第27話 狩人よ。力を示せ02

◇狩人よ。力を示せ02◇


 銅羅が辺りに鳴り響き、その音を皮切りに一番隊が一斉に戦列を下げる。エイヴェリーさんは一番隊が無事に交代ができるように、剣を操りボスゴレブレに斬りかかる。


「さぁさぁ。第二陣の一番槍は頂くかな」


 俺は風を纏って加速する。


「あ、待て!狡いじゃないか!交代間際は危ないから、突出し過ぎるなと注意されただろ!」


 ナナの声を背後に受けながら俺は敵に向かって駆け抜ける。城壁の上から、ある程度の行動パターンは確認している。


(こいつの攻撃は基本前脚と顎!たまに尻尾!後脚周辺は安地!)


 もちろん、軽く身動きされただけでこっちは吹っ飛ぶので、完全な安全地帯とは言えないが…。


「オラァ!」


 風を纏い空を舞いながら、まさしく投擲戦斧フランキスカの如く、ボスゴレブレの横っ腹に剣を叩き込む。外殻が削れ火花が上がる。


「硬ってぇなぁ!おい!」


 ボスゴレブレは俺の攻撃を気にも留めず、城壁の上のエイヴェリーさんにご執心だ。 


「癪だが、要望通り動いてやるよ!」


 ボスゴレブレの注意がエイヴェリーさんに向かっているため、腹の下への警戒心は薄い。


 俺は初撃の勢いそのままに、腹下に潜り込み、駆け抜けながら斬り付ける。


「ウゲェ…外殻は無いといっても流石は竜鱗。まともに刃が立たねぇ…!」


 頭上の腹に向けて連激を叩き込む。重傷とはいえないが、僅かばかりの傷を付け、竜の血が俺に向けて振ってくる。


「ハルト!ボスゴレブレがそちらに気を向けてる!脚を止めずこちらに駆け抜けろ!」


 外からナナの声が届く。同時に自身が斬り付けている天井りゅうのはらが揺らぐのを感じる。


「おっほ。天井落下の罠って訳ね」


 焦る事はない。俺と同じように腹下から逃げ出そうとする空気を束ね、自身の追い風とする。


「ヘッド!スライディングゥ!!」


 滑り込みながら腹下から脱出し、ナナの脇に舞い戻る。背後ではボスゴレブレのボディプレスが決まり震源直下の如く大地が揺れる。…結構時間に余裕があった。ヘッドスライディングは余分だったな…。


「ダメだね。多少は出血させたが、アイツからしたら擦り傷だ」


「そのようだな。今度は腹下で槍でも突き立ててみるか?」


 確かにそれならボディプレスを利用できるが、確実に俺もお陀仏だ。


「さてと、次は私の番だな」


 ナナのフランベルジュに火が灯る。腹這いになったことにより、ボスゴレブレの胴体を狙うには丁度いい高さだ。二番隊、三番隊の面々も、ここぞとばかりに武器を振るう。様々な武器を使っているが、メイスやウォーハンマーを使っているものが多い。


