む音を立て、言外にしっかりしろと背中を押してみせた。
「ああ、皆様…。ベルを、ベルさんとタックさんを救出することにご協力頂けるとか…」
「…ええ、そのためにここにお邪魔したのですが、何か考えがおありなのでしょうか?」
レポロさんに背中を押され、縋るような雰囲気でメイバル男爵が俺らに声を掛けてくる。その不可思議な様子にメルルが眉を顰めるが、彼の出方を伺うように声を返した。
「それは道すがら説明いたしましょう。…準備のほうは…万端のようですね」
メルルの質問に答えるように、レポロさんが説明を引き継いだ。彼は俺らを見渡して確認をするが、俺らのほうは戦闘準備もできている。応接室に通されたからといって、それを緩めることはしなかったのだ。
そして、彼の言葉に従うようにして俺らは席を立つ。それを見届けるとレポロさんは踵を返し、俺らを邸宅の奥へと案内し始めた。
「…女性を案内するには不躾ではありませんこと?一体どこに向かうのかしら?」
「これはこれは失礼いたしました。火急の時ゆえ、道すがらご説明致しましょうかと…。初めに申しますが、これから見ることは決して他言しないようにお願いいたします」
奥へ奥へと向かう足取りに警戒心を覚えたのか、メルルがレポロさんにそう声を掛けた。彼女の少しばかり不機嫌な声に、レポロさんは慌てるようにそう答えた。
「ことは単純な話なのですが…この邸宅から街の外…それも祭祀場と呼ばれる場所まで地下道が延びているのです。…ですが、これは本来極秘のもの…。…その存在を知る者はこの領地でも私とナイデラ様しかおりません」
「メルルお嬢さん。私の不義理をお許しください。…知ってしまえばそれが危険を呼び込む可能性もあります。ですが、どうしても私は二人を無事に助けたいのです…」
レポロさんの言葉に続くようにして、メイバル男爵が足を止めるとそう言いながら俺らに頭を下げた。その言葉は必死で同時に悲壮感にも溢れており、冷ややかな目線を向けていたメルルも軽く驚くようにしてたじろいだ。
「…お嬢さんも狩人なら分ると思いますが…この街は非常に堅牢です。ですから非常時には砦として機能するのですよ。つまり…この抜け道は…」
「なるほど。…国の軍部に関係する情報ということなのですね。…確かに私達が知るには問題のある情報ですわね」
その言葉にメルルがどこか納得したようにすんなりと返事をした。そして国の軍部が関わるというメルルの言葉に、メイバル男爵とレポロさんは無言で頷いた。…この街は王都に近く、更には堅牢であるために軍部が目をつけたのだろう。だからこそ、その砦に抜け道があるとなど不用意に知られるわけにはいかないはずだ。
「…そして、この先にその入り口があります。…今ならまだ引き返すこともできますが…」
「妖精の首飾りの皆様。…お願いします。二人の救出と…アントルドンを止めることにご協力いただけないでしょうか…」
男爵邸の奥。地下へと伸びる階段の前に差し掛かると、メイバル男爵とレポロさんは俺らに振り返ってそう言った。既に抜け道の存在を知ってしまったためグレーに思われる状況ではあるが、最後の確認というわけなのだろう。
都合よく、近くの壁には振り子時計が設置されていた。既にベルとタックが連れ去られてからかなりの時間が経過している。森で魔物を避けながら進んだところで間に合うかどうかは分らない。だからこそ、ここに祭祀場まで短時間で至れる道があるのならば、利用しないことは考えられない。
俺らは互いに顔を合わせると、その覚悟を伝えるように二人に無言で頷いてみせた。
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