第459話 人間が大好き。魔物が大好き
◇人間が大好き。魔物が大好き◇
「ハルト、どうする?次は狩人ギルドだけども…、ジェリスタ王子を連れて行くのは流石に不味いよね」
不足していた物品の買い物を済ませ次に向かおうとしたところで、ナナが俺に相談してくる。本来の予定では狩人ギルドに赴いてバグサファ地方の魔物の生息情報を仕入れるつもりであったのだが、確かにナナの言うとおり狩人ギルドにまで第三王子を引き連れていくのは気が引ける。
狩人ギルドに限らず、ギルドというものは専門職の集まりなのでどうにも排他的なのだ。もちろん民度が低いわけではないので、誰彼構わず喧嘩を売ってくるような輩がいる訳ではないのだが、かといって商店のようにお客様扱いをしてくれるとは限らない。
「そうだな…。狩人ギルドには俺だけが向かうから、ナナ達は他の場所に向かっててくれ」
「大丈夫?…個別行動をすると目を付けられるんじゃない?」
そう言いながらナナは周囲に目を配る。彼女の視線は俺らを遠巻きから護衛している近衛のことを指し示しているのだろう。内通者の存在が疑われている状況で俺だけが狩人ギルドに向かったらいらぬ誤解を受けてしまう。ナナはそれを危惧しているのだ。
…アデレードさんに声を掛ければ、近衛の一人くらい回してくれないだろうか。近衛だって魔物の情報が欲しいはずだから、こちらから提案すれば乗ってくれるかもしれない。
「何を話し込んでいるのだ?そこの角女に聞いたが、次は狩人ギルドとやらに向かうんだろ?」
俺が声送りの魔法でアデレードさんと連絡を取ろうとしたら、横合いから第三王子が声を掛けてくる。…どうやら俺らが相談している間に、タルテと話をしていたらしい。タルテが情報を漏らすことを阻止できなかったからか、メルルが苦笑いでこちらを見ている。タルテはピュアだから情報戦だとか腹の探り合いとかは苦手なのだ。
「ジェリスタ王子…。狩人ギルドは物見遊山で向かう所ではありませんわ。何より魔物の情報を貰いにいくだけですので、ジェリスタ王子が向かっても面白くはないかと…」
「殿下。狩人ギルドなぞは流れ者が多く在籍する組織です。あまり近付くべきではないかと…」
メルルが第三王子を引き止めれば、それに乗っかるようにしてモルガンが口を開く。彼が狩人ギルドを悪く言うのは癪に障るが、何故か乗り気の第三王子を引き止めるためにもあえて黙っておく。
「それくらい構わない。こんな機会なんて滅多に無いのだから、つまらぬことを言うな」
だが、第三王子の意思を変えることはできなかったようだ。道中でナナとメルルが狩人としての活躍を話したことが、第三王子の興味を引く要因になってしまったらしい。俺らは無言で視線を合わせると、第三王子を説得することを諦め狩人ギルドへ歩み始めた。
俺らが歩み始めると同時に、周囲に潜んだ護衛も移動し始める。第三王子もモルガンもその護衛には未だ気付いていないようで、俺らの案内のもと気ままに道を進んでゆく。
『アデレードさん。俺らはこのまま狩人ギルドに向かいます。…近隣の魔物の情報を仕入れますが、近衛の方も話を聞きますか?』
『ありがたいです。領主のほうから情報は頂いていますが、やはり現場で動いている者の話が聞けるのでしたら聞いておきたいです』
俺が声送りの魔法でアデレードさんと連絡を取れば、彼女は俺らの近くを離れて先回りするように移動する。俺がこうやってこまめに連絡を取ることで、事前に警備網を敷いているのだ。先回りしたアデレードさんを追うようにして、俺らも狩人ギルドに足を踏み入れた。
ダーレの狩人ギルドは規模も大きく、それに沿うように人々で賑わっている。そのお陰もあって狩人ではない第三王子とモルガンが足を踏み入れても注目されることは無い。俺らが付き添っていることもあって、狩人が依頼者を同伴してやってきたとでも思っているのだろう。
ロビーの中央に備えられた依頼の掲示板。その向こうにはギルド員の並んだカウンターがあり、奥には普段の生活では見ることの無い原型を留めた素材たち。初めて入る狩人ギルドに第三王子は好奇心を抑えられないのか、落ち着かない様子で建物の中を見渡している。だが、その中に知っている人間を確認したため、視線と共に歩みを止めてしまう。
「アデレード?なぜここに居るのだ?」
「魔物の情報を仕入れに来たところですよ。これからの道のりは山間部を縫うように進みますからね」
「ほう、そうか。こちらもそう思って情報を聞きに来たのだ。近衛と同じ所に目をつけるのは中々じゃないか?」
第三王子は得意気な顔でナナとメルルに目をやる。あくまでも主体は俺らで、第三王子は社会科見学として付き添っているだけなのだが、彼としては既に俺らは一つのチームらしい。そんな第三王子を尻目に俺はカウンターにいるギルド員に近隣の情報を要求する。
モルガンが狩人ギルドは流れ者ばかりと言っていたが、それはある意味事実で季節によって拠点を移す狩人は多い。だからこそ、こうやって要求すれば直ぐに近隣の情報を教えてくれるのだ。俺はギルド員が読み上げる内容を手元の紙に書き写してゆく。
「…この、要注意事項の
「珍しい魔物ですからね。ですがここら一帯の森は
いつの間にか俺の背後に詰め寄っていたアデレードさんが、俺の手元を覗き込みながらギルド員に尋ねかける。
手ごわい魔物ではあるものの、人よりも足が遅く蟻と違って大規模な群れを作らないので脅威度はそこまで高くない。人よりも逃げることができない家畜が襲われることが殆どだ。…しかし、この土地では生息数が多いため被害に会うことが多いらしく、見れば掲示板にも警告が張り出されている。
「ほぉ。こんな面妖な存在も居るのだな。…好物は人間。この魔物は人懐こいのか?」
「ジェリスタ王子。好物というのは食料としてですわ。見つけても寄って行かないで下さいね」
掲示板の近くでは第三王子が
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