第24話 フランキスカとフランベルジュ
◇フランキスカとフランベルジュ◇
右方と左方の戦況を確認する。…どちらも問題は無さそうだが、右方のおっさんグループには怪我人が出始めている。
「おし、右方の戦場に出るぞ。怪我人で戦力が落ちた分、俺らで補おう」
…あと、正直言って今の状態のエイヴェリーさんの近くで戦いたくない。
俺は追い風を受けながら、ナナに先行するように戦場に駆け寄る。
(前線の端から。ゼブラークの集団の横っ腹を叩くように…!)
ゼブラークの鎌をマチェットで受け、もう片方のマチェットで関節を切り落とす。二撃目が来る前に懐に入り込み、胸郭を叩っ斬る。
そのまま足を止めず、隣の個体。先手必勝。素っ首落とす。
横合いから鉤爪が飛んでくるので、飛んで躱す。エアブラストにて急激な軌道変更。加速を利用して胸郭にマチェットを突き刺す。
(お…?もしかしてこいつら…)
近場の個体に高速で走り込むが、エアブラストで急停止。目の前をゼブラークの鎌が通り過ぎる。
今度は右に走り出したあと、エアブラストで左前への急激な切り返し。ゼブラークは右方向へ攻撃している。
俺はそのまま背後に回り込み、後ろから胸郭内の神経節を叩っ斬る。
「こいつら、動体視力はすげーが、その分フェイントにすぐ
ピュアなのかな?
(そんならこっからは足を止めずに飛び回るか)
立体軌道で動き回りながら、エアブラストで頻繁に軌道を変える。それだけで簡単にゼブラーク達は騙される。
右に進んで切り返し、飛び上がって急降下。
左に進んで跳ね上がり、潜り込んで駆け上る。
枝葉を落とすようにゼブラークの手足や首を
「おいおいおい!エイヴェリーさんはどっからあんな化け物連れてきたんだ!」
「坊主は斥候っで嬢ちゃんが火力かと思ったが、坊主もヤベェぞあれ!」
俺の展開している風が、おっさん達の声を拾う。
(ふっふっふっ。もっと褒め称えるが良い…!)
「…俺…あの剣知ってる…ずいぶん昔…俺がまだ新米の頃…アウレリアにいた…ハーフリングの剣だ…!」
「そうだ!見たことある!首狩り姫だ…!」
「嘘だろ…!?刎ねる首が無くなったからアウレリアを出て行ったってのに…」
…父さん。…首狩り姫…か…。
「おう!オメェら新人に負けてんじゃねぇぞ!」
副リーダーからの激励が飛ぶ。おっさん達も気合を入れ直し、みるみる内にゼブラーク達が討伐されていく。ナナもフランベルジュを振るい、ゼブラークを甲殻ごと焼き切っている。
「ハルトぉ!手前はもう片付く!魔法を打つから奥の集団に誘導頼む!」
「おうよ!例の持続長めの炎の魔弾を適当にばら撒け!こっちで合わせる!」
ナナと並走するようにして、奥から向かってくるゼブラークの集団に向かって走る。
奥にはおっさん達が居ないから、火魔法が存分に撃てる。
「ハルト!行くぞ!炎の魔弾!」
ナナが前方に放った複数の魔弾をコントロールする。二個は俺の近くに旋回させて、残りは向かってくるゼブラーク達の左右に選り分ける。
敵方の集団の足並みが乱れる。左右の集団は焼け、中央の集団だけが縦に伸びた状態で接敵する。
「ナナはここで連続狩猟!俺はナナが囲まれないよう、少し奥でゼブラークの集団をコントロールする!時折り炎の魔弾を送ってくれ!」
「わかった!無理をするなよ!」
「お互い様だ!」
ゼブラークの集団に潜り込み掻き回す。この陣形では俺が仕留める必要はない。仕留めるのはナナがやってくれる。
「まぁそれでも少しぐらい刎ねてもいいよなぁ!?」
管理がてらにゼブラークの首を薙ぐ。死んでも暫くは動き回ってくれるから、都合よく他の個体の邪魔をしてくれる。
前方の敵は剣にて屠り、背後の敵には炎の魔弾を打ち込み仕留める。一陣の風となり、ゼブラークの間を駆け抜ける。
…こっからはナナと俺の討伐数争いだ!
