第114話 白い闇
◇白い闇◇
「くぅうう…!何この槍!?何で切れないの!」
ナナが
「ナナ…!槍も馬車も
それこそ、言ってしまえば骸骨だってカルシウムの塊だ。槍も馬車も骸骨同様に奴の体を構成する一部であり、
木製に見える戦馬車が、ナナの火魔法を受けて燃焼しないのもそのためであろう。
「坊主!何が何でもコイツをここで足止めするぞ!あいつらがあんな様子じゃ、馬車の突進を避けらんねぇ!」
斥候のおっさんは骸骨馬の目前に立ち、牽制するように刃を振るう。その刃からは塗られた
ナナが
「うぉっ…!?危ねぇえ!?」
お返しとばかりに、馬の後ろ足による蹴りが飛んでくる。上体を逸らして咄嗟に避けたが、もし当たっていれば、流石の俺でも骨に皹ぐらいは入ったかもしれない。
「ハルト…!どうする?このままじゃ押切れないよ!」
三人で積極的に攻めかかっているとは言え、人数が減った分
「クソ…!ケチってる場合じゃないな!油塗れにしてやる…!」
俺は
高価な小瓶に入った高価な品物だが仕方が無い。もともと、マザーサンドラに格安で回して貰った物だ。
空気の開放に伴い小瓶は破裂し、中に入っていた
「オォォォオオォォォォオォォオオオオオオオ!」
「これで倒せたわけじゃないよね…?」
「単なるアンデッドならともかく、
弱点であるメルルとタルテの魔法をその身に受けても耐えていたのだ。いまさら、
「どうしよっか?油なら火を着けてみる?」
「効かなくは無いだろうが…生物じゃないからな…。火達磨で暴れられる可能性も考えると…」
ナナが手の平に火を灯して俺に尋ねる。運動したお陰で身体は温まっているものの、冷えた空気の中ではナナの灯す火が、驚くほど暖かく感じる。
「ハルト様。火がだめなら凍らしてみては如何でしょうか…?ここなら環境が整っています」
「メルル?他の人の治療は…、…終わったみたいだね」
メルルの言葉を合図にしたかのように、次々とおっさん達が戦線に加わってくる。先ほどの恐慌が嘘のように、暴れる
「おおおおお!オレはやるぜオレはやるぜ!」
「そうかぁ!やるのか!やるならやらねば!」
おっさん達は見事な立ち回りで
「…なんか、少しおかしくないか?」
「その…揺り戻しと申しますか…、反動で少々向こう見ずに…」
メルルが目を逸らしながら弁明する。…急いで戦線に復帰させるために、少々強引に魔法で治療したのだろうか…。
「おう、メルルの嬢ちゃん。凍らせるなんて可能なのか?」
他のおっさんと交代した斥候のおっさんが尋ねてくる。多少なりとも魔法の知識があれば、相手に直接行使する魔法の難易度を知っているため、最もな質問と言えるだろう。
「ええ。勿論。多少のお時間とハルト様の手をお借りしますが…」
そう言ってメルルは俺を見詰める。メルルが考えているのは俺と一緒に開発した魔法のことだろう。確かに凍らすのは有効かもしれない。凍死するような奴ではないが、その分体温が無いため凍らせやすく、なにより戦馬車を床に固定することができるはずだ。
俺はメルルに答えるようにゆっくりと頷いた。
メルルが魔法を行使し始める。石畳の溝を流れる程度であった水が集まり始め、メルルの周りに渦巻き始めた。…いつまでも見とれている訳には行かない。俺はメルルと同様に渦巻くように風を操り始めた。
「みんな!下がって!魔法を発動させるよ!」
俺のアイコンタクトを受けて、ナナが戦うおっさん達に下がるように指示を出す。おっさん達が下がった瞬間に俺とメルルは魔法を発動させる。
「凍てつく氷の化粧…
メルルの手元から霧雨のような冷たい霧が次々と発生する。
「塵集めの小さな悪魔、
俺の風がそれを勢い良く吸い込み始める。
「「白い闇《ホワイトアウト》」」
白い竜巻が唸りを上げて
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