第118話 竜が如く 02

◇竜が如く 02◇


「なんじゃぁ!?ありゃぁ!?」


 彷徨う遺骸スケルトンの人垣の向こうで、双頭の骸骨竜がエントランスホールの天井近くまでその首を持ち上げる。それを目撃したおっさん達が余りの光景に一歩引き下がる。すかさず、エイヴェリーさんがその骸骨竜に向けて剣を射出し双頭の片方を斬り飛ばすが、すぐさま周囲の骨を吸収して回復する。


「うわー。骨で回復する感じー?ちょーっと面倒かなー?」


「フフフ…。見ろ…、これが古くは光の女神アウロス闇の女神トリウィアの創世記にも謡われる、冥府に巣食う貪食の白骸スケレトゥスレギオンだ…」


 死霊術師ネクロマンサーの自慢げに呟く声が、俺の風に乗って届く。磔の儀式槍スケアクロウに操られているであろう彷徨う遺骸スケルトン貪食の白骸スケレトゥスレギオンに組み付くが、そのまま吸収されるように体の一部として振舞い始める。


「ハルト様…。ここは後先のことを考えている状況ではありませんわ。…例の魔法を使いましょう」


 メルルが円盾ラウンドシールド彷徨う遺骸スケルトンを突き飛ばしながら、俺の元へとやってくる。…彼女の言う例の魔法というのは、対アンデッドを想定して考えた魔法だ。


 以前、俺のアンデッドに対する有効打の無さを補おうと色々考えたのだが、結局俺が行き着いたのは仲間の力を頼ることであった。…問題は、この魔法を使うとメルルが暫く貧血により動けなくなることだろう。そのため使いどころを選ぶのであるが今がその時と言うわけだ。


「解かった。ナナ、暫くメルルを守ってくれ。例の魔法を使う」


「了解。こっちは任せて暴れて来てね」


 俺は自身の腕を軽く斬り、血を流し始める。そして、メルルも俺と同様に自身の体から血を流し始める。彼女の血魔法により、その血は宙を流れ俺の元へとやってくる。そしてその血は俺の血を吸収することで体積を増し、剣や体の各部へと纏わり付く。


 マチェットは血の刃により延長され、血の手甲ガントレット足甲グリーヴ、さらには小さな血の翼や尾を形成する。この魔法は、タルテの生きた鎧リビングアーマーに着想を得たものだ。闇の魔法を込めた彼女の血を鎧のように纏う事で、アンデッドに対して特攻を得ることができる上、メルルも血を俺に固定することで、血魔法の制御を簡略化することができるのだ。


 ナナの魔法を纏うのが炎珠纏うバルハルトならば、今の俺は血刃佩くバルハルトだ。アンデッド相手ならば負ける気はしない。


 メルルが俺の動きに合わせて、背中の血の翼を広げてくれる。ただの鎧ではなく、タルテの竜鎧のように竜の形状を取っているのは、何もかっこいいからだけではない。血の翼は俺の風を受け止め、尾はメルルの意志で動かすことにより、俺にとっては自動で迎撃してくれる第三の剣となるのだ。


 風を捉えた血の翼により、いつも以上の速度で俺は移動し始める。その間にも、体ごと螺旋回転を描くようにマチェットを振りぬき、ドリルのように彷徨う遺骸スケルトンの垣根を削っていく。


「ガァアアアアアアアアア!!!」


「が…がぁあああああ…」


 タルテの竜鎧が歓喜するように雄叫びを上げ、俺も一応同じように吠え返しておく。…彼女の鎧はこの状態の俺を同種だと思っているのか、何故か登場すると喜ぶのだ。


 俺とタルテ、闇と光の竜鎧が対になるように左右から彷徨う遺骸スケルトンを屠っていく。文字通りの鎧袖一触という状況に、おっさん達がはしゃぐように声を上げる。


「おい!見てみろよ!ドラゴンライダーがとうとうドラゴンになっちまったぜ!?」


「ある意味、伝説の竜化の魔法ドラゴラムだな」


「おい!見物してないでお前らもさっさと彷徨う遺骸スケルトンを削れ!どうやら奥のアイツは彷徨う遺骸スケルトンを吸収してる!」


 副リーダーのおっさんから全体に檄が飛ぶ。貪食の白骸スケレトゥスレギオンに向けてエイヴェリーさんが何本もの剣を射出しているが、傷つくたびに周囲の骨を吸収して回復しているようだ。まずは、周囲の彷徨う遺骸スケルトンを一掃しなくては奴を倒すことはできない。


 それどころか、吸収によりパワーアップしている可能性もあるのだ。早々に彷徨う遺骸スケルトンを倒しきる必要があるだろう。


「うひょー!狩り放題だ!これ!」


 マチェットを水平に構えてダブルラリアットをしているだけで、彷徨う遺骸スケルトンが成仏していく。血の刃により、いつもより長くなったリーチで同時に何対もの彷徨う遺骸スケルトンを切り倒していく。そして、骨粉を巻き上げながら風と共に確実に彷徨う遺骸スケルトンの数を減らしていく。


 しかし、唐突に俺の剣が骨の山の中で停止する。堅い…と言うよりも密度の高い何かを切りつけ、勢いが途中で止まったような感触。そして、俺は剣に引き摺られるように空中に持ち上げられた。


「おいおい…そいつはご飯じゃないぞ…?」


 …貪食の白骸スケレトゥスレギオンの双頭の片方が俺の剣を咥えている。ワンちゃんに咥えられてそうな外見で、俺の剣を咥えるとは…。ペッしなさい。お腹壊すよ…?


 どうやら、骨の山に身を隠しながら俺に近づいたのだろう。見れば、タルテも俺のように足甲グリーヴを咥えられて持ち上げられている。


「へぁ…!?離してください…!?」


 修道服の裾を片手で押さえて、逆さになったタルテが片足で貪食の白骸スケレトゥスレギオンの顔を蹴るつけるが、蹴りが当たった瞬間に骨片が解け、再びパズルが組み上がるように蠢くとタルテの片足だけでなく、両足を咥えるように変化した。


「メルル…!!」


「ええ…!解かりましたわ…!」


 貪食の白骸スケレトゥスレギオンは俺の剣を咥えているが、それはメルルの血で作られた剣身だ。俺の声に合わせて、メルルが血の剣を液体に戻し、骨片の隙間を縫ってぬるりと這い出してくる。奴の拘束から抜け出た俺は、そのまま風を受けてタルテの元へ飛翔した。


「血で爆ぜろ…!」


 タルテを咥えている貪食の白骸スケレトゥスレギオンの頭に飛び付き、両手の剣を突き刺す。脈動するように俺を覆っている血がその頭に流れ込み、瞬間的に膨張することでその頭を構成する骨片を弾き飛ばした。


「ありがとうございます…!」


 タルテは空中で半回転して、貪食の白骸スケレトゥスレギオンを踏み潰しながら着地する。俺も再び血を纏いながら、タルテの近くに降り立った。


 …どうやら、自身のリソースを削る敵と認識されたのだろうか。あるいは死霊術師ネクロマンサーの指示なのか…。


 俺とタルテを見下ろすようにして貪食の白骸スケレトゥスレギオンの双頭はこちらを見下ろしている。威嚇をするようにタルテの生きた鎧リビングアーマーは一際大きく唸り声を上げた。


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