第495話 目と目が合う
◇目と目が合う◇
「この通り三名は一時的に解放する事となった。…すまないな。そなた達が折角捕らえてくれたというのに解放させることになってしまって…」
エルフ達の取り扱いが決まると、第三王子が小声で俺らに詫びる。ハベトロットの上着を手に入れてからというもの、第三王子は随分と傍若無人な振る舞いが鳴りを潜め理知的な行動を取っている。…まるで劇場版の暴君のようだ。まさかハベトロットには心を綺麗にする効果もあるのだろうか…。
「気にすることはありませんわ。私としましても、ジェリスタ王子の考えた策は妙案に思えますもの」
「そういってくれると助かる。なに、もちろん見張りの騎士はつけるためそう自由には行動できないはずだ」
エルフの三人組はこのまま街の外周部へと移動することとなり、ジュドゥルゥは人質として子爵館の一室に閉じ込められることとなる。彼らは騎士達に促されて連行されるように移動を開始した。
「待ってくだされ。最後に少々よろしいでしょうか…」
しかし、ジュドゥルゥはそう言いながら唐突に歩みを止めた。彼は俺らの方を振り返るとタルテに向かって口を開いた。…念のために俺は風壁を張る。こいつはタルテの種族に感づいているのだ。
「…恐らく
「か…解決のために…ですか…?」
ジュドゥルゥは一方的にそう言いつけると、再び騎士に従うように歩き始めた。その背中を見詰めながらタルテも他の皆も言葉の意味を考えるように首をかしげた。
「なんだったんだろ。普通に考えれば私の火魔法やメルルの闇魔法が効果的だよね?」
「そうですわね。タルテの木魔法は育てることはできても枯らすことはできない筈ですわ」
「あのあの…!一応…強引に育てれば枯らすことはできます…!ただ…そうなる前に物凄く元気になりますので…」
「急成長に耐えられなくなって枯れるんだろうが、流石にそれを試すのは危険すぎるだろ」
解決法に心当たりがあるならばはっきりと語れと言いたくなる。…明言しなかったということはジュドゥルゥにも確信がある訳ではないのだろうか…。だが、一考の価値はあるのかもしれない。木魔法を使えば植物を操ることも可能となる。単なる植物ではなく魔物である
「四人とも引き止めて悪かった。…皆は戦闘に加わるのであったな。無事を祈っているぞ」
俺らが軽く話し合っていると、今度は第三王子が俺らの会話に混ざるように輪に加わってきた。
「ありがとうございますわ。…ジェリスタ王子もお気をつけを…。戦闘に騎士が出張る分、子爵館が手薄になりますので…」
「ああ、アデレードが離れるなと口煩く言っていたよ。…ところで、エルフ達は魔法で内緒話をしていたか?」
「…そのために俺らを呼び止めたんですか。生憎と魔法を発動する気配もありませんでしたよ」
何のために俺らを引き止めたのかと思ったが、監視のために風魔法使いである俺を置いておきたかったらしい。できれば事前に言ってほしかったが、俺は素直に第三王子の質問に答えた。
「そうか。それならば良い。…あとは魔物を倒すだけであるな」
「任せてください…!私が責任もってやっつけちゃいます…!」
「無理はするな。騎士なら未だしも同行した学生が怪我をしたとなれば瑕疵に…。いや、そうではないな…。ただ単にそなたらには無事でいて貰いたい。危なくなれば素直に引いてくれ」
「大丈夫ですよ。私達狩人は安全第一です。騎士との一番の違いはそこかもしれませんね。それじゃあ行ってきますね」
第三王子との別れの挨拶を済ませ、俺らは馬車の集まる場所に向かう。子爵邸の庭は騒がしく、天幕の外に出ればより一層それを強く感じた。
矢や木材に縄や薬。ヴィリデザルトの街中から子爵邸に物資が集められ、それを馬車に積み込み次々と運び出してゆく。既に何往復もしているのだろう。馬達は心なしか疲労の色が見て取れる。騎士達の踏み固めた子爵邸の庭を進みながら、俺らも集まった物資に並ぶように馬車乗り場へと移動した。
しかし、もう少し出立を遅らすべきであったか。そこには先に天幕を出て行った者達も居るようで、俺に向けてチリチリとした視線を感じたのだ。
「…ねぇ、ちょっと。ハルト…あれ…」
「…言うな。ああいうのは目を合わせちゃダメなんだよ」
ナナが俺の袖を引きながら、馬車乗り場の一画を指差した。彼女の指の先には護送されている三人のエルフが出立の準備をしており、そのうちの一人である例の弓使いが俺に向けてメンチビームを放っているのだ。
『おい双剣使い。お前がハーフリングというのは本当か?』
しかし俺が無視を続けたからか、向こうから声を風に乗せて話し掛けてきた。俺は辟易しながらも奴に向かって返答する。
『おや。誰かと思えばたかだか一撃で伸びた弓使い君じゃありませんか。…てめぇ、それを誰に聞いた?』
『…負けは素直に認めてやる。余りにもお前に有利な間合いで戦いすぎたな』
『はぐらかすな。お前から振ってきた話題だろ?』
『…長老に聞いたのだ。俺がお前のことを聞いたら、恐らくそうだろうってな』
ジュドゥルゥはタルテだけでなく俺の種族まで特定したのか…。面として向かい合ったのは今日が初めてなのだが、遠目に見て判断したのだろうか。
『それで…、そんなことを聞くために話しかけてきたのか?』
『本当にハーフリングなのかよ…。…話しかけたのは忠告のためだ。お前が風を纏うと矢がそれる。くれぐれも射線には入ってくるなよ…。当てない自信は無いからな』
『…ご忠告どうも。心配しなくてもこっちで避けるから存分に射ればいい』
背後から俺を射るという予告なのか、あるいは言葉通り心配してくれているのか解らないが、俺はそう答えながら弓使いを一瞥する。俺を見据える弓使いの顔は敵意があるようにも悩んでいるようにも見える顔付きで、弓使いの言葉以上に真意を読み取ることができなかった。
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