第159話 全ての道は王都へ通ずる

◇全ての道は王都へ通ずる◇


「ふへぇ…見てください。また商隊キャラバンの後ろに新しい馬車が加わりましたよ」


 俺たちの商隊キャラバンは王都近郊にまで進んで来ている。そうすると必然的に交通量も増え、俺らが護衛する商会以外の馬車も見掛けるようになる。


 タルテの言うとおり、商隊キャラバンの後ろに別の商会が並んできているが、その商会にもしっかりと護衛の人員がついている。護衛費用を浮かせるために寄生行為に及んでいるのではなく、単に目的地が一緒ということなのだろう。


「時期にもよるんだろうが、みな王都に向かっているんだろうな」


 王都に向かえば向かうほど魔物の襲撃頻度も減ってきており、言ってしまえば護衛任務がどんどん楽になってきている。


 王都周辺は辺境よりも人口密度が高い。もちろん、村や町の合間には森や山も存在するのだが、森の植生も辺境とは大きく異なっている。辺境は所謂、原生林が多いのだが、ここらの森は若い森が多い。


 若いといっても数百年はたっているのだろうが、それでも森の景色は前世で見ていたような森に近いものだ。一方、辺境の原生林は屋久島や白神山地以上に極端に太い木々で溢れている。おそらく、タルテの視点では年齢だけでなく、植生の違いも見て取れるのだろう。


「けっこう森の風景が違うね。魔物の分布も結構異なるのかな?」


「ああ。王都に着いたら狩人ギルドで下調べが必要かな」


 ナナも森の違いに気が付いたのか、狩人らしく生息動物の違いを気にしている。学院に入っている間も狩人の仕事は続ける予定なので、依頼を受ける前に狩人ギルドの資料室に通う必要があるだろう。


「ハルト様。もうそろそろ目的地が見える頃ですわ。タルテも王都は初めてですわよね?」


「はい…!初めてなので楽しみです…!」


 メルルの言うとおり、馬車が丘陵を越えていくと、地平線の向こうに街の外壁らしきものが見え始める。魔物の襲来の危険性がある辺境都市アウレリアに匹敵するほどの高い外壁。しかし、アウレリアとは異なり外壁の手前にも街が広がっている。


 その壁の外の街には雑多な木造の家々もあるが、石造りのしっかりとした建造物も存在している。


「あの壁の外の街は…スラムなのか?スラムにしてはかなり大きいが…」


「いえ、厳密には違いますわね。…元スラムと言えばよいのでしょうか。昔はスラムだったらしいのですが、今は発展して町として機能しております」


 聞けば外壁の外に広がる町は門外町と呼ばれており、もとはスラムであったのだが、非課税での商売が可能ということで楽市楽座のように扱われ発展し、そのうち王都側も無視できなくなり、街として扱われる用になったらしい。流石にあの規模の街を無法地帯として放っておくことはできなかったのだろう。


「ですが、治安が悪いのは変わりませんので、歩くときは気をつけてくださいましね。南門の周囲の門外町は未だにスラムとして扱われています。…とくにタルテ。あなたは何処か抜けているように思えますので十分注意してください」


 そう言ってメルルが俺らに注意を促がす。俺らがそんなことを話し合っているうちにも、商隊キャラバンは街道を進み、王都の街門へと車輪を回していく。門の前には行列ができており、順次検問を受けている。


 前世の経験では街に入るのに検問が入るなど非効率的なことにも思えるが、この世界においては街の外に出るということはあまり多くない。それこそ、王都程の規模になれば、一生を王都の壁の内で過ごす人間もいるかもしれない。


「おぅい!全体止まれぇ!王都に到着したぞ!」


 停止の合図の笛の音と共に、ペガルダの大声が商隊キャラバンに向かって飛ばされる。馬車は次第に減速しながら停車する。まだ、街門とは距離が有るものの商隊キャラバンの先頭は街門から延びる行列にたどり着いたのだろう。


「んんぅ…!やっと着いたのね。旅は好きだけど、単に乗っているだけじゃ退屈でしょうがないわね」


 乗合馬車の中からハーフリングの少女、ヒメイブキが降りてくる。もちろん彼女だけではなく、他の乗客たちも乗合馬車から降りて自分の荷物を纏めている。


 俺ら護衛と商隊キャラバンは商用として王都に入場するが、乗合馬車の乗客は一般入場者であるため列が別なのだ。もちろんこのまま馬車に乗って門の前までゆっくりしていることもできるが、ここで降りて早めに列に並んだほうがその分早く王都に入ることができるのだ。


「ねぇ。あなたたちは傭兵じゃなくて狩人よね?王都で活動するつもりなのかしら?」


「ん?ああ、一応そのつもりだけど…」


 彼女は俺らに向かって話しかける。俺らが彼女に対して推測したように、彼女も俺らが狩人だと推測したのだろう。


「それじゃぁ、もしかしたら会うかもしれないわね。言ってなかったけど、ほら、私も狩人だから」


 そういって彼女は胸元からギルド証を取り出す。それは銅級を示すギルド証だ。彼女が多少なりとも得意気であることから、どうやら銅級でもおかしくない年頃なのだろう。同族ではあるがハーフリングの年齢はわかりづらいのだ。恐らくは俺らと同じ年頃だろう。


「ああ。もし合同依頼かなんかで一緒になったときはよろしく頼むよ」


「えへへ…。なにか一緒にできるといいですね」


 俺らに軽く手を振りながら彼女はクロスボウと背嚢を背負って街門の方に向かっていく。背が小さいため、後ろから見れば背嚢とクロスボウが歩いているようにも見える不思議な光景だ。


「…ハルトはまだしも、あの子の様な見た目だと、…なんかこう、はらはらしちゃうね…」


「まぁ…見た目は、幼い少女ですからね…。そう思う気持ちもわかりますわ…」


 先ほど、門外町は治安が悪いという話をしたからか、そこに向かって足を進める彼女を二人は心配そうな顔をして見送った。…旅の間、同族の俺よりも、同性の彼女達の方が多少なりともヒメイブキと交流をしていた。それもあって親身になってしまうのだろう。


「僕ちゃん、お嬢さん方、ここまでありがとうね」


「おねぇちゃんたち、またね…!」


 乗合馬車に乗っていた他の客も俺らに別れを告げて街門へと向けて足を運ぶ。その光景に俺は新しい地にたどり着いたことを感じて、気合を入れるように軽く頬を叩いた。


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