第161話 オルドダナ学院入学試験
◇オルドダナ学院入学試験◇
「ううう…。ハルトさん…。なんか凄い見られてますよ…」
多数の視線を向けられ、タルテは不安になったのか俺の服の裾を掴んで脅えている。今俺らの周囲には今まで目にした事が無いほどの同年代の少年少女で溢れている。狩人ギルドの新人講習会でもここまで若い世代が集結したことは無いだろう。
彼らは俺らと同じく、王立の学院であるオルドダナ学院の入学試験の受験者である。これでも貴族関係者を除いた一般受験者のみだというのだから驚きである。ナナも廃嫡された訳ではないので貴族関係者として別日での入試だ。…火傷痕を多くの貴族の目に晒すことになるので不安があるが、これを乗り越えなければ学園生活もままなら無いだろう。
言うなれば彼らは入学を争うライバルであるため、漂う空気には戦場のような緊張感を孕んでいる。そんな中で俺とタルテが仲良く連れ立って歩いていれば、何をしにきたのだと周囲からメンチビームが飛んでくることも致し方ないものである。
「タルテ…。あまり俺に引っ付くと、余計に周囲から見られるぞ…」
タルテが俺の裾を掴んだ瞬間から、男共の視線がより苛烈になっている。俺のメンチビームと男共のメンチビームが空中で交わり火花が散る。そんな情景を幻視したのか、タルテは不安そうに中空に視線を漂わせている。
「はーい。受験者の子は案内員に従って講堂に進んでくださーい!」
在学生が手伝いとして参加しているのか、若いローブを着た女性が声を張り上げて俺らの移動を促がす。俺らとメンチ合戦をしていた者だけでなく、参考書をひたすら目で追っていた者や瞑想して精神統一していた受験者なども、講堂に向かって移動し始める。
俺らもそれに続いて講堂に向かって進んで行く。願書の提出は門を入って直ぐの事務棟で済んでしまったため、オルドダナ学院の中に入るのはある意味これが始めてである。他の受験者はあまり余裕は無いようだが、余裕綽々のタルテは興味深げに学院の中を見渡している。
この学院は王都の中でも王宮に次ぐ敷地面積を誇る。また、歴史で言えば光の教会や闇の教会に並ぶ最古参の一画だ。そのため、建造物も趣の有るものが多く、タルテが興味深く観察するのも分からなくは無い。
中庭を抜けて大きく扉を開けた講堂の中へと進んで行く。そして俺とタルテは案内されるがままに講堂の席に着いた。
ガヤガヤと煩かった講堂内も席が埋まるにつれて次第に静まり返っていく。カンニング防止のためか講堂を見回る係員の靴音が妙にはっきりと講堂に響き渡る。
「…はい。それでは規定の時間になりましたので入学試験を開始いたします。まず始めの学科試験は私が問題を出題いたします。読み上げは一問につき三回まで。…読み上げの妨害となる行為はその正否に関らず退場となりますのでご注意下さい」
教壇に立った女性が拡声の魔道具を通して声を出す。神経質そうな女性だが、その声は平坦で聞き取りやすい。
そのまま続けてその他諸々の注意点が全体に説明される。そして受験者に質問の挙手が無いことを確認すると、淡々と学科試験が開始された。
◇
「ふぅうう…。ハルトさん…。出来はどうでしたか…?」
タルテが俺の横で伸びをしながらそう呟く。伸びをしたせいでボディラインが強調され、周囲の男共からいやらしいタイプのメンチビームが飛んできたため、さり気無くタルテの前に立って視線を遮る。
「十分な出来だとは思う。正直言って聞き取りの方が難易度が高かったな」
前世の試験は問題は記述されているのが当たり前だったので、問題自体を聞き取って回答するというのは慣れていない。
「まぁ、後は消化試合のようなものだし気楽に行くか」
この後は戦闘技能の試験があるが、俺らにはあまり関係ない。オルドダナ学院にはナナやメルルが通う予定の政務科や軍事を学ぶ騎士科など複数の課が存在する。俺とタルテが志望する学科は学士科だが、この学科は戦闘技能の結果は入試に殆ど加味されない。
学士科志望でも戦闘技能の試験があるのは、第一志望が学士科で第二志望が騎士科という者が存在するからだ。学科試験の成績が悪くて学士科を逃しても、戦闘技能の成績がよければ騎士科に入学することが可能なのだ。
また、学士科として入学しても戦闘技能を要求される場合がある。オルドダナ学院は前世の大学のように二年次には教室と呼ばれる各教授陣の開く教室に所属し研究を行うのだが、教室によっては所属するために学士であっても戦闘系の授業の履修が求められるのだ。…俺とタルテが入ることを考えている教室はその類だ。フィールドワークが必須の分野だからな…。
「受験者はこっちで受験票を見せてくれ。その後は案内に従って指定された場所に向かうように」
再びお手伝いらしき学生が声を張り上げて受験者たちを移動するように促がす。俺とタルテも受験票を片手に目の前の行列に並んだ。
「えーと、君は戦闘経験有りだから…右奥の会場に向かってくれ。赤い旗が目印だ」
案内員の方が俺の受験票を見ながら闘技場らしき場所の一部を指差す。そこには彼が言うとおり、赤い旗が掲げられていた。
「あれ…?ハルトさんも赤い旗ですか…?」
俺と進行方向が同じことにタルテが気が付く。…よくよく考えれば、俺とタルテは銀級の狩人だ。そしてそれは学院側にも伝わっている。そう考えると俺とタルテは同程度の戦闘技能と評価されることとなるため、同じ会場に至るのは十分ありえることだろう。
「…会場では模擬戦らしいからな。タルテ。もし俺と当たっても遠慮は要らないぞ?」
「…はい!全力でぶつかります…!」
事前説明ではこの後は模擬戦闘と聞いている。ちなみに魔法は攻撃性に関らず一律で使用禁止だ。魔法も戦闘技能として認められてはいるが、扱いを間違えると怪我をするのが魔法だ。さすがに入学試験で死人を出すわけには行かない。魔法使いは試験の最後に個別で集まってその技能を確認するらしい。
意気揚々と張り切るタルテの後を追うようにして赤旗の掲げられた闘技場の一角へとたどり着く。そこに集まった面々を見れば、少なからず戦闘をこなせる者が集められていると判断して間違いないだろう。…俺らと違い、この戦闘こそが入試の本命と思っている奴が多いだろう。
「…全員集まったな。事前に通達があったと思うが、これから戦闘技能の試験を行う。名前を呼ばれた者は中央に出て模擬戦闘を行うように」
教官らしき人が声を上げながら全体を見渡す。そして続けて模擬戦の注意点…、といっても基本的な模擬戦のルールが語られる。
複数人の評価員に見守られるようにして最初の二名の名前が呼ばれる。二人は用意されている木剣を受け取ると、開始の掛け声と共に相手に目掛けて切りかかった。
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