第119話 竜が如く 03

◇竜が如く 03◇


「タルテ…!来るぞ…!」


 俺らの周りの彷徨う遺骸スケルトンごと潰すように、貪食の白骸スケレトゥスレギオンはその双頭を鞭の様に上空から何度も叩きつける。頭というよりは触手のような使い方だ。


 頭上からの鞭打は剣を交差させて受けきったものの、真横から降りぬかれたその首に、俺とタルテはたまらず吹き飛ばされた。


 エントラスホールの柱に血でできた尾が勝手に巻き付き、吹き飛ばされた俺の勢いを殺すようにして繋ぎ止める。俺はそのままタルテの手を掴んで、互いに柱の横に着地させる。


「ありがとうございます!」


 タルテは即座に柱に突起を作り出し、俺らはその突起を掴んで柱の真横に引っ付いた。


「お前ら!若い奴らばかりに任してんじゃねぇぞ!」


 副リーダーのおっさんの掛け声と共に、調査団の面々が彷徨う遺骸スケルトンの海に切り込んでくる。俺らに目掛けて貪食の白骸スケレトゥスレギオンの双頭が伸びてくるが、エイヴェリーさんの浮遊剣がそれを逸らした。


「二人ともー大丈夫ー?ちょっとそっちに気が回せなくてねー」


「すいません…!助かりました…!」


 エイヴェリーさんにお礼を言いつつ、そちらに意識を割いてみれば、エイヴェリーさんは死霊術師ネクロマンサーの手下らしき黒ずくめの者達相手に戦っていた。彷徨う遺骸スケルトンの層が薄くなったため、奴らも戦闘に出てきたのだろう。


 魔銀級の狩人であるエイヴェリーさんであれば、多人数相手でも問題無いように思えるが、かなり戦い難そうにしている。その理由は自身の負傷を省みないような戦い方に加え、彼らの胸元で輝く赤い結晶のせいであろう。


 黒ずくめの男がエイヴェリーさんの裾に縋りつくと、胸元の赤い結晶の輝きが増す。エイヴェリーさんはすぐさまその男の腕を斬り飛ばし、遠方へと蹴り飛ばした。


 彷徨う遺骸スケルトンを巻き込みながら、蹴り飛ばされた男が爆ぜる。その轟音は音の溢れる乱戦の中であっても、一際大きな振動を伴って戦う者達の注意を引いた。


「くそ…!お前ら!黒ずくめに気をつけろ…!小玉鼠ラタボルムみたく爆ぜやがる…!」



 周囲を気にしない自爆を伴った攻撃。下手に攻めれば自爆をするため、エイヴェリーさんも消極的にしか攻められずにいる。この乱戦状態では、不用意に爆発させてしまうと味方を巻き込んでしまう可能性も高いだろう。


 …だが、あれは良いものだ。折角だから利用させてもらおう。


 俺は柱から飛び降りると、一人の黒ずくめの男を切りつける。自分で起動しているのか、死にそうになると自動で発動するのかはわからないが、先ほど見たように胸元の赤い結晶の輝きが増し始めている。


 しかし、僅かな時間さえあれば俺には十分だ。そのまま斬り付けた男を担ぎ上げ、空中に飛び上がる。そして、空気の炸裂を用いて空中で加速しながら貪食の白骸スケレトゥスレギオンに向かってその男を投げ飛ばした。


「悪いな!自爆する敵を利用するのは、良くある定石だろ!?」


 アクションゲーム、特にガンアクションでは大抵出てくるタイプだ。ゲームによっては上手く使わないと詰むので注意しなければならない。


 胴体…と言って良いのか解からないが、貪食の白骸スケレトゥスレギオンの胴体の近くで、黒ずくめの男が爆ぜる。やはり、生贄となった二人が埋まっている場所が弱点なのか、ここに来て初めて貪食の白骸スケレトゥスレギオンが声を上げながら、その首を悶えるように振り回した。


「タルテ!やはり頭は頭に見えるだけで単なる骨の塊だ!胴体じゃなければ攻撃する必要は無い!」


「はい…!解かりました…!」


 もちろん、彷徨う遺骸スケルトンの集団が俺らと貪食の白骸スケレトゥスレギオンを別つ様に存在しているため、今は頭を無理に狙う必要は無いという意味で言ったのだが、タルテはそう受け取らなかったらしい。


 足元の岩を利用して石杭を作り出すと、それを前方に向かって投擲した。


 高速で突き進む石杭は、その質量故、彷徨う遺骸スケルトンに触れても勢いが死ぬ事無く、破壊を伴って貪食の白骸スケレトゥスレギオンの胴体に突き立った。


「むぅぅ…!ちょっとずれちゃいましたか」


 タルテは頬を膨らましながら、そう呟いた。胴体には刺さりはしたものの、そこはまだ分厚い骨の層があったらしい。貪食の白骸スケレトゥスレギオンは多少呻いたものの、すぐさま近場の骨を吸収することで修復していく。


「やはり浮遊剣だけでなく、あの二人も厄介だな…。ラサラス…、お前も前に出ろ…」


「指図すんじゃねぇよ。いつから俺はお前の手下になった」


 貪食の白骸スケレトゥスレギオンに守られた敵陣の奥。獅子の牙ダンデライオンのラサラスが文句を言いながらも大剣を担ぎ上げた。


 そして俊敏な身のこなしで彷徨う遺骸スケルトンの隙間を縫ってこちらに向かって来ている。気が付けば、磔の儀式槍スケアクロウに操られている彷徨う遺骸スケルトンは随分その数を減らしてしまっている。大半は貪食の白骸スケレトゥスレギオンに吸収されてしまったのだろう。


「面倒だな…。タルテ、猫ちゃんがこっちに向かって来ている。気をつけろよ」


「ね、猫ちゃん…?」


 もう少し爆弾アタックをしたかったのだが、どうやら敵もそこまで暢気に攻めるつもりはないらしい。


「オラァ!死ねやクソガキィ…!!」


 彷徨う遺骸スケルトンを飛び越えるようにして、ラサラスが上段から大剣を振り下ろす。俺はマチェットでそれを受け流すように受けた。ラサラスは振り下ろしたその大剣を、今度は横なぎに振り払う。そして、その攻撃に合わせるかのように貪食の白骸スケレトゥスレギオンがその頭を振り下ろす。


 俺はわざと大剣の攻撃を真っ向から受けて、吹き飛ばされることによって貪食の白骸スケレトゥスレギオンの攻撃を回避した。


「ほう…、随分身軽な身のこなしだな。…誰かが平地人じゃなくてハーフリングだと言っていたが、どうやら本当のようだな」


 地面に叩きつけられた貪食の白骸スケレトゥスレギオンの首の向こう、ラサラスが大剣を肩に担ぎ、獅子人族に有りがちな不遜な目付きでこちらを見て笑った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る