第321話 彼らも一応賞金首
◇彼らも一応賞金首◇
「…!?紫煙が揺蕩い心を満たす。風にキスする私の魔法…!」
褐色の肌をした女が飛び退くと同時に投げキッスをする。もちろん、単なる投げキッスなどではなく、彼女の指先から紫煙が沸き立ち、狭い坑道内に充満し始める。俺はすかさず風を吹かせてその煙を押し出した。
俺がその煙をどうにかすると思っていたのか、あるいは煙を無視して突っ込むつもりであったのか、ナナとメルル、そしてタルテは即座に彼女との距離を詰め攻撃を加えようとする。三人による集中攻撃。もちろん、俺が相対していた
だが、その剣をナナが
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待って!なんで私ばかり狙うのよ!」
「おい、ヴェリメラ。余り毒を使うなよ。俺が死ぬ」
「使わなかったら私が死ぬわよ!」
褐色肌の彼女は迫り来る三人に対して独特な形の短剣を抜き放つが、何時にも増して巧みな連携を見せるナナ達に押され、
「お、おい。ちょっと、三人とも…無理して攻めなくても…。それに、できれば生け捕りで…」
…こいつらは露天掘りの斜面を滑り降りてくる際に、忍び込んだのが見つかったと騒いでいた。それが本当ならばこいつらも俺らと同じような立ち居地であるため、無理に争う必要は無い。俺が初っ端に襲ったのは上手く捕獲できれば、こいつらの情報や目的を引き出しやすいからだ。
だが、優位に立てる
「ついてねぇな。お前ら河岸を王都から変えたのか?居るのを知ってりゃこんなとこ来なかったのによ」
「…一応聞いておくが、ここで何をしていた?ここのクランに雇われたって訳じゃないんだろ?」
「お?今回は真っ当な仕事だよ。…お前らもここの一味って訳じゃ無いよな?いたらもっと前に見ているはずだ。それとも最近加入したのか?」
「こっちも依頼だよ。…真っ当な仕事というなら、何故こんなとこにいるんだよ。逆さ世界樹でハイキングツアーでも始めるつもりか?」
剣戟を重ねながら、俺は
傍らではヴェリメラと呼ばれた女が三人に追われているが、俺と男を間に挟むことで上手く逃げ延びている。…三人掛りならそれでも直ぐに制圧するのだろうが、非戦闘員であるガイシャに二人の意識が向わないよう、気を使って立ち回ってくれているようだ。どうやら、やけに三人が好戦的に見えたのは俺の気のせいらしい…。たぶん…。
「ちょっと…!ダーリンとカクタスが言った言葉聞こえてる…!?私達はあなた達に襲われる謂れは無いわよ…!」
「誰のことをダーリンって言ってるのかな…!第一、あの森であなた達が何をしていたか忘れたの…!?」
「まさか…あなたの男にキスしたから怒ってるわけ…!?」
「…そうじゃなくて…水源に毒を入れようとしたでしょ!」
姦しい声が坑道に響く。一応、まだ隠密中と言うことを分かってくれているのだろうか。俺は慌てて風壁の魔法を厚くした。そして、俺とカクタスと呼ばれた男は互いに訴えるように視線を合わす。
この状態はどちらにとっても好ましいといえる状況ではない。なぜなら、この二人は地底の呼び声の一味に見つかってここに逃げ込んできたと思われるからだ。いつ彼らの追っ手がここいらに近づくか分からない状況で戦闘音を響かせるのは得策ではない。
「…はぁ。一端戦闘中止だ。坑道の奥に行ってほとぼりを冷ますぞ」
「ほら!聞こえた!?停戦の指示が出たわよ!…ちょっと、その目は何よ!」
俺の号令で互いに距離を離す。未だに信用の置ける間柄ではないが、恐らくは目的が一部重なっている。妙に女性陣が剣呑としているが、お互いの間に開いた空気がゆっくりとその熱を冷ましていく。
「お、おい。大丈夫なのかよ…」
「いいから、まずは奥に向かおう。…そっちもそれでいいよな?」
「できればこのままお暇したいんだが、まぁそれは難しそうだな」
唐突な戦闘に加え、未だに張り詰めている気配にガイシャが弱気をこぼすが、それを牽制するように俺は奥へと向かうように促がす。カクタスと呼ばれた男は張り詰めた空気にも飄々とした態度を示しているが、手は剣に掛けておりいつでも応戦できる位置を崩してはいない。
後ろに不安があるため先頭にガイシャが立ち、それにナナとメルルとタルテが続き、最後に俺が付く。そして十分な距離を開けて二人組みが後を付けるようにして坑道の奥へと足を進める。
「…それで、再度聞くがお前らの目的は?そっちには後ろ暗い疑惑があるんだから先に話してくれるよな?」
「安心して頂戴。ダーリン達と戦ってから不穏な依頼は断ってるの。…いくら報酬が良くても国に睨まれる様な事はしたくないわ」
坑道の奥に進みながら、俺は後ろの二人組みに尋ねかける。褐色肌の女が答えながら俺との距離を詰めてくるが、俺の前方から降り注ぐ視線が彼女の足を止めた。
「それで、具体的な内容は?依頼者はまだしも、目的ぐらいは語ってくれると助かるんだが…。多分、ブッキングしかけてるだろ…」
「ああ、今回は…暗殺だよ。真っ当な依頼だろ?」
なるほど。暗殺か。…それは随分と真っ当な依頼だ。その軽口に俺らの間の空気が、熱を冷ますどころかひりつく様に冷たくなる。
「カクタス!…ええと、その、殺しの依頼ではあるのだけど…、真っ当な依頼なのよ?秘密裏に殺して欲しいからギルドも通してはいないのだけれども…、いわゆる賞金首に近いかしら…」
冷えた空気を誤魔化すかのように、ヴェリメラと呼ばれた女性が取り繕うように会話を続ける。その声色は焦りにより少々上擦っているが、誤魔化すような気配は見られない。
「…あなた達もあの魚みたいな人を見たでしょう?それを作り出した奴の暗殺よ」
…彼女にとってもあの
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