第88話 歌い骸骨
◇歌い骸骨◇
「みんなー良く来てくれたねー。待ってたよー。悪いねーわざわざ来てもらっちゃってー」
「エイヴェリー叔父さん、お早うございます!」
流浪の剣軍のクラウンハウスを訪ねるとエイヴェリーさんが直々にお出迎えをしてくれた。俺ら妖精の首飾りの三人とタルテさんは、エイヴェリーさんの協力要請の内容を聞くために、こうして四人連れ立って流浪の剣軍のクランハウスに訪れている。
「何やら、慌しいご様子ですね。…非常事態といった感じでしょうか」
「これって…、私達の持ち込んだアンデッド騒動が原因って訳じゃないよね…?」
…エイヴェリーさんはいつもの様に飄々とした態度だが、クラン員のおっさん達は妙にピリピリしている。それどころか、クランハウスに領府の所属と思われる人や狩人ギルド職員と思われる人もクランハウスに出入りしている。
おっさんだらけのクランハウスであったが、いつもに増しておっさん指数が上昇している。心を強くして挑まなければ耐えられないだろう。
「エイヴェリーさん。協力要請と聞きましたが…、依頼の手伝いということでしょうか」
「そーそー。ちょっと僕でも重たい案件でねー。とりあえず入りなよー」
そう言ってエイヴェリーさんは手を中へと翳して、俺らをクランハウスに入るように促がした。…エイヴェリーさんの後ろを追って、クランハウスの奥へと脚を進める。すでに以前に案内された応接室などを通り過ぎ、今までに進入したことのない所にまで至っている。
「エイヴェリー殿。随分、奥に進みますね。…何があったんですか?」
ナナも仰々しい雰囲気を感じ取ってか、エイヴェリーさんに尋ねる。エイヴェリーさんはその質問を受けて、歩きながら語っていく。
「えとねー。わざわざ僕らが遠征してたのはねー、ちょっと大きな野盗団を倒してきたんだー」
遠征していたのは聞いていたが、野盗団の討伐に行っていたのか…。エイヴェリーさんが出張るということは領境の辺りに出没したのだろうか。領境は政治的な理由により、領軍が展開しにくい。
それを見越して領境や国境に潜む野盗の数も多いため、狩人に野盗の討伐の仕事が回ってくることも少なくない。
「問題はねー。その野盗の持っていたものでさー。何で持っていたのかも問題だしー、処理にも問題があるって代物なんだよねー」
俺らは、クランハウスの奥の一室の前に辿り着いた。部屋の前では、領兵と流浪の剣軍のメンバーらしき人が警護をしている。あからさまに、部屋の中に重要な何かが存在しているのだろう。
「ここにはねー、その代物を運び込んだってわけー。本当はもうちょっとゆっくりする予定だったんだけどー、マザーサンドラに封印処置をしてもらうためにー大急ぎで帰ってきたんだよー」
そう言ってエイヴェリーさんは、手で扉を開けるように指示を出す。クラン員らしきおっさんはそれを受けて、部屋にかけられていた鍵を開錠した。
ゆっくりと観音開きの扉が開かれ、扉の隙間から部屋の中の光景が俺らの目に晒されていく。石畳の敷かれた部屋の中央には、頑丈そうな作りのテーブルが置かれている。そして、なによりも俺らの目を引き付けるのはそのテーブルの上に安置された儀式槍。
「ハルト君達さー、疑問に思ったでしょー?こんな短期間にーこんな近距離でー、準厄災指定に続けて出会うなんて異常だってさー」
エイヴェリーさんは、まるでこれが原因だと仄めかすかのように俺らに語りかける。
だが、仄めかすような言葉であっても、目の前のそれはエイヴェリーさんの言葉に説得力を持たせていた。
十字槍の形状をした儀式槍には、頭蓋とそこから伸びる脊髄が巻き付くようにして磔にされており、その躯は今さっき皮を剥いだばかりだと云わんばかりに真っ赤な鮮血や肉片がこびり付いている。
そして、その儀式槍を覆うように半霊状の光の帯が括り付けられている。恐らくはあれがマザーサンドラに頼んだ封印処置というものだろう。
「ヒェッ…!?」
タルテさんが息を漏らすような悲鳴を上げ、俺の後ろに隠れて服を掴む。
「…エイヴェリー殿。これは一体…」
「これはねー。本来はこんなとこに在ってはならない呪物だよー。幽都テレムナートって聞いたこと無いかなー?」
幽都テレムナート。かつて滅びたカーデイル国に存在した都市と聞いている。もっとも存在した頃は幽都などとは呼ばれていないはずだ。…帝国が進攻した際に都市は滅び、現在はアンデットの巣窟となっている。そのため、幽都テレムナート。今は一部の廃墟泥棒じみた狩人しか近づかないと言われている。
「そもそもーあの都市がアンデッドだらけになったのはこれが原因なんだー。帝国が攻め入ったときーあの街の誰かがこれを作り出したのさー」
恨みを詰め込んだ特級とも言える呪物。…幽都テレムナートは一夜にしてアンデッドの巣窟になったと言われている。てっきり、尾びれの類かと思ったが、エイヴェリーさんの話を信じるのであれば、この呪物がそれを成したのだろう。
「つまり、死者の行進や
俺は目を呪物から逸らす事無く、エイヴェリーさんに尋ねた。
「そーだねー。これはスクラントンの受戒剣とは真逆の呪物。世界を歪め、暗がりに住む者を産み出す呪い。
エイヴェリーさんの声に答えたのか、磔にされた頭蓋は笑うように顎を動かした。
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