第160話 王都の一時拠点
◇王都の一時拠点◇
「それでは皆さん。長旅における護衛ありがとうございました。まだ達成には少し早いですが、先にご挨拶させていただきます」
街門が目前に迫ったところで護衛は全員、先頭の馬車へと招集され
本来の護衛任務であれば商館まで向かうのだが、
「あー、各パーティーのリーダーは俺のところに完了証を取りに来てくれ。王都に入ったら順次解散してもらっていい」
カストリスさんの挨拶に続くようにしてレオパレダスのペガルダが完了のサインの束を片手に俺らに呼びかける。それに従うようにして俺を含むリーダー達が前に出てペガルダから完了届けを受け取っていく。
「…お前は、確か妖精の首飾りだったか。その見かけで銀級かと思っていたが、まさか魔法使いだらけのパーティーだったとはな」
褐色肌の偉丈夫であるペガルダが俺に完了証を手渡しながら、吟味するような視線を向けてくる。そして、ニヤリと笑うと右手を俺に向かって差し出してきた。
「まぁ、自分でも贅沢なパーティーだとは思っていますよ。といっても四人程度だったら小さなクランだったら在籍している人数でしょう」
俺は差し出された右手を掴み握手をする。握手した手が彼の手により強く握られるが、これは挑発ではなく、握手を通して俺の体幹を確認しているのだろう。俺がそのことに気が付いたのを察したのか、彼は面白そうに口角を吊り上げた。
「…つまり、小さなクラン程度の戦力を有しているってことだろ?…これは俺からの忠告だが、王都で仕事すんなら他人に隙を見せないようにするんだな。傭兵にとっては当たり前だが、狩人はこれで失敗しやすい」
「…ご忠告ありがとうございます。仕事の参考にさせてもらいますよ」
ペガルダは俺の耳元に顔を寄せると、忠告を口にする。…似たような話を俺はエイヴェリーさんから聞いてはいた。魔物を狩ればいいアウレリアとは違い、王都は人を相手にする依頼が多い。そのためか騙すような依頼や良い様に利用するような依頼も多いらしいのだ。
もちろん、ギルドが守ってはくれるのだが自分たちで自衛することも必要だ。ギルドが守るにも限界はあるし、なにより脇の甘い狩人はギルドからも評価されないのだ。
俺は小声で礼を言うとパーティーの下へと戻る。これまでの旅路ではあまり彼と直接話すことがなかったが、こちらを観察するような視線を何度か受けたことがある。魔法使いと言うことで注目を集めていたのだろう。
「おい。従業員や護衛はこっちで身分証を提示して進んでくれ。さっさとしろよ」
気だるげな門番が声を上げて、俺らを促がすように手を大きく振るう。気が付けば
俺らは胸に下げられたギルド証を翳して馬車のために大きく開かれた門を潜っていく。通過する際には門に遮られ日の光が僅かに途絶える。それにより前方に広がる光を浴びた王都の街並みが、寄り鮮明なものとなって俺らの視界に飛び込んでくる。
「おおぉ…。これが王都ですか…。流石に大きいですね…」
門から延びる大通りの脇には背の高いレンガ造りの建物が遠くまで並んでいる。その壁や路面の石畳は風化や磨耗の痕が見て取れて、王都が古い都であることを教えてくれる。大通りは馬車道と歩道に分かれており、歩道には多くの人で賑わっている。
「ああ、ハルト様。あそこですわ。あそこから王都内を巡る馬車が出ております」
街門を抜けて直ぐ。メルルが指差したほうを向けば、歩道が一段高くなっており、そこに人々が集まっている。王都は広く、歩いて巡るには距離があるため馬車が各所を巡っているのだ。それこそ、門を抜けて直ぐのこの馬車駅にはタクシーのように目的地を告げればそこまで走らせてくれる馬車もあるらしい。
俺たちはその馬車駅に向けて足を進める。これが通常の街であるのならば、宿探しを直ぐにでも始めるのであるが、ここは王都だ。貴族街に赴けばナナやメルルの実家の所有する館が存在するのだ。
「悪いな、メルル。…本当にお邪魔して平気か?ありがたいんだが、貴族の家の世話になるのは気が引けるな」
「何を言ってますの。ネルカトル家の領館に我が物顔で出入りしといて、我が家の館を遠慮する理由はありませんわ。…それに、この時期は使用人しか居りませんので気楽なものですわよ?」
俺らは学院は寮に入寮するまでの間、メルルの実家であるゼネルカーナ家の館にお世話になることになっているのだ。というのも、メルルはこれから狩人の肩書きから貴族令嬢の肩書きへと変化する。そのこともあってメルルはゼネルカーナ家の館で過ごすことが確定しているため俺らもご一緒することとなったのだ。
一応、候補にはネルカトル家の館もあったのだが、ネルカトル家の館にはナナの兄が滞在しているらしいので、遠慮する運びとなった。聞くところによると、お兄さんは父親と同じ性格…というか、妹大好き人間であるため、テオドール卿と同じように俺を目の敵にしているらしい。…行けば確実に争いが発生するため、一旦は様子見ということとなったのだ。
馬車はそのまま王都の街中を進み、貴族街の入り口へと差し掛かる。俺はメルルから預かった証明書…、貴族の使いであることを示す書類を取り出し門番に渡す。多少は警戒するように確認されたものの、俺自身が銀級の狩人であったため、そこまで時間を掛けずに門を通される。
そして呆れるほど大きい館が並ぶ貴族街を進み、目的の家の前へとたどり着いた。
「お嬢様。お帰りなさいませ。狩人生活は楽しめましたか?」
「あら、ルナ。来るのがわかっていたのなら迎えの馬車を出してくれていても良かったのではなくて?」
俺らが到着する時間は依頼の都合もあったため、正確には定まっていなかったのだが、門の前には、既にゼネルカーナ家のメイドであるルナさんが控えていた。…情報を扱うのに長けた人であるため、事前に俺らが向かっている情報を入手したのだろう。
「さぁ、皆様もどうぞお入り下さい。旅の疲れを癒すために湯浴みの準備もできております」
「お、お世話になります…!」
湯浴みという単語を聞いて、女性陣が期待するように微笑んだ。そして、荷物を使用人の方々に渡すと、足早に館の中に消えていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます