第301話 地底の無法者
◇地底の無法者◇
「抜けましたわね。ここは一体どの辺でしょうか?」
俺らは横穴を抜けて岩の隙間から光の中にその体を晒す。その眩しさのおかげで光の原の近くだとは分かるが、具体的な位置が不明であるため、目を細めながら周囲を観察した。
抜け道の繋がる先は、入り口と同じような岩壁の崖の途中に開いた穴であり、眼下には逆さ世界樹の大穴を覗き込むことができる。そしてリーガングロックの使用したであろう降っていくための僅かな取っ掛かりが壁面に続いている。
「光の原の上みたいだな。あそこに見えるのが暗闇洞穴の出口じゃないか?」
どうやら俺らがたどり着いたのは暗闇洞穴の出口にある光の原の端の上部に抜け出るものであったらしい。遠方の方にはその光の原に開いた暗闇が見て取れる。
「…あれが私達を追ってきた人たちかな?」
「間違いないでしょう。時間的にも他の者が紛れる暇は無いはずです」
その視線の先に佇む暗闇洞穴の出口から、狩人らしき集団が姿を現す。体には何匹もの洞窟ムカデがへばり付いている。
「見たことある顔が一人いるな。…この前潜ったときに俺らを追ってきたやつだ」
ナナの問いに答えながら俺はそのうちの一人に注目する。肩や背中に張り付いた洞窟ムカデを眉をひそめながら取り払っているソイツは、この前俺らを追ってきた後、
その集団は辺りをきょろきょろと見回し、まるで何かを探しているようだ。そのうちの一人は犬の獣人であるようで、地面に顔を近づけて臭いを辿ろうと頑張っている。やはり臭いを用いて俺らを追跡していたのは間違いなかったようで、臭いを元に俺らが光の原からどちらに向ったかを割り出そうとしているようだ。
「あれって…、私達を探しているのでしょうか…?」
「だろうな。この前の探索で目を付けられたか…、あるいはリーガングロックの隠し財宝でも探しているんだろうよ」
前回、妙な輩に付回されたため、ガイシャや他の狩人達からそれとなく情報を集めてある。いかんせん状況の説明しかできなかったため、確かなことは何もわからなかったが、俺らを付けていたのは『地底の呼び声』と言う名のクランと思われるとのことだった。
その名はガイシャと初めて会ったときにも聞いた注意すべき者達の名前の一つであり、この逆さ世界樹でも最も規模の大きいクランの一つだと聞いている。彼らはそれこそリーガングロックが失踪した後に次代の担い手として台頭した者達であり、下層を攻略するクラン上層部は長期にわたって逆さ世界樹に篭っているらしい。そして中層にはクラン上層部の攻略を助けるために、物資運搬のための下部構成員が蔓延っているらしく、俺らが付けられたのはその下部構成員だということだ。
「わざわざ採掘の手を止めてまで新顔を追い回すのは人員に余裕のあるそのクランだということらしい。他の奴らならもう少し情報を集めてから仕掛けてきたりするなど、もう少し慎みがあるそうだ」
俺は調べた情報を解説するように三人に伝える。もちろん地底の呼び声以外の者達である可能性も高いが、確かに彼らの振る舞いは探窟の合間に隙があれば他人を襲うというよりは、初っ端から俺らを襲うためだけに動いている節があった。ガイシャの言うとおり人員に余裕があり、たとえ問題が起きたとしても、人数差でどうとでも押し切れると考えている奴等なら納得もできる振る舞いだ。
「前回は女性陣に目を付けられたようだったが、今回はこっちかもしれないな…」
俺はそう言いながら持ち上げたリーガングロックの手帳を手の甲で軽く叩いてみせる。
「確かに伝説的な狩人の残した手記なんて、他の狩人からしてみれば喉から手が出るほど欲しいだろうね。…実際、それからここの抜け道を知ったわけだしね」
「もしかして…、その手帳を入手するために…わざわざ遺体の回収を依頼したのでしょうか…?」
「そういう者もいる可能性があるということですわ。…どの道、私たちは粛々と依頼をこなすだけですわね」
手帳の存在は秘されてはいるが、隠し財宝の伝説が噂されているなど、それに類するものが残っている可能性は多くの狩人が疑っている。もちろん、今回の依頼者の多くはリーガングロックを弔いたいという者が殆どだとは思うが、中にはそんな思惑があった者も存在する可能性はある。
そもそも、領主が指名依頼に名を連ねているのも、俺らがリーガングロックの遺産を懐に入れる前に入手しようという考えなのかもしれない。
…邪推すればきりがない。俺は気分を変えるように逆さ世界樹の壁を登ってくる風をその身で感じるように浴びる。
「あんまりここでのんびりしてもいられないな。向こうも先に進むみたいだし、俺らも目的地に向おうか」
視線の先では、追跡していた者達が俺らの姿を捉えようと、主要なルートを先に進み始める。…残念ながらそちらの道には俺らの目指す場所は無い。リーガングロックの遺体がタニファの縄張りにあったように、彼は遠回りな右回りのルートではなく、左回りの近道となるルートを使用していた。この横穴から伸びる岩肌の取っ掛かりも左回りの道に向けて伸びているのだ。
「そうだね。完全に私達を見失ったことに気がついたら、もっと人員を増やして捜索されるかもしれないし…。さっさと用事を済ましちゃおうか」
ナナのその呟きを合図として、俺らは身を潜めたまま岩肌を下り始めた。
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