「ハルト!もう少し回せ!少し暇だぞ!」
「ナナの炎の魔弾が強過ぎるんじゃい!見てみろ!
もちろん炎の魔弾での討伐は、討伐数にカウントされません。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いやー聞いたよーそっち凄かったんだってー?」
「エイヴェリーさん。凄いってもんじゃないですよ。ハルトの坊主が駆け抜ける度にゼブラークの首が飛んでいくし、ナナの嬢ちゃんは大半を消し炭にするしで、結局二人でこっちの集団の半数近くを持っていきやがりました」
おっさん達が手放しで俺らを褒める。…よせやい。照れるじゃねぇか。
「エイヴェリーさん。酩酊草の確認終わりました。全て焼失。近隣にも他の群生地は見当たりません」
副リーダーが偵察結果をエイヴェリーさんに報告する。
「了解ー。それじゃあさっさと撤収しようかー。下手すると他の魔獣が寄ってくるしねー」
帰りもよろしくねーとエイヴェリーさんが俺の肩に手を置く。帰るまでが狩猟だ。気を抜くんじゃないぞ。俺。
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「ごめんねー。うちの団員が話しちゃったみたいでー、やっぱり他から僕のクランに加入したと思われちゃってるみたいー」
酩酊草根絶作戦からしばらくして、俺とナナはエイヴェリーさんからお詫びを兼ねて酒屋で夕飯をご馳走になっていた。因みにこの国ではお酒は十五歳からだ。
「えぇまぁ。他のクランに入るつもりも有りませんでしたから構いませんよ」
エイヴェリーさんが謝っているのは、俺らがエイヴェリーさんのクランに入団したと、他の狩人に誤解をさせてしまったことについてだ。誤解されたところで、別のクランからお誘いが来なくなる程度の話なので、取り分けデメリットはない。
…ただ、俺らを手元に置くために、わざと漏らした訳じゃ無いよな…?今こうしてエイヴェリーさんとご飯を食べているのも、周りに誤解を与えることとなる。
ナナもそれには気付いているようだが、特に俺に忠告は無い。…これは取り敢えず様子見ってことだな。
俺は黙って目の前のご馳走に手を伸ばした。
「…ハルト。お前はどちらかと言うと目立ちたがり屋だよな?」
ナナがいきなり、しかめっ面になり、俺に質問を投げかける。
そんな訳あるか。俺はシャイなピュアボーイだぞ?というか斥候職も兼任してるんだから、目立ったらまずいだろ。
「あーそうなのー?なら平気かなー?ナナちゃんはもう聞いたのー?」
「ええ…チラッとですが…広場で…」
「え?なんの話?」
ナナは俺の質問には答えず、無言で指を差した。指の先には先程店に入ってきた吟遊詩人がいる。
吟遊詩人はリュートを鳴らしながら、ゆっくりと歌い始める。
イントロは悲しい響きの曲調だ。
「民の暮らしを脅かす、賤しき物に、糧を与える草がある。
秘境の奥に生えるそれは、人に堕落を教え込む。
そんな悪意を根絶すると、立ち上がるは一人の戦士。我らアウレリアの誇りの一人。浮遊剣のエイヴェリー」
あ、この流れはマズイですね。俺には特別な知恵があるからわかるんだ。
「しかし、悪意が生い茂るのは、魔物ひしめく大森林。容易く成せることでは無い。
そのため、我らの英雄エイヴェリーは、新たに二本の剣を用意する。
一人は紅炎煌めく
彼女が一度、手を振るえば、悪意の草原が燃え上がる。見渡す限りを炎に変えて、神話をここに再現させる。
しかしこれでも終わらない。炎につられて集まるは、魔境の強き魔獣達。
そこで振るうは次なる刃。戦場駆ける
目にも留まらぬその刃。止まるは全ての首を刎ねた後。
あぁエイヴェリーの新たな二剣に喝采を。街を護りし守護の剣。新たな英雄に祝福を…」
吟遊詩人は歌い終えた。エイヴェリーさんは周囲に手を振りながら、吟遊詩人にチップを渡しに行く。一応、それが歌われた人のマナーらしい。
「どうだ。ハルト。歌われた気分は」
「ナナはまだましだな。実際にフランベルジュ使ってるし。何で俺、
「それはその…ハルト自身が
ハハハハ。誰が地に足付いていないって?
…まぁ…首狩り姫よりはマシだな…。
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