第8話 ブートキャンプが君を魔法使いにする!

◇ブートキャンプが君を魔法使いにする!◇


 魔法の鍛錬と言う名の肉体鍛錬を始めてから2年の月日が経った。今、俺の目の前では母さんが木剣を構えている。今日は、母さんが休みと言うこともあり、家族で川縁にて模擬戦兼ピクニックだ。


「ほら、ラスト一本。頑張って」


 父さんが敷物の上に座って、バスケットを小脇に抱えながら応援してくれる。あっちはもう完全にピクニックの雰囲気だ。


「おら、踏み込みあめぇぞ!」


「危なッ!」


 牽制の横薙ぎを躱して母さんとの間合いを詰めるようとしたが、即座に切り返され、剣先が俺の鼻先を掠める。木剣といえどもグレートソードの木剣だ。その重厚さは最早、柱と言ってもいい。当たればタダでは済まない。


「おら、引くな引くな。間合いで負けてんだから、詰めなきゃ詰むぜ」


 二手三手と母さんが剣を振るう。


 俺は必死になって両手の剣を振るう。二刀流の強みは手数の多さだ。これはゲームのように連続攻撃数がすごいと言うわけではない。例えば左右両方向からの攻撃であったり、片方でガードしながら、もう片方で攻撃をするといった具合に、その瞬間に切れる手札が多いのだ。


 前世では、二刀流ができる筋力があるなら、その筋力で一刀流をしたほうが強いなんて言われてもいたが、身体強化のある今世では、二刀流は珍しいというほどでもない。そのため、二刀流が嫌がる立ち回りも母さんは普通に知っている。


 …というかそもそも、苦手な立ち回り以前に二刀流は母さんのような剛剣に弱い。片手だけのガードなぞ、簡単にぶち破ってくるし、得物のリーチで負けているため、後手に回る羽目にもなる。


 言ってしまえば、ガード不能の確殺攻撃をしてくる相手に常に先手を取られるのだ。かなりつらい立ち回りである。


 一応、母さんが手加減をしてくれているため、両手であれば何とかガードはできているが、体勢が崩されてしまい、攻めに転ずることができていない。…手傷を負ったわけではないが、体勢が崩れてしまっている状態を、ガードできていると言っていいものなのか。


 六手目。母さんの横薙ぎを屈んで躱す。少々、誘われている感じもするが、これはチャンスだ。母さんは振り抜いていて、即座に剣を戻せない。俺は屈んで避けたため、体幹は崩れていない。むしろ、膝が曲げられているため、飛び込むには適した体勢だ。


「一か八か…!」


 悩んでる暇はない。即座に母さんの懐に潜り込む。


「おらぁ!」


 …案の定、この隙は誘いだったようだ。母さんは振り抜いた剣の勢いそのままに一回転。相手に背中を見せる暴挙ではあるが、一足一刀の間合いを見切られている証拠だろう。


 目の前に一回転してきた剣が迫る。こちらをかち上げるような斬り上げ。なんとか自身の剣を前方に滑り込ませたが、それまでだ。


 成長したといっても未だに子供の体格。母さんの剛剣を正面切って受けきるのは不可能と言っていい。まるで野球のホームランバッターの如きフルスイング。母さんがバッターで、残念ながら俺はボールと言うポジションだ。


(痛ってぇ!母さん、もっと加減してくれよ)


