第155話 お前ら王都に行きたいか

◇お前ら王都に行きたいか◇


「あー護衛の方々はこっちに集まってください!」


 領都の街門の前は何時も以上の人混みができている。王都に向かうであろう乗客たちが馬車に群がり次々と搭乗を開始している。馬車の先頭あたりでは丁稚らしき少年が声を張り上げて俺らのことを呼んでいる。


 俺はその招集をかけている丁稚の方へと足を運ぶ。俺らと同じ方向に足を動かすのは、戦いを生業にする者達だ。纏う空気が他の乗客などとは異なっている。少し空気がひりついているのは大半が傭兵だからだろう。魔物が相手の狩人は気配を消す者が多いが、対人がメインの傭兵は威圧してナンボだ。


「護衛の皆さん。私がこの商隊の代表となるヒュンメル商会のカストリスです。この度は依頼を受注していただきありがとうございます。護衛に関しましては私の商会の専属であるレオパルダスが取り仕切るので従ってください」


「あー。今紹介された傭兵団レオパレダスのペガルダだ。俺らは全員銀級だ。この中には同じ銀級もいるだろうが悪いが従ってくれ。まぁ専属は評価が上がりづらいからな。実力は金級まで至ると自負している」


 穏やかな印象の商人であるカストリスに色黒のペガルダが並んで挨拶をする。ヒュンメル商会は聞いたことは無いが、商隊キャラバンの代表を務めるということはそこそこに大きい商会なのだろう。もしかしたら卸売りがメインで一般客には商いをしていないのかもしれない。


 ペガルダは一見自信過剰にも思えるが、筋骨隆々の身体に刻まれた刀傷は歴戦の猛者の風貌を連想させる。おそらく金級という自負も確かな自信から来るものなのだろう。


「えーそれで、護衛の割り振りはこっちで済ますぞ。人数が多いからな、自己紹介は各々やってくれ。正直、俺も覚えていられねぇ」


 ペガルダが手元の紙を見ながら、参加したパーティーの特長と配置を発表していく。事前にギルドの方から他のパーティーの情報を貰っているのだろう。他の商会の専属護衛は自分たちの商会を守らせ、開いた穴を埋めるように臨時のパーティーを配置していく。


 臨時のパーティーはどこも乗合馬車の護衛だ。乗合馬車がこの時期に増えた臨時のものだからだろう。俺らも、商隊キャラバンの中ほどの乗合馬車に配属された。


 …俺らの紹介は斥候と遠距離攻撃に秀でているとのことだ。何人かは俺らの装備を見て魔法使いがいると気が付いただろう。遠距離攻撃ができるとの紹介なのに誰も弓を持っていないからな…。


「ペガルダ君。もういいかい?時間も惜しいから直ぐにでも出発しよう」


 商人達も打ち合わせが終わったのか、次々に馬車に乗り込んでいく。乗合馬車の客も既に乗車を終えており、出発を待っている状態だ。ペガルダが手を挙げてカストリスさんに答えると、先頭の馬車から街道を進み始める。


 俺らも自分達の担当となった馬車に寄って護衛を開始する。幌馬車の中から乗客が顔をこちらに向けて俺らのことを観察する。反応は面白いように二つに分かれた。不安そうな顔をしたのは俺らが若いから頼りないと思ったのだろう。一方、安堵したような顔を浮かべたのは厳つい傭兵達に恐れを抱いている者達だろう。


 女性や子供は後者の反応だ。むしろ幼子は安堵というより好奇心が勝っているようでこちらに手を振ってアピールしている。そんな幼子にナナが手を振り返してはにかんだ。


 何台もの馬車が連なる商隊キャラバンは人も多いせいか和気藹々とした雰囲気をもって進んでいく。領都から延びる主要な街道であるため、足取りは順調だ。コレだけの人数であれば山賊も魔物も滅多に襲わない。


 襲うとすれば獰猛な魔物くらいだろうが、そんな輩が交通量の多い街道に出没するとなると直ぐに情報が出回るため、早々に狩人に淘汰されることとなるはずだ。…まぁ、知性の低い魔物が出現する可能性もあるが、そういった魔物は大したことが無いから問題ないだろう。


 …想定どおり、暫くは長閑な旅が続いた。何度か遠巻きに何者か…、恐らくは飛び狼ミーボルグ盗賊猿カスムトがこちらを窺って来ていたが、結局は襲わずにその場を後にした。


 野営には木叩き鬼ウッドノッカーが近づいてくることもあったが、タルテがノックのお返事をしたら、すぐさまその場を立ち去った。…魔物の癖してマナーのある奴だったな。


 そうして俺ら一行は、直近の目的地である隣の領の領都に到着したのであった。



「ねぇ!詰めて貰えば私一人だけだったら入るでしょう?乗せてくれないかしら」


 変化の乏しい旅路に変化が訪れたのはその領都からの出立間際のときであった。俺らが乗合馬車の近くにて出発を待っていると、前方の商人に何者かが交渉をし始めたのだ。


 ネルカトル領から南東に位置するノーザンガルド辺境伯領。王都から北に位置する辺境伯領であり、ネルカトル領と王都を繋ぐ主要な都市だ。その領都から出発する段階になって乗合馬車に乗車を希望する人が詰め寄ってきたのだろう。


 この街についた時点で何人かの乗客は降車したが、それ以上に乗客が増加した。残念ながら既に満員の状態なので、幾ら詰めようとも乗せることはできないだろう。他の商会の乗合馬車も満員ということで乗車を断っている状況だ。


「ハルトさん…。あの人、この乗合馬車なら入るんじゃないですか…?」


「んん?いや無理じゃないか?この馬車もいっぱいだぞ?」


 タルテが商人の方を指差して俺に語りかける。しかし、俺らが担当している馬車も満車の状態であり、多少の余裕は有るものの、これ以上人を乗せるのは厳しいだろう。そう思い俺はタルテに向き直ったが、なぜタルテが入るといったのかを直ぐに理解した。


 商人に交渉しているのは小さな女の子。それも俺の父さんよりも小柄だ。背中には背嚢と無骨なクロスボウを背負っている。女の子の背丈が小さいためそのクロスボウが通常以上に無骨なものに見えてしまう。


「…ハーフリング」


「なるほど。確かにあの子なら多少詰めれば乗れそうだね」


 商隊キャラバンに新たに加わろうとしたのは、父さん以外で初めて見るハーフリングの女の子であった。


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