第197話 お宅の男の子、ネコと戯れてたわよ

◇お宅の男の子、ネコと戯れてたわよ◇


「ハルト。…昨日女子寮で聴き込みをしていたら…、図書館に調べに行っていたはずのハルトが、ネコと追いかけっこしていたとの情報が入ってきたのだけど…」


 食堂で昨日各々が集めた情報をすり合わせようと集まったところ、ナナが呆れた表情をしながらそう打ち明けた。…どうやら妖精猫アルヴィナを追い求めて、野良猫たちを追いかけていたのが女子生徒に目撃されていたらしい…。


「もう…恥ずかしかったんだよ?微笑ましいものを見たような顔で、ハルトのことを聞かされた私の気持ちが解かる…?」


「いや、それは…ネコと和解しようかと…」


 俺は猫との追いかけっこを弁明するために昨日調べた情報と共に、俺の推測…、秘密の部屋は妖精猫アルヴィナの仕業という話を三人に話した。


 ちなみに昨日追いかけた猫は残念ながらどれも本物の猫であった。妖精猫アルヴィナは時折妖精光を放つ程度で、外見は只の猫と変わらないのが厄介だ。


妖精猫アルヴィナですか…。私はそこまで詳しくないのですが、そういうことをする妖精なのですか?」


「人の文明の中で生きる妖精の中では、比較的可能性が高いかな。特に使い魔から変化した妖精猫アルヴィナなら、飼い主の真似をしたり意志を引き継いだりすることも有るらしい」


 個性の強い妖精であるため、特殊な行動をするのも考えられなくは無い。といっても、確定というわけではないので、あくまでは仮説の一つだ。


「それじゃぁ…交信術というのをやるのですか…?使うなら素材の準備をしますけど…?」


 理知的な妖精であれば交信術で呼び寄せることができると聞いて、タルテがそう尋ねる。上手くいけばそれで秘密の部屋に例の行方不明の二人が囚われているかを聞きだせるのであろうが、その提案にメルルが苦言を呈した。


「ハルト様の調べた情報にありましたが、もし囚われているのであれば、それは囚われる必要があるということです。治療院にて二人の情報を聞いてきましたが、何かしらの事件の影が見え隠れしておりますわ」


 メルルが言っているのは、貴族の子弟に襲われて長期間秘密の部屋に囚われた女子生徒の話だ。その女子生徒は、原因となった貴族の子弟が退学となるまで囚われていたが、もし、それよりも早く秘密の部屋から出てしまえば、貴族の子弟に狙われる危険性もあっただろう。


「私が調べたところ、ミファリナさんとネモノさんは治療院では、若手の中では優秀な治療師であったそうです。特に人間関係でトラブルも無く、寧ろ二人が行方不明になったことで治療に滞りが出てしまっている状態です」


「ああ、その辺は私も聞いたよ。学院の放課後に、ほぼ毎日治療院で働いてたらしいね。そんな子達が居なくなったら、まぁ支障がでるよね」


 メルルとナナの話に耳を傾ける。二人は治療院や学院生徒のミファリナとネモノの知人に聞いて回ったらしいが、行方不明の原因になりそうなトラブルは特に聞き出せなかったらしい。メルルに至っては、忙しい治療院を回すために、聞き込みの対価として散々消毒のための闇魔法を行使したそうだ。


 人間関係のトラブルは無し。強いて言えば、二人を指定して治療を希望する男性の患者が数人居たそうだが、その男性患者達は二人に懸想していたというよりは、若い女性の治療を希望する単なるエロ親父であったそうだ。もちろん、行方不明になった当初に調査されて無実と判断されている。


「それで、事件の影ってのは何かあったのか?」


 二人の話を聞く限り、今のところは特に事件性のあるところが見当たらない。先ほどメルルの言ったことを確認するため、俺はメルルにそう尋ねた。


「まず、行方不明になる直前ですが、彼女達の同僚の治療師の一人が、ネモノさんから教会に気を付けるように言われたそうです。また、行方不明になった当日にも彼女達は治療院で働いていたのですが、帰る前に教会に寄っていたそうです」


「…ますます教会が怪しくなってきたな。だから、サフェーラさんもタルテに教会のことを聞いたのか」


「そして、もっとも異常なのが、彼女達の後を追っている者が多いのです。…事前に聞いていた通り、教会も捜索しているそうなのですが、それ以外にも不審な男達が二人を探していたそうです。ですから私が聞き込みをしたところ、またかと少々呆れられましたわ」


 教会の者だけではなく、不審な男達も行方不明の二人を追っている。新たなる勢力の登場に俺は思わず眉をしかめる。


「それ…!私が聞いた話と繋がってるかもです…!教会に見慣れぬ人たちが出入りしていたと言ってました…!」


 メルルの話を聞いて、教会に聞き込みに行ったタルテがそう言葉を放った。聞けば、教会に似つかわしくない風貌の男達が何回か教会を訪ねていたことを、教会のシスターが覚えていたらしい。


「教会が捜索のために独自に傭兵や狩人を雇ったってことか?」


「いえ…!その人たちが出入りしていたのは行方不明になる前からだそうです…!」


「あら…、もしかしたらその人達は彼女達の家族が独自に雇った者かと思って、実家の場所を聞き出していたのですが…、タルテの情報を聞く限り違う可能性も高そうですね…」


「んん…、彼女達の友達にはそういった人達と接触したって話は無かったよ?捜索を依頼された狩人なら、私達がそうしたように学院の交友関係に聞き込みをするよね?」


 学院の女子生徒にアポをとるのは部外者には困難ではあるが、それでも行方不明になって一ヶ月も経っているのだ。なにも接触が無いとなると捜索を依頼された者の行動としては少々不自然だ。メルルの仕入れた不審な男達とはタルテの言う教会に出入りしていた者の可能性も十分にあるだろう。


「その男達って追える情報は無いのか?所属ぐらいわかれば何か見えてくるかもだが…」


「残念ながら、この王都で一見の者の身元を特定するのは困難ですわ。…ただ、先ほども言いましたとおり、まだ重要な情報原が残っております」


 そう言って、メルルが自身の手元にあった手帳をこちらに向けて押し出した。そこには彼女の綺麗な字で、どこかの住所が書かれている。


「ミファリナとネモノの実家の住所になります。二人は幼馴染と聞いていましたが、住んでいた所も随分近いようですわね」


 そこに書かれていたのは、俺らにとっては次なる道しるべ。寮に入ったとはいえ、同じ王都内に実家があるとなれば、地方の学生とは違いそこまで実家と疎遠にはなっては居ないだろう。俺は手帳を開くと、その住所を手早く書き写した。


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