 なんとか衝撃は殺したものの、明後日の方向にぶっ飛ばされた俺は、このままでは場外の藪の中へ突っ込む事となる。


「薮は…嫌だなっとぉ」


 宙を舞う体をくるりとひるがえし、藪の中ではなく、木の幹に着地する。俺は追撃に備えて即座に母さんを見据えるが、母さんはバッターボックスからは動いていない。


 …?ボールのようにぶっ飛ばされるのは、何もこれが初めてではない。よくあることだ。そして着地狩りの如き追撃までがワンセットなのだが、今回は何故か追撃がない。


 俺は警戒をしながらも幹から大地へと着地する。


「ハルト。ちょっとこっち来てくれる」


 父さんが母さんの元へと向かいながら、こちらに声をかけてくる。大声を出さずとも、何故か離れたところに声が届く。風魔法を使った声送りという術らしい。


「やっぱりそうだよなぁ」


「うん。僕の方でも感じ取れたよ」


 何やら話し込んでる両親のもとに行く。なんだろう。不穏な空気ではないのだが、多少の困惑が見て取れる。


「あぁハルト。自分で気付いてた?」


 二人の元にたどり着いた俺に、父さんから声が掛かる。


「気付いたって何に?」


「やっぱり無自覚かよ。まぁ初めてだしな」


「ハルト。さっき君は魔法を使ってたよ」


「魔法!?」


 唐突にもたらされた魔法というサプライズに一気にテンションが上がる。


「さっきお母さんに飛ばされた時、あのままじゃ薮に突っ込むところだったでしょ」


「え?うん。だから体勢を変えて木の幹に着地したけど…」


「お前は体勢を変えただけのつもりだろうが、はたから見りゃあ、ありゃ軌道が曲がってたぜ?」


「嘘…!?」


 俺は振り向いて先程の吹っ飛ばされた辺りを見る。


 …確かに、こうやって見ると空中で確認した着地予想地点と、実際に着地した木の幹は体一つ分は離れている。


「無意識に風を使って軌道を曲げたんだろうね。というわけで、ハルト。しばらく訓練はお休みだよ」


「えぇ!?なんで!?」


 せっかく魔法の兆しが見えたのに!


「ばっか。ハルト、いいか?こうゆう時期は魔法が不安定だから控えるんだよ。さっきだって無意識で魔法が発動しちまったんだ。下手すりゃ、こう、なんだ。バーンってなるぞ。バーンって」


「…ッ!?爆発するの!?」


「いや…ハルトは風属性だからそこまで大惨事にはならないだろうけど…まぁ暴発して扉や窓が飛ばされることはあるかもね」


 母さんの適当な説明を父さんが修正する。確かに火魔法の場合だと、暴発が小規模でも火事になりかねないため、危険なのだろう。


「にしても、まだ七歳だろ?いやにはえぇな」


「多分、属性が強いんだと思う。極端な子は早いらしいよ」


 魔法の発現が早いのは、多分転生のせいだとは思うのだが、父さんのいう通り何かしら他の要因があるのかもしれない。第二次性徴期の精神的成長により魔法に目覚めるというのも俺の中の仮説でしかないのだ。


「まぁ幸いにして、今は時期がいいよ。来月の満月には僕の一族の門が開く。ちょっと夜にお出かけしてくるね」


「あぁ。始まりの地か。そこはハーフリングが羨ましいぜ。巨人族の始まりの地は、もう滅びの中だ」


「それこそ、滅びから産まれ落ち、世界に火を灯した始まりの種族らしくていいじゃないか。始まりの火は未だに君らの中で燃えているんだろう?」


 急に両親からファンタジーワードがポンポンと飛び出してくる。え?なんかそういうの凄い憧れるんですけど。


「ハルト。聞いてたと思うけど、来月に魔法を見てもらいに行くからね。そうすれば、安定して魔法を使えるようになるよ」


「その始まりの地ってなんなの?」


「ふふ。最初のハーフリングが産まれ落ちた場所さ。そこには全てのハーフリングを見てきたドライアドの精霊様がいるんだけど、その精霊様に魔法を見てもらうんだ。ある意味、全てのハーフリングの魔法の先生だよ。」


 精霊だと!?自分自身がファンタジー種族なので多少は耐性がついてはいるが、精霊ほどのファンタジー要素に出会えるとなると興奮してしまう。というか精霊とかもやっぱり居るんだ、この世界。


「それじゃ、今日はこのままお昼食べて帰ろうか」


 そう言って父さんはバスケットを開けた。


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