少年期
第13話 おい仲間さどこだで!?
◇おい仲間さどこだで!?◇
「忘れ物は無い?ハンカチは持った?受講票は?」
「大丈夫だよ。父さん。何回も確認したよ」
異世界に転生して十三年。俺はとうとう独り立ちの時期に立った。この国では十三歳になると納税の対象となるため、何かしらのギルドに所属し、税金を納めることとなる。
俺が選んだのは両親の古巣である狩人ギルド。野山を駆け魔物を狩猟するギルドである。
彫金ギルドに所属し、実家にて下積みをするという安定ルートもあったが、俺は幼少よりのロマンを選択した。
一応、他にも騎士学校や魔術学校、国学院などの練武や学問の道も存在するが、そう言った学院は、十五歳からがほとんどだ。十三歳より稼げるので、能力のある奴は二年間の間に自分で学費を稼げということだ。
その気になれば行くこともできるが、今は考えていない。先ずは狩人ギルドにて世界を見て、金銭に余裕があるなら考えよう。
「兄ちゃ。どっか行くの?」
「あぁ。可愛いハルマジェア。大丈夫。夜には帰って来るよ」
父さんにも負けぬ天使の微笑みを向けて来るのは、今年で六歳になる可愛い妹。ハルマジェア。
俺とは違い、巨人族の血が濃く出ているため、その髪は燃えるような深紅だ。むしろ濃過ぎて黒に近い。
俺は妹が産まれた時、それはもう驚いた。
何故かって?出産一ヶ月前まで、母さんが普通に働いてたからだ。
ジーン商会相手に俺が立ち回った時も、俺が気付いて居なかっただけで妊娠していたのだ。
その後、お腹の大きさが隠せなくなってきて、流石に周りが休むよう手配し、ようやく休んだと思ったらさっさと出産。もしかして、俺の時もこんなんだったのか?
父さんも、巨人族ならこんなもんでしょ?といった感じで母さんに対する妙な信頼があった。
だが、余裕綽々な二人は出産までであって、そこからは違った。
と言うのも、俺は相当手のかからない赤子であったが、妹はそうでは無かったという事だ。
日に日に窶れる父さんと母さんを見て、流石に不味いと俺も訓練そっちのけで妹の面倒を見る。
俺の時とはあまりにも違う妹の様子をみて、どこか悪いんじゃ無いかと勘違いした両親は、治療院にも妹を連れて行ったが、そこで両親に知らされたのは俺の赤子時代がむしろ異常だったということ。
妹の面倒を見る俺に、両親はありがとうと感謝の言葉をよくくれたが、それは単に妹の面倒を見ているからというより、俺が手のかからない赤子であった事に対していってるようにも聞こえた。
そんなこんなで、よく面倒を見て居たこともあり、マジェアはかなりのお兄ちゃん子だ。
「いっしょ行きたい…」
「マジェア。お兄ちゃんはお仕事だから、今日は僕と遊ぼうね」
「うん…遊ぶ」
「それじゃあ二人共、行ってきます」
「行ってらっしゃい。気を付けるんだよ」
「…バイバイ」
…今はまだいいが、その内長期の依頼や、拠点を別の街に移すことも考えている。それまでにお互い兄妹離れしなければ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おう。個別戦闘の規定を達成してる奴らはこっちだ」
狩人ギルドの修練場でロジャーさんが声を上げている。
今現在俺は、狩人ギルドにて講習会を受けている。以前、狩人ギルドが俺の想像する冒険者ギルドに近いと言ったが、もちろん違う所もある。
まず、簡単には登録できない。物語のように、身分証が無いのに端金で登録でき、しかも登録証が身分証として機能するという、身分保証の意味を疑いたくなるシステムは存在しない。
また、依頼の失敗はギルドの信用を落とすことに繋がるので、強制で様々な講習を受けることとなる。これを受けなければ、薬草の採取やゴブリンの狩猟さえも許されていない。
素人に薬草の群生地を荒らされたり、不用意な狩りで生態系を壊し、被害が出てしまっては堪ったものでは無いからだ。
俺はロジャーさんの元に小走りで向かう。
俺は元狩人の両親からの推薦状に加え、事前にロジャーさんに腕前を確認されているので個別戦闘に関しては合格しているのだ。
「おう、集まったな。個別戦闘ができてるお前らが次に学ぶのは集団戦闘だ。新人の事故で特に多いのが、対集団のノウハウを理解せずに集団に突っ込んで返り討ちにされることだ」
対集団戦闘、および集団戦闘。この辺は俺もほとんどできていない。
…鍛錬は基本一対一だったからな。
「いいか?よく聞け?例えゴブリン一頭を一撃で倒せるからと言って、複数のゴブリンに無策で突っ込むと死ぬぞ?
