第559話 あいつはとんでもない物を盗んできました
◇あいつはとんでもない物を盗んできました◇
「アントルドン様がメイバル男爵家の
言葉を選ぶようにしながらも、メルルはシャリアンにそう尋ねかけた。その表情はいやに深刻そうであり、シャリアンの語った話の真偽を探っているようだ。俺はその
一方、シャリアンの方はメルルのうろたえた様子を見て彼女は満足そうに頬を吊り上げている。シャリアンの中でもその話題は自信のある特ダネだったのだろう。ある意味では彼女は当事者であり、人事のように話す話題では無いとは思うのだが、彼女からしてみればもしかしたら他人事のように思っているのかもしれない。
「ええ。あの人がこの家に持ち込んだそれを見ましたもの。間違いないわ。…兄さんに嫌がらせをしたかったのでしょうけど、明らかに嫌がらせの範疇を超えているものだから、お義父様が血相を抱えて兄さんのもとに向かったの」
「…それはグレクソン様も慌てるでしょうね。実の息子が他所の家の
あの事件が起きた要因を知ってメルルは思考を巡らせる様に口元に指を当てて考え込んだ。
「あら、貴方はいまいち理解していないようね。…従者ならこれぐらいは知っていなくては駄目よ?」
「え、ああ、すいません。…その…
ふとシャリアンの視線が俺に向くと、彼女は話に着いて行けなくなりつつある俺をからかう様にそう言った。
「ハルト様。爵位を示す紋章指輪と
俺はメルルの言葉を聞いて
「だから、お義父様が兄さんに託した指輪は、謝罪…というか
「…
シャリアンとメルルの会話には、どうも何かを掛け違いしているような違和感が漂っている。メルルもその違和感には気づいているようで、少しばかり混乱したようにシャリアンに質問を投げかける。
「あら、違うわよ。
シャリアンはそう語ると一息入れるように紅茶で喉を潤す。一方、俺とメルルはとてもじゃないが紅茶の味を楽しめるような状況ではない。彼女は直接的に明言したわけではないが、その言葉を並べれば
「…
恐る恐る、事実を確認するようにメルルがシャリアンに尋ねる。その言葉を聞いたシャリアンは特に秘密にするような素振りはなく、あくまでも他人事のように答えてみせた。
「あれから私も見てはいないけど、多分まだ持っていると思うわよ?だってまだ兄さんから指輪が返ってきていないの。馬鹿よね。お互いに急所を握り合って何がしたいのかしら」
そもそもの話、俺たちはアントルドンの爵位に関する書類に偽造の痕跡があったことから、指輪をメイバル男爵が保有していると考えていた。それはつまりグレクソンが狙ったであろう
「だから、あなたたちに目当ての物は見つかったかって尋ねたのよ?ほら、兄さんが
つまり俺らのことを盗人と勘違いしていたのだろう。それでも会うことに応じたのは確信がなかったからか、それとも
彼女の言葉からして既に俺らの疑いは晴れているようだが、それでも最後の確認とでもいうように笑みを浮かべながらも俺とメルルを探るように見つめていた。
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