第496話 前線基地かつ最終防衛ライン
◇前線基地かつ最終防衛ライン◇
「お前ら丸太は持ったな!嬢ちゃんに合わせて突き立てるぞ!」
騎士の号令に合わせて俺やナナ、メルルは丸太を担ぎ上げる。そしてタルテは俺らや騎士達を見渡した後、大地に手を当てて土魔法を行使した。土は命を吹き込まれたように蠢くと堀と土塁を形成しはじめた。
そして一列になった丸太組みが一斉に丸太を突き立てる。丸太は柱となって俺らを囲うように聳え立ち橋頭堡を構築した。ヴィリデザルトの街の外壁は背が低く、魔物から身を守るためには余りにも心許ない。そのため、この橋頭堡こそがいざと言うときに身を守る防衛ラインになるのだ。
街の外周部にはそれだけでなく、木を交えるようにして連ねた拒馬や切り倒した木を括り付けた逆茂木など敵の足止めとなる障害物が複数用意されている。そのどれもが敵の侵入を阻む物ではなく、敵の足を遅らせるものだ。つまりは防衛というよりも、敵を殲滅することを視野に入れた攻撃的な陣地構成とも言える。
「お嬢さん方。手伝いは…不要なようですね。まさか一人でそれを持ち上げるとは…」
「ええ、これくらいなら問題ありませんわ。少し大きいので持ちづらくはありますが…」
「メルルは体重が軽いからだよ。もっと食べなきゃダメだよ?…最近、また食べる量減らしてない?」
「私を誘惑しないで下さいまし。貴方と違って私は食べた分だけ増えるのでから。…これでも他の方々よりは食べているほうですわ。ナナとタルテが異常なのですよ」
男の俺はともかく、細身なナナやメルルまでもが丸太を担いでいるため周囲の注目を集めている。身体強化の魔法で力強い女性というのも多く居るが、身体強化を習得する人間は肉体も鍛える者が大半であるため、ナナやメルルの体格で人並み以上の膂力を見せるのが珍しいのだろう。
「はい…!ここにも柱を立てますね…!」
「おいおい…。お転婆にも程があるだろう…。どんな馬鹿力してるんだ」
だが上には上が居る。タルテは木の幹に指先を突き刺し片手で丸太を地面に突き立てる。片手でそれをするのも異常なのに、タルテはもう片手にも丸太を抱えているのだ。人間
ジュドゥルゥに切欠になったと打明けられたからか、タルテは妙に張り切っている。必要以上に気張っているのならば諌めるのだが、この程度の肉体労働はタルテにとってなんともないため、俺らは止めることなく見守っている。
なにより、拠点構築のできは勝敗に大きく関わるのだ。多少無理してでも整える価値は十分にあるはずだ。
「おうい!遠征チームが戻ったぞ!避難者も一緒だ!」
タルテの立てる轟音に紛れて、街道の先に手を振る騎士の声が響く。そこには遠方に敵の確認に向かっていた部隊と、それに引き連れられている農民らしき者達の姿があった。彼らは焦燥し疲労が見える足取りであったが、俺らが敵に備えて陣地を構築しているのを見て安心したように息を吐き出した。
そして、少しばかりの元気を取り戻したのか、速度を上げて街の入り口へと向かって歩き続けている。彼らはまるで展覧会に訪れた客のように、拒馬や逆茂木など見慣れぬ陣地構築の物品を見詰めていた。
しかしそんな視線も、次第に轟音を立てる人間
「ガナじゃないか。どうやら無事だったみたいだな。…随分疲れてはいるみたいだが」
「あぁ、あんたか。…無事なもんか。死ぬるか思うたぜよ。いや、もしかしたら死ぬるかもしれん…。畑が蟻の化け物だらけや。このままじゃ渇え死にや」
避難してきた者の一人は棚畑で出会った小作人のガナであった。彼は今助かった安堵と将来に確実に迫る不安に挟まれて何とも言えない表情で俺にそう答えた。流石に子爵か、あるいは国から保障はされるだろうが、確実なことではないため彼に安心しろとは言うことができない。
「畑ってあの棚畑か?お前見てきたのかよ。随分と危険なことをしたな」
「俺らの村は近場にあるきな…。魔物が出たばっかりやきよ、そりゃ数匹は出るんやないかと確認しに行ったんやけんど、…まさかすし詰めになっちゅうとは思わんろ」
「ガナ。話しちょらんで街へ向かうで。今なら貴族様が寝る場所を用意してくれゆうらしい」
「わかっちゅう。…ほんならな。気ぃつけや。足は遅いみたいで爺婆も連れてくることができたけんど、騎士様が言うには俺らの臭いを辿ってこっちに向かってきちゅうらしい」
父親らしき者に声を掛けられて、ガナは後を追うように足を進める。去り際に俺に忠言を残していったが、それはある意味では都合のいい情報だ。目撃証言から来る方向をある程度推測しているものの、確実にこちらに向かっているという情報は無かったはずだ。
それこそ、大量の
「おい!急げ!時間は然程残ってないぞ!この後楽したければ今手を動かせ!」
遠征部隊の報告が通達されたのだろう。拠点を構築している騎士に向かって大声で指示が飛ぶ。その声に応えるように騎士達はいっそう励むように動き始めた。
遠くに禁足地を望む道の先を見詰めれば、複数の狼煙が上がっているのが確認できる。それは放たれた斥候が
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