第525話 可哀相な者達
◇可哀相な者達◇
「ぅおぉお…!ま、魔法で焼いたのか…!?」
逃げてきた三人の狩人は、尋常じゃない火力に動物としての本能的恐怖を抱いたようだが、それでも状況を理解すると共に憧れにも似た感嘆の声が漏れ出した。特に双子らしき男の子の二人は、羨望の眼差しでナナのことを見詰めている。ナナは比較的、妖精の首飾りの中でも背が高く大人びているため、同年代といっても憧れのお姉さんのように思えたのだろう。
そんな視線を背後から浴びながら、黒く焦げた
「押し切りますよ…!皆さん…!気をつけてください…!」
既に死に瀕した
その衝撃は
四人そろって残心の体勢をとる。沈黙と共に
「た、助かったよ…!まさかこんな化け物を討伐するなんて…!」
「あっ…!ちょっと、チック…まだ近付いちゃ…」
「…!?おい!まだ近付くなッ!!」
止まる様子の無い狩人に、俺は即座に声を掛けえる。しかし、不運なことに位置もタイミングも最悪のものを引いたようで、彼とその後ろに相乗りするように控えていた双子の狩人に向かって、
「おあっ!?なんだこれはよおッ!」
「!?チック!タック!」
不快な湿った音と共に、
下半身を中心に黄褐色の粘液を浴びた二人に紅一点である女の子の狩人が悲鳴を上げながら近付こうとするが、それをメルルが羽交い絞めにして彼らから遠ざけた。冷静さを欠いた彼女だと、二次災害を引き起こすと判断したのだろう。
「気持ちはわかりますが、慌てちゃいけませんわよ。二人は体液を浴びた程度ですわ」
「で、でも二人が…!?」
「なんなんだよぉ。この液は…。だ、大丈夫なんですよね?」
体液に濡れた二人は俺らに救いを求めるような声を上げる。完全に
「毒があるが…死ぬようなもんじゃない。直ぐにどうにかなることは無いはずだ。問題は…」
「問題は…?」
俺が全てを語る前に周囲の人間は何が問題か気が付いたのだろう。顔を顰めて彼らから一歩距離を取った。先ほどまで二人を心配していた女の子も、今ではおぞましいものを見るような目で彼らを見つめている。
「臭っさ!?何なんですかこの臭いは!?」
「…他の生物に獲物を取られないようにする
「なにが生きる知恵ですか!この臭いはそんな高尚なもんじゃありませんよ!」
あまりの臭いのせいか、初対面にも関わらず女の子の狩人は俺に対して声を荒げている。そして叫んだせいで臭気を吸い込んでしまったようで、顔を青くして口を押さえながら木陰へと移動していった。
ナナもメルルもあまりの臭気に絶句している。特にタルテはこの臭いが耐えられないようで、木陰に避難した女の子に着いていくことで完全に彼らから距離を置いている。
「おい。下着は吐いてんだろ。取り合えずその粘液塗れのズボンは脱げ。時間が経つと固まって脱げなくなるぞ」
「脱ぐって…。え、でもだって…」
俺の指示を聞いた二人は、チラチラと他の女性陣の視線を気にしている。女性交じりのチームであるようだが、意外にも初心な反応だ。だが、そんな恥じらいは捨ててしまえと、俺は軽く彼らを睨み付けた。
「いいから早く脱いでくれ。…どうすっかな。このままじゃお前ら街に入れないぞ…」
「えぇ!?帰れないって事なの!?」
「…二人とも。その臭いを身に纏って街に入るつもりだったの?正気?」
なんとか吐き気を治めた女の子の狩人が戻ってきて、二人に辛口な言葉を投げかける。だが、その内容は真っ当な物であるため、二人はいそいそとズボンを脱ぎ始めた。
「これが
「もしかして、粘液を浴びると可哀相なことになるから
俺はナナの質問に無言で頷いた。棘だらけの巨体という厄介な魔物であるが、何より厄介なのがこの粘液なのだ。
熊などは食べきれない獲物を保存するために、土で埋める土饅頭というものを作り出す習性があるが、
だが、単に保存しているだけでは他の肉食獣に獲物を掠め取られることもある。それを防ぐために
「
「流石に活性化している森で野営は危険ですわ。沢も近いのですから、とにかく洗いましょう」
その声と共にナナは水魔法を行使して、球体の渦を作り出す。さっきの戦闘では見て解るような水魔法を行使していなかったため、彼らは驚いた顔を浮かべるが、それと同時にその渦が自分達を洗うための人間洗濯機だと知って、引きつった笑みえと変化した。
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