第163話 みんな!石杭は持ったか!?

◇みんな!石杭は持ったか!?◇


「いや、まさかあんな綺麗にやられるとはね。脳震盪を起して地面が迫ってきたときは、土魔法を使われたかと思ったよ」


 意気揚々にそう語るのはホフマン・サスフィード。無手のタルテに敗れた青年だ。ある意味では惨敗と言う結果であったのだが、彼はそれに腐る事無くタルテの技量に感心を寄せている。


 タルテのと戦いでは見せ場の無かった彼では有るが、試験官も相手が悪かったと判断したのか、最後に同じく見せ場の無かったネイヴィルスと戦うこととなりその技量を発揮することができたのだ。


 剛剣のネイヴィルスと技剣のホフマンの戦いは中々の盛り上がりを見せた。最終的には引き分けという結果に終わったが、その力量を試験管に十分に見せ付けることができたであろう。


「怪我は無かったですか…?その…なるべく後に引かないようにしたつもりなのですが…」


「おお!やはり、あの顎を掠めるような蹴りは狙ってやったんだね!」


 ホフマンは自身の顎を撫でながら感慨深げにそう呟いた。彼の顎は綺麗に割れているが、それはタルテのせいではない。模擬戦の後はタルテが顎骨を割ってしまったと誤解して即座に治癒を施したため、今では擦り傷も残っていない。


「いやはや、師匠にはまだまだ上はいると教わっていたが、まさか手も足も出ない相手が同年代に二人もいるとはね」


 そういってホフマンはタルテと俺を見詰める。俺が速攻で倒したネイヴィルスと戦ったことで俺の腕前も間接的に認めたのだろう。


「そして、僕と一緒に次の会場に向かっているということは、そういうことなんだよね。あの戦闘技能に魔法が加わるわけだね」


 模擬戦にて入学試験は終了となるわけだが、一部の人間はまだ続いている。魔法が使える者は今向かっている会場にて魔法の測定が行われるのだ。


 俺らと一緒に向かっているという事はホフマンも魔法使いなのだろう。ちなみにネイヴィルスは来ていない。彼は見事な身体強化を見せていたが、外部放出ができなければ魔法使いとは認められていないのだ。


「はーい。それじゃ、魔法使いの方はこっちに集まってくださーい」


 弓道場、あるいは射撃場のような土嚢の詰まれた修練場の手前で係員が声を張り上げる。俺らを含む魔法使いの受験者はその修練場に足を踏み入れる。


 すでに、先ほどの模擬戦では別のグループであった者が試験を開始しているらしく、中からは魔法が的に衝突する音が響いて来ている。


「それじゃー、手前の子から受験票を見せて、あの的に魔法を放ってください。制御能力を見るので大規模なものは遠慮してくださいねー。攻勢魔法以外が得意な方はその旨を私に伝えてください」


 眼鏡をかけた若い女性教師が俺らに声を掛ける。ここでいう攻勢魔法とは乱暴に言えば的当てに適した魔法だ。タルテの回復魔法などがそれ以外に当たる魔法という訳だ。


「それじゃぁ、僕がまず始めに行ってこようか」


 たまたま俺らが集団の先頭付近に立っていたため、ホフマンがその女教師に近寄って受験票を見せる。そして促がせるままに的の正面に立って魔法の構築を始める。


「ホフマンは…土魔法か…。タルテと一緒だな」


 ホフマンが選択したのは石杭ロックパイルの魔法だ。地味な魔法ではあるが、威力も強く使い勝手がよい。更に言えば、土から硬質な石塊を作成する必要があるので、自身の技量を示すには有用な魔法といえるだろう。


 彼が放った石杭ロックパイルは最も遠方にあった的の中央に突き刺さった。構築の早さ、射出の速度、そして十分な威力。眼鏡の女教師も感心したように軽く頷く。


「ハルトさん…!次は私行ってきます…!」


 ホフマンの土魔法に触発されたのか、今度はタルテが女教師に向かっていく。


「あなたその髪…、やっぱり木魔法…!?てことは土と光も!?」


「はい…!えと…、回復の方は治療院で光の二級を取得しています…!」


 そう言って、タルテは教会の祈祷具を女教師に見せる。あれは教会としての身分を示すもので、言ってしまえば教会と言う治療院ギルドのギルド証だ。そのためそこにはタルテの回復魔法の腕前が刻まれている。


 珍しい木魔法の存在に周囲からも注目を集めるが、タルテは土魔法で的当てをするつもりのようだ。瞬く間に足元の土が空中に集まっていき、タルテの傍らに石杭ロックパイルが形成されていく。それはホフマンが作り出した石杭ロックパイルも格段に大きく、それこそ柱と言ってもいいかもしれない。


「行きます…!」


 …そしてタルテの悪い癖がでた。本来ならば魔法で射出するのであるが、自分で投げた方が威力が高いということで、タルテは魔法で射出を行わない。タルテはその石杭ロックパイルを掴むと、そのまま槍投げのように投擲する。


 人の力で投げられたとは思えない直線的な弾道を描いて石杭ロックパイルはホフマンの穿ったのと同じ、一番遠い的へと突き立った。的の中央からはずれているものの、その衝撃はホフマン以上であり、杭も深くまで埋まっている。


 …だが、石杭ロックパイルの衝撃よりも、石杭ロックパイルを素手で投げるという衝撃に周囲は絶句している。魔法の結果に自信満々のタルテと、呆然としている周囲で随分と温度差が生じている。


「えーと。魔法を測るための的当てなんだけど…、まぁ形成は土魔法だったし、投げるときに色々補助してたから…いいのかな…?ある意味、土と光の複合魔法?」


 女教師も苦笑しながら結果を手元の紙に記載していく。一見、力技に見えるタルテの投擲だが、光魔法にて筋力を上昇させたり、反力を打ち消すために地面に足を固定するなど、石杭ロックパイルとは別に並行して魔法をかけている。女教師もその高度な並列制御に気が付き、魅せ魔法だと判断したのだろう。


「えへへ…。次はハルトさんの番ですか…?」


 タルテは満足した顔をしながら俺の下に戻ってくる。周囲は多少困惑していたが、彼女はやりたかったことができたのだろう。


 …さて、俺は何をやるか。得意なのは風を用いた空間把握だが、それは女教師の言う攻勢魔法に当てはまらない。そのことを伝えたとしても、何かしらの攻勢魔法を見せる必要があるだろう。


「ちょっと!!風魔法は見せる必要が無いってどういうことよ!!」


 俺がどんな魔法を見せるか考えていると、他の試験グループからそんな声が飛び込んできた。


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