お前が片方のゴブリンを殺すと同時に、お前も背後から攻撃されて殺される。命が複数あり、多方向から同時攻撃が可能な不定形の化け物が集団だ。
複数を相手にした途端、難易度ってのは急上昇する事を覚えとけ」
ロジャーさんは、普段のおちゃらけた様子とはかけ離れた、真剣な顔で俺らに忠告をする。
「例えば相手が五人の集団の時は、一対五で立ち回るのではなく、一対一を五回するように立ち回るように。逆にこっちが五人なら、五対一になるように立ち回る。
これはお互いに同数のでも同様で、一対一を五組で戦うのではなく、五対一を五回するように立ち回るんだ。要するに、集団戦闘で重要なのは、袋叩きに合わないようにしながら、相手を袋叩きにするって事だな」
前世の時代劇やヤンキーもののドラマなどで、やたら囲め囲めと言っているのはこういう事なんだろうな。
どんなに強くても目の前の敵を対処しながら、左右や背後からの攻撃を対処するのは至難の技だ。
「まぁ言葉で言ってみてもピンとこないだろうからな。取り敢えず、五人組を作れ」
…!?ロジャーさん!それは…!?
まさか異世界に来てまでコミュ症に対する死の呪文を聞かされることになるとは…
俺はコミュ症ではない。だが、強者でもない。
…ここは勇気を絞って早々に声を掛けなければ、溢れてしまう。
「どなたか、自分と…え?」
…て、何でぇ!?何ですでに五人組が出来てるのぉ?!
俺の目の前には既に五人組になっている受講生たちが並んでいた。
「あ?なんだハルト。仲間いないのか」
「…いや、いないも何も何で皆んな既に五人組出来てるんですか」
「…あぁそうかお前はほぼ全て免除で来たからなぁ。他の奴らは事前の講習やってる内にパーティーメンバー揃えてきてるんだよ。参ったな…一旦、俺と組むか」
…俺の心はシクシクと痛んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
講習終わりに、俺はロジャーさんのチームに混じってロビーで
「ハルトよぉう。実際、パーティーメンバーどうするんだ?一匹狼気取ってソロにこだわる奴も居るが、ソロは本当に辛いぞ?中には受注の段階で弾かれることだってある」
「いやぁ、ギルドに加入してから探すつもりだったんですが、まさかもう他はパーティーができあがってるとは…」
俺は苦笑いしながら言う。
「でもよう、ロジャー。お前や姉御が言うには、ハルトは相当できるらしいじゃねぇか。新人同士で組ませるより、俺らのチームに入れちまった方がいいんじゃないか?」
「ジョン、姉御には必要以上に面倒見るのは止められている。何よりランクが合わねぇからな、俺らに混じると、ハルトの昇級が遅れちまう」
狩人には腕前に応じて魔銀級や金級などのランクが振り分けられる。これは単純な戦闘能力ではなく、任務遂行能力に依存する。ある意味、信頼の証だ。
腕が立っても信用のおけない輩は位が上がることはない。また、高ランクに低ランクが混じって仕事をしても、高ランクのおかげと取られるため、低ランクの評価も上がりづらいのだ。
一応、高ランクに混じって仕事をすることは、勉強にはなるため、禁止されているわけでは無いのだが…。
因みに俺は一番下の鉄級で、ロジャーさん達はベテランである金級だ。
「まぁ
「まぁなんとかなるもんだぜ?俺も当初のメンバーが狩猟性の違いで解散して、ソロで
そう言いながら、イアンさんが肩を組んでくる。何だよ。狩猟性の違いって。
「それよりもよぅ。お前がギルドに申請しに来た時に一緒に居たの姉ちゃんか?」
「姉ちゃん?」
申請の時とは、推薦状を提出しに来た時だろうか。
「ほら、お前と同じ髪色の背の低い可愛い子だよ。彼氏とか居るのか?」
…あぁ。それは父さんだ。
「…いや、彼氏は居ないですよ。確実に」
ロジャーさんとジョンさんは、誰のことを言っているのか分かっているのだろう。ニヨニヨとした笑みを浮かべている。
「まじかぁ。すげぇタイプの子なんだよね。今度、紹介してくれねぇ?」
