第261話 最強はパラディン
◇最強はパラディン◇
「審判ンン!何を見ている!ふざけるなぁ!」
審判の騎士の一人が近寄ってくると、地に伏せていたレイファンが恨みがましい表情で訴えかけた。立ち上がれぬほどに体を痛めているのに、痛みに悶えるのではなく審判に食って掛かっている。
…もしかしたら痛みを抑える
「私の炎が当たっただろ!撃破だ!撃破判定が遅い!」
火魔法を食らったのだから既にギルは撃破されていると言いたいのだろうが、訴えかけられている審判の騎士の視線は冷たい。審判はギルの様子を一瞥すると、溜息と共にレイファンに歩み寄った。
「あのね。あんなに綺麗にレジストされていたのなら撃破判定を指すわけにはいかないよ。…第一、君の火魔法はルール違反だよ?そのルール違反の火力を出しておいてレジストされたんだから、文句の言い様はないよね?」
審判はレイファンの所属を確認すると、手元の書類を捲り返して情報を確認する。恐らく、事前に計測されたレイファンの情報を見返しているのだろう。
「うん。たとえ反則扱いじゃなくとも、やっぱり君の力量だと撃破判定は上げられないかな?さっきのが君の全力だよね?」
それこそ始めから規定以内の火魔法を使っていれば、ギルのレジストが追いつかないと判断されて撃破判定が貰えたかもしれない。が、反則行為をしてまで魔法を放ったのに、完全にレジストされてしまったがために審判も完全にギル寄りの判定をしてくれている。
「くぅうう…!クソ!クソ!」
悔しそうに地面を叩きながらではあるが、意外にもレイファンは審判の言うことに従っている。焦れて大規模な魔法を放ちはしたが、執行部に所属できている彼は頭が悪いわけではない。ここで何を言っても反則負けが覆らないことが分かっているのだろう。悔しそうにしているのは、そこまでしてギルに勝てなかったからだろうか。
「ほら、じゃあ脇に避けて。戦線に戻る子は気をつけて。…悪いけど反則扱いだから、彼の撃破得点は入らないから。ルールなんでね」
そう言って審判の騎士は急かすように俺らを動かす。複数人が同時に勝負しているだけあって、審判達も忙しなく動き回っている。それでも段々と一騎打ちを終えたものが出始めて、遠巻きにリーダー同士の戦いを眺め始めた。
◇
「やはり…激しく力強い剣筋だ。…だからこそ勿体無い。ナナリア嬢よ」
アレックスが私の剣を受けながらも、嘲笑するように笑って見せた。普段の剣術の授業では私のほうが勝ち星を築いているのに、彼の振る舞いには余裕が見える。…十中八九、彼の魔法に寄るものだろう。
「何?アレックスはその遠まわしな言い回しを直した方が良いよ?何が言いたいのか分からない」
剣術の授業のときと比べて格段にアレックスの剣が重い。…正々堂々を好むアレックスが授業のときに手を抜いていたとは思えない。恐らくは授業の際には禁止されている魔法の効果に寄るものだろう。
「なに、女なのが惜しいと言っているんだ。女にしては力が強いようだが、剛剣は男にしか極められぬよ」
「…アレックスは南部の出身だっけ?北部ではそんな常識は通用しないよ?」
なんて恐ろしいことを言うのだろうか。確かに平地人を始めとして男の方が力が強くなる種族は多い。しかし、ネルカトル領の領軍にてそんなことを言おうなものなら、即刻鬼のような教官に地獄のような教練に案内されることとなる。
確か私の記憶にも一人ほど、女性であるハルトのお母さんが教官であることを軽んじた新兵がいたけど、ハンデありの状態で散々に打ちのめされてプライドを粉々に砕かれていた。
そもそも、性別による力の差など身体強化の練度で用意にひっくり返るものだ。
「確かに君の方が素の力も強いし、体重もあるけど、それが剛剣を極められない理由にはならないでしょ?」
「向き不向きの話だ。ナナリア嬢は女性にしては力が強いが、破格と言うほどではない。それなら女性ならではの柔らかさを生かした柔剣を極めたほうが向いているだろう」
「もしかして、剛剣に必要なのは力だけと思ってる類かな?力が全てなら剣術である必要が無いよ」
剛剣は力が必要な剣術と言うより、力を生かす剣術だ。有るに越したことは無いが、力だけで決まるものではない。それこそ、なかには少ない力で大きな力を産む技法も存在する。
「現に今君は私の力に押されているじゃないか。柔剣を極めていればもっと優位に戦えたのではないか?…まぁ私は剛剣使いの方が好みなんだがね。だからこそ女であることが惜しい」
「それは性別じゃなくて…!単に君の魔法のお陰でしょ!!」
そう言いながら私はアレックスの剣を受け流す。アレックスの戦闘スタイルは有名であるため、私も彼の能力を知っている。
彼の能力の一つは光魔法だ。そのため、強力な身体強化と自己治癒を掛けて戦うことができるのだ。光魔法が特別視されていることもあるが、騎士と光魔法はシナジーがあるため、その強さを称え光魔法が使える騎士は
「だからこそだよ。男の私が光魔法の身体強化を発動したら、女の君は追いつけないだろう?」
それは間違いだ。少なくとも今の彼よりタルテちゃんの方が圧倒的に力が強い。単に彼はご自慢の魔法で得られる腕力に得意気になっているだけだ。
「そら、君だって魔法を使っても良いんだぞ。私だけ使うのは不公平だろ?」
「分かっているくせに。アレックスの何だかんだ言って性格悪いよね」
彼にはもう一つの能力がある。メルルやタルテちゃんが身近にいるからあまり珍しく感じないが、極端に人数の少なくなる二属性魔法使いだ。
…彼のもう一つの魔法属性は風。風と光という騎士に向いた属性を持つ彼は、その魔法もあって名を馳せているのだ。そして何より、風属性は火魔法の天敵とも言える属性である。
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