「あぁ…そりゃ、プレートメイルには鈍器だよなぁ」


 …俺もハンマーを用意しておくべきだったか。…でもあれ、鉄の塊だけあって結構値が張るんだよね。


「ハァッ!!」


 俺が鈍器を羨んでいる間に、ナナが前腕に斬り掛かる。その剣は弾かれはしたものの、浅くはない傷を残す。


「Gooohhhhnnnn!!!」


 久し振りに味わうだろう痛みに、ボスゴレブレが悲鳴を上げる。


「スゲェぞ!ナナ!外殻を斬ったのか!?」


 暴れるボスゴレブレに注意しながら、ナナが俺の近くまで退がってくる。


「あぁ。外殻は鉄と聞いていたからな。もしかしたらいけるかも知れないと考えていた」


 と言いながらナナは指を指す。その先にはナナが斬りつけた傷。尽くの攻撃を弾いた外殻は、ほんの一部ではあるが、赤熱し溶断されていた。


「斬りつけた瞬間に、鉄を溶かすほど加熱したのか…」


「この炎の魔剣は単に熱いだけではなく、触れるものに剣の熱を強制的に移すらしい。だからこそ剣身自体は常に低温で、脆くなることなく剣として機能する」


 炎の魔剣のクセに、剣身は冷たいのかよ。夏場に重宝しそうな。…いや、触っても熱を移されるから、冷たいとは感じないのか。


「で、どうするよ。やっこさん、ナナに首ったけのようだぜ?」


 誰が傷を付けたか分かっているのだろう。憤怒に燃える相貌は、ナナのことを確と見つめている。


 それどころか、脚や尾を振るい、他の奴らも近付けさせないよう警戒している。先ほどまでは、羽虫を追い払う程度の注目度であったが、俺らを外敵と見定めたようだ。


 …完全に戦況が硬直している。


「ははは。ああまで見つめられると照れてしまうな。…ハルト。奴の気を引けるかい?」


「まぁ相棒をジロジロ見られるのは俺も腹が立つしな。ちょっくら文句を言ってくるわ」


 ナナが攻撃するにはヘイトを逸らさなけれだならない。アイツが一番嫌がりそうな攻撃か…。


「よっしゃ。アップドラフトにエアバーストォ!」


 俺は自身を風で吹き飛ばし、空高く跳躍する。…やはり、上空は警戒が甘い。頭の外殻、頭殻が邪魔で上方は死角なのだろう。


 俺は風で姿勢を制御し、ボスゴレブレの背中に着地する。


 …丁度、同じ位の高さに降り立ったため、城壁の上にいる呆れた目をしたエイヴェリーさんと目があった。…別にふざけている訳じゃ無いですよ…?


 ボスゴレブレは未だにナナを睨んでいる。俺はそのまま首の後ろまで移動して腰を下ろし、振り落とされぬように風を使って体を押し付ける。


「おい見ろ!ドラゴンライダーだ!すげぇ!!馬鹿じゃねぇのか!!」


「おいおいおい!マジかよ!俺も乗りてぇ!!」


「ドラゴンスレイヤーに成りに来たのに、ドラゴンライダーが混ざってたのか!」


 おいおい、おっさんども。好き勝手言ってくれるじゃねぇか。別に俺はドラゴンライダーになるために、こんな事をしているわけでは無い。


「俺は…!ドラゴンライダーじゃねぇ!!…そう!太鼓の鉄人だ!!」


 既に俺の脳内ではイントロが流れている。準備は万端だ。


 そして、両手に持った二本のマチェットを天高く掲げる。


 …いくぜぇえ!!


くれないだあああああああ!!!」


 マチェットを太鼓のバチ代わりにして、目の前のボスゴレブレの頭殻を連打する。


 激しく、そして鋭く!ハイハットの代わりに頭殻を。スネアの代わりに頭殻を。タムタムの代わりに頭殻を連打する!


 刻むぞ俺のシックスティーンビート!!


「はっはぁ!頭蓋骨と繋がってんだろこれ!?流石にうるせぇよなあ!?」


 騒音という嫌がらせに、ボスゴレブレもナナから目を離し俺を取ろうと躍起になる。


 城壁に擦り付けたり、前脚で引っ掻いたりするが、そんなんで俺は止まらない。一時離脱したところで、直ぐに風に乗って戻ってくるからだ。頭殻が邪魔で上方向の視野が狭いことも俺の味方になっている。


「おいオメェら!投擲戦斧フランキスカが気を引いてる!今の内に叩き込めぇ!」


 副リーダーが檄を飛ばす。おい誰だ!蝿みたいって言った奴!聞こえてんだぞ!


「Gooohhhhnnn!!!」


 再びボスゴレブレが叫ぶ。眼下では残心をしながら退がるナナの姿が。どうやら上手く攻撃できているようだ。


「傷だ!波刃剣フランベルジュの作った傷を叩け!広げるんだよぉ!」


「おら!叩け!叩け!!」


 おっさん達がいっせいに攻勢に転ずる。傷口を重点的に叩き、ボスゴレブレから血が流れる。


 痛みにのたうち、更にボスゴレブレが暴れる。俺も必死で飛んだり跳ねたりしてるが、竜の上より、空中にいる時間の方が長い気がする。実質空中浮遊では?


「ハルトくーん。そろそろ交代だけどー、交代中もそれできるー?」


 城壁の上からエイヴェリーさんが声を飛ばしてくる。


「そろそろ!休み!たいんで!お早目にぃ!」


「おう!待ってろロデオボーイ!今銅羅を鳴らす!」


 ロデオどころか、さっきから腰を下ろしてません!竜の上でタップダンス刻んでるんだぞ!


