第273話 オープンセサミ
◇オープンセサミ◇
「…どういう状況?これ」
再び砦の内部に侵入して、内部を探してみれば思いのほか早くナナたちと合流できた。それもこれも、砦の内部に殆ど敵のチームが残っていなかったからだ。時折現れた人影も、既に撃破扱いとなっている者だけであり、戦闘なども起こっていなかったのだ。
「ああ、ハルト。来たんだね。今ちょうどどうするか話してたところなんだよ」
駆けつけてきた俺にナナが話しかける。ナナの後ろには頑丈そうな鉄扉があり、内部からは何やら騒ぐような声が聞こえてくる。
「敵チームの大半はこの扉の向こうですわ。結構な人数が逃げ込んでいます」
どうやら攻城戦の次は立て籠もりらしい。中の奴らは競技会の終了まで引きこもるつもりなのだろうか?
俺は鉄扉に近づき軽く拳で叩いてみる。頑丈そうな扉では有るが、破ろうと思えば破れなくは無い。僅かに開いた隙間からは中で騒いでいる者達の声が漏れ聴こえてくる。その隙間から部屋の中に風を侵入させ、その騒いでいる声を俺達の元へと送り届けた。
『だから…!早く侵入者を倒して来いって言っているんだ!』
『そりゃぁ分かってますよ。だからこの鉄扉を開けちゃもらえませんか?』
『そそ、それは駄目だ!その扉の向こうにもう来てるんだろ!中に入ってこられちゃ私が襲われるかもしれないじゃないか!?』
『レジアータ様…、唯一の出入り口なんですから、開けてもらえなきゃ俺たちも外に出られませんよ…』
『いいから!その扉を開けずに外に打って出ろよ!』
…一休さんかな?…どうやら指揮官殿は混乱しているらしい。
漏れ出てくる声はそれだけではなく、かなりの人数が部屋の中に詰めているのがわかる。どうりでここまでの道中に戦闘の痕跡がほとんど無かったわけだ。大半の人員はここに篭っており、ナナ達も大して戦闘をせずにここまでたどり着いたのだろう。
「どうする?中に煙でも送り込むか?」
タルテであれば手頃な穴を簡単に開けることができるだろう。あとはナナにその辺の木材を燃やしてもらい、俺が煙を送り込めばいい。完全密閉された部屋ではないが、瞬く間に煙が充満し中に篭っている奴らを炙りだすことができるだろう。
「流石にそれは…。周囲の眼もありますから…」
俺の提案にメルルが苦笑いで答える。…たしかに煙攻めは有効であるだろうが、あまり褒められる手法ではないか…。
「そうだね。ハルトも来たことだし、ここは真正面から打って出ようか」
「じゃあ、破城槌で抉じ開けると言うわけか」
それならばと俺はタルテに目配せする。タルテは俺が何を求めているか分かっているようで、|手
「分かりました…!少し離れててくださいね…!」
「タルテちゃん…、少し手加減して開けてね?向こう側に人がいるみたいだし…」
この頑丈な鉄扉が吹っ飛んでいけば、死にはしないだろうが重傷を負う可能性がある。怪我が前提の競技会では甘い配慮かもしれないが、こちらでコントロールできない攻撃は控えるべきだろう。
「いきます…!」
タルテが手加減しながら鉄扉を殴りつける。轟音と共に鉄扉はひしゃげるが、加減をしたかいがあって、吹き飛ばずにその場に留まっている。
ひしゃげた鉄扉は部屋の中が除けるほどの隙間ができており、そこから中の者達の驚愕している顔が垣間見えた。そのままタルテはその隙間に指を差し込むと、建造物解体用の重機の如く、捻じ切るようにように鉄扉の隙間を左右に広げた。
金属の歪む嫌な音と共に、鉄扉がタルテの両腕いっぱいまで開ききる。…土魔法を用いれば、もっと綺麗に開けれるとは思うのだが、タルテが腕力で開ける事に誰も疑問を持っていない。
「ッ…!?撃て!撃てぇ!!」
中に篭っていたレジアータがそう叫び、我に返った者達が一斉にクロスボウの引き金を引く。しかし、既に俺が矢避けの魔法を発動しているため、ボルトはひしゃげた鉄扉へと逸れて金属音をけたたましく打ち鳴らした。
「ほら、クロスボウは心配要らないから、中に入って展開するよ」
ナナが
声で聞いていたようにレジアータ以外の者達は打って出るつもりがあったようで、唐突な俺らの突入ではあるが、即座に応戦するように武器を手にとってこちらにへと詰めてきた。
「あら、またその武器ですか。それは他の方が使っていたので知っておりますわ」
そう言いながらメルルは水筒を取り出すと、敵のチームに向けて扇状に水を撒き散らした。水魔法で操った水では有るが、攻撃するような勢いは無くただ広く撒いただけのような水は、こちらに詰めて来ていた敵チームを濡らすだけであった。
「痛でぇッ…!?」
「っつ…!?」
しかし、水を撒いただけのその行為に意味があったようで、今まさに剣を交えようとしていた連中が、小さな悲鳴と共に剣を取り落とした。
敵の手から零れ落ちた剣が俺の足元へと滑るように転がってくる。大きさは異なってはいるものの、その形状はどこかでみた魔道具とそっくりであった。
「もしかして、アイツの剣はお前らが用意したのか?」
俺は足元の剣を拾い上げて観察する。使用者が感電しないためなのだろうか柄は陶器のような材質で作られているが、ナナが手元を濡らしたことで感電したのだろう。試しに魔力をこめてみれば、何かしらの魔法が発動したのを感じ取ることができた。
魔力の感覚からいって、使用者の魔力を消費して魔法を発動しているようだ。いってしまえば出力は使用者の魔力依存の武器と言うわけだ。…ネイヴィルスは身体強化の出力からいって魔法使いではないものの、魔力は多いほうの人間だろう。逆に言ってしまえば、通常の人間なら彼ほどの出力を出すことができない。
案の定、痺れてこの剣を取り落とした奴も痛そうにするだけで動けているし、こちらのチームのギルを筆頭とする数人は、剣を交えた瞬間に眉を顰めたり舌打ちをしているものの、動きを止める事無く敵と切り結んでいる。
「何やってるんだよ!早くそいつらを駆逐しろ!」
戦線の向こう側ではレジアータが唾を飛ばしながら野次を飛ばす。しかし、人数差があっても入り口周辺に布陣したこともあり、その差を優位に使うことができていない。
一方こちらは
今も俺の横でナナが敵を吹き飛ばし、それがレジアータの近くまで飛んでいった。そこでレジアータはナナの存在に気が付いたのか、あるいは俺らの付けているチームの印が現在のトップと分かったからか、憎憎しい顔をしてナナを睨みつけていた。
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