「紹介と言われましても…。あぁ、うちの宝飾店の店番を良くしてますから、行けば会えるとは思いますよ」
ついでにご購入よろしくお願いいたしマース。
「本当か?!よし、今度顔出してみるわ。あぁ、でも自分の家の宝飾店で買われたものをプレゼントってどうなのかな。…いや、先ずは食事のお誘いから…」
『ロジャーさん、ジョンさん。これ本当のこと言った方が良いんですかね?』
俺は極小の風壁の術と声送りの術を組み合わせ、二人だけに声を送る。
『まぁヴィニアさんからしてみれば、慣れたもんだし平気だろ。何よりここでネタバラシするのは面白くない』
ロジャーさんは悪い顔しながら言う。相変わらず子供っぽいところがある人だ。そこが親しみやすくて良いのだが。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あいよー!あがいよぉー!あがいよぉお!ニィデタ!ニィデタ!ニィゴ?ニィゴデタ!」
競り落としを知らせるベルの音が鳴り響く。俺はすかさず、闇の女神の祝福を施した蟹を舞台中央へと運び込む。
「次の蟹です!」
そう。俺は今、蟹狩りに来ている。当初は新人の定番役である川から蟹を引き上げる場所に着く予定だったのだが、体重の軽さ故に川に引きずり込まれる恐れありと判断され、回されたのが蟹の運搬係。
ところが今度は、一人で蟹を持ち上げる膂力があるなら、台車を使っての運搬は勿体ないと判断され、辿り着いたのが狩猟場の近くの簡易的に作られた競り市場。
とれたて新鮮な蟹を多数の商人達が取り囲み、よく分からない言語を喋りながら競りが行われている。
「じゅうろくばぁあ!じゅうろくばぁあ!じゅうななばぁあああ!ああああああ!いよっせぇぇぇええ!」
(…ほんとに何語で喋っているんだ?)
俺はそこの運搬係として、蟹を背負って縦横無尽に駆け回っているのだ。
「あら、お帰りなさい。この端の分は祝福を掛け終わっていますよ」
「はい!わかりました!」
搬入口近くに戻ると、黒髪の女性が、俺に微笑んでくれた。この方はブラックモアさん。ギルドの受付嬢ではあるのだが、闇の女神の祝福を使えるため、こうして通常外の業務をこなしている。
闇の女神の祝福とは、闇魔法により停滞を付与する術であり、要するに微生物による腐敗を遅らせることができる。死んでしまった蟹はこのような処理をして市場に出回るのだ。
…そんなことはどうでもいい。俺は今、当初の予定を裏切る非常事態に置かれているのだ。
「それにしても凄い力ね。この市場の運搬係を一人でこなすなんて初めて見たわ」
そう!一人なのである!!
蟹狩りはギルド主催の大規模な依頼であるため、半ば強制的にチームワークが要求される。さらに言えば、俺の住む領都以外からも様々な人員が集まるため、パーティーメンバー探しにうってつけであったのだ。
搬入口の向こう側では、数人の新人達が台車を抱え、仲良さそうに互いに声を掛け合っている。
…なのに!何故!俺は一人で配属されているのだ!俺の周りには受付嬢が一人に商業ギルドのおっさん達しかいない!
「…モアさん。俺は半ばこの依頼でパーティーメンバーを探すつもりだったのですが、こんな所に一人で配属とは…。ギルド側としてはその辺
「…さ、先ずはお仕事よ。そのうち、生け捕りにできた個体に変わるから、そうするとより一層忙しくなるわね」
俺の深い絶望を感じ取ったモアさんは、そそくさと業務に戻って行った…。
「おい!次の蟹まだかぁ!」
「はい!ただいまぁ!」
モアさんの言う通り、その後からは目が回るほど忙しくなり、仲間どころの話ではなかった。
本来、三人で回す仕事であったため、俺には三人分の賃金が支払われたのであるが、そんなお金は要らないから、誰か僕に仲間を下さい…。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
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