 直ぐに銅羅が鳴らされるが、俺はしばしの延長戦。第一部隊に滞りなく交代したことを確認してから、城壁に飛び乗った。


「ハルト。ダンスが得意なんて聞いていなかったぞ?なるほど、見事な剣舞はそこから来たのか」


「おや、レディ?宜しければ今夜一曲、如何ですかな?」


「…むぅ」


 帰着した俺をナナが揶揄からかってくるが、俺をおちょくるなんて百年早いわ。


「いやー相変わらず面白いことするねー」


 エイヴェリーさんが上機嫌で話し掛けてくる。その後ろには、何故かおっさん達がぞろぞろと付いてきている。


「ところでさー首回りの外殻の厚さどうだったー?」


「首回りですか?…あぁ。確かに狙い目ですかね。外殻がある事には変わり無いですけど、関節部位だけあって、多少は薄そうです」


 肩や肘もそうだが、関節部分の外殻は薄く細かい。そのため、周囲の外殻がそこを覆うように保護している。首の場合は後ろに迫り出した頭殻がそこを保護しているのだろうが、狙えない箇所では無い。首の横は頭殻に守られていないし、首を下げた場合もうなじを狙うことができる。


「まさか、ナナにそこを攻めさせようと?」


 今のところ外殻を破壊できたのはナナだけだ。いくら、関節の外殻が薄いからといって、俺を含め他の奴らも破壊はできていない。


 更に言えば首回りは狙える場所では無い。俺は風魔法で飛び回れるおかげで、首にも辿り着いてはいたが、基本的に手の届く位置では無いからだ。


「俺がやったみたいに、奴を腹這いにすれば首にも剣が届くとは思いますが、腹這いの状態では、首は完全に頭殻に隠れますよ?」


「ふふー心配しなくてもー、首を断つのは僕がやるよー。ナナちゃんにお願いしたいのは火魔法さー。あれが熱せられて軟くなるのはわかったからねー」


 あぁ成る程。ナナが熱した所をエイヴェリーさんが叩くのか。そう上手くいくかは分からんが、試す価値は十分にある。


「ハルトには、すまんが私の魔法の誘導をお願いできないか?火力にこだわるので狙いが甘くなる」


「構わんぞ?なにをやるんだ?炎の驟雨ソドムズウェザーか?」


 あれは広範囲殲滅を目的とした魔法だ。俺の風で一箇所に集中させてやればかなりの威力になる。


「いや、炎の驟雨ソドムズウェザーは着弾に時間差がある。一発でかいのを出すつもりだ」


 …あぁあの魔法か。あれは炎の驟雨ソドムズウェザーと同じで、俺とナナの合わせ技として思わぬシナジーを見せる術だ。


「じゃあー、準備を始めて貰っていいかなー?第一部隊には通達済みだからー、僕らの動きに合わせて動いてくれるよー」


「因みにエイヴェリーさんは剣を飛ばすのですか?質量があるんで大丈夫だと思いますけど、少しは俺の風が影響してしまうはずです」


 火の魔法の着弾のために、大規模な風の魔法を使う。即座に攻撃するとなると、エイヴェリーさんの攻撃にも風があたることとなる。


「ふふーん。僕は魔法剣士だからねー。もちろん剣を振るうさー。特注品だよー?」


 そう言ってエイヴェリーさんは、後ろに引き連れていたおっさん達を脇にどかす。おっさんの後ろに隠れて見えなかったが、そこには剣があった。


 巨人族を含めても、もやは持つことが叶わぬだろう大きさの剣。城壁の床が抜けないか心配になる程である。特大にでかい大剣、言うなれば特大剣だ。ぞろぞろと引き連れていたおっさんは、この剣を運んでいたのか。


「そうか。エイヴェリー殿はこれを魔法で操って振るうのか」


「流石にー、普段はこんな大きいの使わないよー。今回のためだけに作ったのさー」


 今回の現場が街から近かったことも味方したな。こんな重量物を担いで魔境を移動なんて正気の沙汰では無い。


「それではハルト。戻って早々だが仕掛けようか。束縛している鎖がもう限界らしい。」


「なら、急がんとな。…エイヴェリーさん!タイミングは?」


「そっちに合わすよーさぁさぁー楽しい竜狩りと行こうじゃないかー!」


 俺はナナと共に城壁の上を駆け抜けた。


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