第497話 蟻故に力強く、獅子故に心強い
◇蟻故に力強く、獅子故に心強い◇
「うわぁ…。なにあれ。流石に気持ち悪いね…」
街道の先、森の切れ目を見詰めながらナナが辟易としたようにそう呟いた。ナナの言葉に同意するようにメルルもゆっくりと頷く。戦闘開始地点に待機している俺らの前方には、森から染み出すように大量の
黒色や銀灰色の
「うう…。羊さん…大丈夫ですかね…?」
「頼むから羊を助けるために前には出るなよ…」
タルテの声に答えるように、一匹の羊がメェエと鳴いた。俺らが待機している位置よりもさらに前方、そこには血を流す羊が頑丈な鉄の檻に閉じ込められているのだ。羊は
残酷な手法ではあるが家畜を囮にすることはよくある話だ。むしろ今回は頑丈な鉄の檻に守られることになるため、生き残る可能性も無いわけではない。…因みに檻は祭祀の一族の屋敷から押収されたものらしい。恐らくは禁足地への運搬に用いていたのだろう。何を運んだとは言わないが…。
傷を負った羊に気付いたからか、それとも追ってきた避難民の臭いが濃くなったからか、
「さぁ始まりましたわ。この量なら直ぐにでも私達の番が回ってくるでしょう」
「今回の場合、ある意味あんまり活躍しないほうがいいんだけれどもね…」
俺らは騎士と足並みを揃える訓練をしていない。だからこそ、俺らは戦線に加わるのではなく、衛生兵という役割が与えられているのだ。衛生兵といっても後方で傷病人を待つような仕事ではない。光魔法が使えるタルテも闇魔法が使えるメルルも戦える人間であるため、積極的に戦場に出向きその場で治療を執り行う少しばかり特殊な衛生兵なのだ。俺とナナは二人がなるべく治療に専念できるように護衛として付き従うことになる。弱った所に駆けつけるという点では、遊撃兵としての動きに近いこととなるだろう。
騎士達が橋頭堡から躍り出ると、瞬く間に戦列を構築する。そして
「早速一人目だ!俺が切り開くから着いてきてくれ!」
「はい…!解りました…!」
行き掛けの駄賃として近場の
「タルテちゃん!壁を張るからその間にお願い!」
「あっ…あっ…から…体っ…がっ…!」
「麻痺毒ですね…!これなら直ぐに治せます…!」
そしてタルテが火から遠ざけるように騎士を引き寄せれば、それと同時に麻痺毒を治療する。騎士は多少は戸惑ったものの、直ぐに自分の状態を把握し礼を言うと即座に戦線に復帰する。
そんなことを数回も繰り返せばどんどんと戦況は広がり、更には過密になってゆく。騎士達はなるべく混戦とならぬよう隊列を維持して戦っているが、まったく綻びが無いわけではない。特に
「ダメです!戦列維持できません!」
「泣き言なんか聞きたかないね!なんとかしろ!」
そんな悲鳴が聞こえて駆けつけてみれば、複数人の騎士が押し込まれながら戦列が崩壊しかかっている。終いには吹き飛ばされるようにして盾持ちの騎士が俺らの方に転がってきた。
「タ、タルテ!?貴方、討ち漏らしをしたのですか…!?」
「ち…違いますよぉ…!?あの頭は私が潰したわけじゃありません…!」
「で、でもあんなにぺっちゃんこなってるよ!?タルテちゃんが殴ったんじゃないの!?」
騎士達を吹き飛ばした異形とも言える奇妙な
ヒラズオオアリやナベフタアリは、その異形の頭を巣穴を守る扉として活用する産まれながらのドアマンなのだが、この
「ハ、ハルト…。
「…一応、獅子の範疇に入るんじゃないか?ほら、そこはかとなく片鱗が…」
「あ…あんな平坦な顔の獅子さんもいるんですか…!?驚愕です…!?」
バスなのだからこの
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます