第136話 四人は魔法使い

◇四人は魔法使い◇


「いやはや、四人皆様が魔法使いとは…。随分豪勢なパーティーですね」


 ポレロさんに俺らの実力を示すのは一瞬で終わった。まず、俺とナナの狩人証を見せた。見習いの鉄級よりはマシと言う程度の銅級の証ではあるが、そこに刻まれた竜狩りの証を見てポレロさんはヒュッと息を飲んで目を見開いていた。


 そして後は小規模な魔法を見せれば、俺らを見る目の色が変わった。心配や憂いを孕んだ視線ではなく、むしろ何故こんな依頼にこんな人員が?という不審な眼差しに変わった。…少々やりすぎてしまったが、この依頼を受注した流れを説明すれば何とか納得してくれた。


「と言っても俺なんかは近接戦闘メインですからね。他の面子も装備を見ての通り近接戦闘が出来ます」


 そう言って俺は馬車の後方に展開する女性陣を目で指し示す。ナナは波刃剣フランベルジュを背負っており、メルルの腰元には円盾ラウンドシールドと片手剣が見える。二人とも、傍から見れば剣士にしか見えない姿だ。


「なるほど、回復要員のタルテさんを守るように展開するのですね。そして三人は状況に応じて前衛と後衛を切り替えると…」


 ポレロさんは納得したように顎を撫でながらそう言った。…残念ながら彼女が最も敵に近づく零距離戦闘術者ゼロレンジコンバッターだ。修道服の裾から時折見える鈍い金色は、聖具でもなんでもなく、敵を撃滅する手甲ガントレットだ。


 馬車を御するポレロさんの雰囲気も、昨日より大分柔らかくなっている。頼りない若手の四人組、しかも大半が女性のパーティーから、竜殺しが二人いる魔法使い四人組に変わったのだ。今も、俺が風を使って広範囲の索敵をしていると知って安心したのだろう。


「ささ、急ぎましょう。この分なら昼前には村に付くはずです。さすれば長く休めもするでしょう」


 そういってポレロさんが手綱を軽く振るい、僅かに速度を上げた馬車が街道を進んで行く。といっても、荷物を満載した馬車は俺らより多少遅い速度であったため、むしろこの速度の方が歩きやすい。俺らは馬車を囲むようにして街道を進んでいった。



「…。馬車の速度を落としてください。こちらを眺めている者がいます」


 俺は片手を上げて、ポレロさんに指示を出す。前方の森の淵の近くの高台から、何者かがこちらを眺めているのを風により感じ取ったのだ。


「ハルト…。野盗がでたの?」


 後方から俺の方に足を進めてきたナナが背負った波刃剣フランベルジュに手を添えながら俺に尋ねる。野盗が出る可能性が高いと聞いておきながら、これまで長閑な旅路であったため、彼女は妙に張り切っている。


「…いや、この感じは子供か?人数も一人だけだな…」


「あぁ、ハルトさん。それは村の子供です。もうあの丘を越えれば村が見えますからな。…一人、村外れに住んでいる子がいるのです」


 警戒する俺らを宥めるようにポレロさんが言葉を放つ。風の索敵範囲を前方に伸ばせば確かに、家のような建造物を捉えることができた。


「いやはや、思いのほか風の索敵とやらは広いのですね。その子供とやらがいるのはあそこの森の丘のところでしょう?あの辺りはこの時期に実る木の実がありますからな」


 そう言ってポレロさんは前方を指差す。そこは、ちょうど俺が子供の気配を感じ取った位置を示していた。


 多少の警戒を持ちつつも、ポレロさんの言うことを信じて馬車と共に進んで行く。そして、俺らがその潜伏場所に近づくと、その人影が動き始めた。


「ポレロおじさーん!久しぶりー!お店開きにきたのー?」


「おお!メニアちゃん!木の実拾いかい!?先に行って村の皆に伝えてくれるかな?ポレロが来たと!」


「うん!解かったー!」


 森の繁みから姿を現したのは十歳に満たない程の小さな女の子だ。木の実を沢山入れた籠を脇において、こっちに手を振りながら叫んでいる。


 その少女はポレロさんの言葉を聞くと、籠を頭の上に乗っけて村の方へと駆け出して行った。


「随分、親しそうな感じでしたね。仲がいい子なのですか?」


「…あの子は村の子供の一人、メニアと言う子です。両親の居ない子ですから、何かと気を配っていたら懐かれてしまいましてね。…どうやら元気に過ごせているようです」


 ポレロさんは眩しいものを見るような眼差しで、彼女の走り去った後を見詰めている。


「へぇ…、孤児の子ですか」


「といいましても、村で孤児といえば全員の子供のようなものですから、そこまで心配は要りませんよ。ああやって、木の実を集めて村の人から食べ物を貰っているのです」


 メニアと呼ばれた子は汚い身なりではあったが、スラムの孤児のようにやせ細っては居なかった。恐らく、村人全員から面倒を見られているというのも間違いではないのだろう。


 もともと、ネルカトルは肥沃な大地と実りの豊かな森で溢れている。貧しい者は居ても、子捨てや姥捨てが蔓延るほど餓えた者ほとんど居ない。ポレロさんが心配している野盗の類も、他の領から流れてきたものが多いと聞いている。


「さぁ、村までもう直ぐです。あの子の様子から見ても、村が野盗に攻められていることも無いでしょう」


 俺の風にも丘の向こうから、喜ぶような声が聞こえて来ている。餓えは少ないといっても、娯楽の無い辺境の村だ。そんな村にとっては単なる行商も娯楽の一つなのだろう。


 森の脇を進み、丘を越え、俺らは目的の村へとたどり着いた。


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