第96話 カルムロウの街はまだ明るい
◇カルムロウの街はまだ明るい◇
「…この街には、コルレオ商会の他にも複数の裏組織が鎬を削っております。コルレオ商会のように堂々と表の商売をしている団体もあれば、秘密結社のように裏で繋がっていて表に出てこない集団なんてのもいます…。穏便にお願いしますね」
街を歩きながら、ギルド員のブロケイドさんが説明をしてくれる。一人で調査をする予定だったのだが、ブロケイドさんが途中までは街案内をするといって付いて来てくれたのだ。
…彼の言葉には、言外にあまり街を騒がして欲しくないというニュアンスを含んでいる。
ブロケイドさんと連れ立って街を歩く。カルムロウの街並みは雑多な街並みだ。狭いスペースに粗雑な店舗が並び、店をアピールするための看板が所狭しと並んでいる。
前世の繁華街のように、視覚の中に入り込んでくる情報量が多いため、そこまで広く風を展開している訳でもないのにうるささを感じてしまう。
「賑やかな街ですね。大都市ほど人が多いわけではないのに、どこか活気がある」
「ええ。…昔はもっと栄えていたらしいですよ。テレムナートはカーデイルの中でも大きな街の一つで、その衛星都市、つまりは他の街と繋ぐ交易都市として栄えていたそうです」
テレムナートが滅んだ今でも、ここはガナム帝国との国境の近くに位置しているため交易品が多く並んでいる。仲の悪い国同士ではあるが、全く国交が無いというわけではないのだ。
「さて、見えてきましたよ。あの建物がコルレオ商会です」
ブロケイドさんが視線で指し示す先には、一つの商館が建っていた。見た目は至って普通の商館だ。一般向けにも店を開いているのだろう。大きく開いた戸口からは、商品の並んだ店内が見て取れる。
…唯一の不自然な点といえば、店の警備のために控えているガラの悪いおっさんの存在だ。あんな存在がいて一般客が寄り付くのかと疑問には思ったが、何人かのおばさんは何のためらいも無く、店内でショッピングを楽しんでいる。…まさかおっさんが見えていないのか?
…念のために確認したが、ブロケイドさんにも厳ついおっさんが見えているそうだ。どうやら、俺にしか見えていないおっさんの妖精という訳ではないらしい。恐らく、この街の住人は慣れてしまっているのだろう…。
「一応は、雑貨屋って感じなんですかね?」
店の内部には様々な種類の商品が並んでいる。見える範囲でもその商品の種類は数え切れず、豊富と言うよりは節操無いと表現したほうが似合うラインナップだ。それこそ揺り篭から棺桶まで置いているのでは無いだろうか?
「雑貨屋というより、質屋ですね。何でも買うし、何でも売ると謡っております。…質屋には金に困った人もよく来るので、金貸しなんかもしているそうですね」
ブロケイドさんが淡々とそう説明をする。生真面目な印象の人だが、意外と裏組織のことを把握している。…この街で狩人ギルドのギルド員をしていると、そういうことにも詳しくなってしまうのだろう。
「…ブロケイドさん。例のコルレオ商会がどこに物資を保管しているか、当たりは付いているのでしょうか?」
「商館の奥が、そのまま倉庫になっております。恐らくはそこにあるかと…。狩人ギルドに売り込みに来た際に、検品したいのなら商館に来るように言っておりましたので」
…随分、やっていることが雑だな。こっちが武力行使をするとは思っていないのだろうか?
「では、ハルト様。私はここで失礼いたします。…今回は狩人ギルドの失点ですから、多少のことは目を瞑りますので」
「案内ありがとうございました。…意外と柔軟な方なんですね」
「勿論、私の好みでは有りませんよ。…ですが、エイヴェリー様の考えも、ある意味この街の流儀に乗っ取っておりますので」
そう言ってブロケイドさんは街の中へと消えていった。
俺は手前の路地裏に体を滑り込ませ、多少の遠回りをしながらコルレオ商会に近づいて行く。そして、歩みを止めぬまま道端のゴミや土を拾い服を汚していく。
…街を歩く過程で気付いたが、この街にはストリートチルドレンの姿がちらほら見えた。狩人の姿だと警戒されてしまうから、化けるにはもってこいだろう。
コルレオ商会脇の路地に胡坐をかいて座り込み、拾った小鉢を目の前に置く。そして、ゆっくりと風を伸ばして内部を探索していく。
(うへぇ…。盗聴妨害ばかりじゃねぇか…)
魔道具はガルム帝国の方が量も質も上手だと聞いている。国境近くのこの街には数多くの魔道具が流れて来ているのだろう…。これでは内部の構造も調査することができない。一つぐらいであれば解析してすり抜けられるが、幾つも重なってくると非常に時間が掛かる。
それに、第一優先は物資の場所だ。そして、できれば狩人ギルドに納品予定だった物資を奪ったという証拠が欲しい。
…今のところは状況証拠しかないのだ。もしかしたら、たまたま百数名分の物資を手に入れたタイミングで、たまたま別の商会から百数名分の物資が奪われたのかもしれない。それこそ、質屋なら強盗犯が物資を横流しした可能性もある。
…まぁ、盗品と解かっていての購入は違法なのだが…。
(流石に物資の場所は見てみないと確認できないな…)
音の出るものや、特徴的な形状のものであれば風で確認できるが、流石に箱や袋は判別が付きづらい。
軽い下見のつもりであったが、流石にこれで帰ってしまっては収穫が無さ過ぎる。あまり、明るい間に大胆なことをしたくは無いが、内部にまで侵入してしまおう。近づけば魔道具の妨害も解析しやすいだろう。
俺は足元に風を吹かせ、商会の屋根の上へと舞い上がった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます