第2話 従魔

 360度暗闇の中に僕はいた。この場所がどこなのか分からないが、死の世界ではないことは分かる。


 『いや、でもこれ死んでるよな?』形の無い自分の体に違和感が消えない。これが魂ってやつなのか。


 ふわふわと浮いているような感じで、前に進む。足も手も無いから実際には進んでいないかもしれないが気持ちは前に進んでいた。


 時間の感覚もない、だからどのくらい進んだのかも分からないが進みを止めなかった。

 

 『百合は無事なのか』


 それだけを思い僕は前に進み続けていた。


 どのくらい進んだだろうか?目の前に一瞬光が見えた気がした。出口なのか?光が見えた方角に進んだ。


 光が一定の間隔でピカピカと光っていた。間違いない出口だ。

 僕は希望を持って光に向かって走っていた。いつの間にか足があり、腕も手も光に近づくにつれ体が作られていくようだった。


 やっと光に近づいた。


 『神社!?』

 

 光の正体は宝石のように綺麗に輝く水晶だった。その水晶はあの時見た神社とそっくりな境内に置かれていた。


 いや、あの時の神社だ。


 水晶の手前に僕が作った稲荷寿司がお供えしてある。


 二つの稲荷寿司には一口ずつ食べた形跡があった。


 水晶がいきなり強く光りだした。『眩しい』僕は目を凝らして水晶を見つめた。

 そこには、意識を取り戻した百合の姿が映っていた。


 『良かった』僕は涙を流していた。


 『神様ありがとうございました』手を合わせて感謝した。


 これで安心して死ねる。僕はもう一度深々と頭を下げ神社を後にした。


 『待て!』鳥居を潜ろうとした時だった。境内の方から声がして僕は足を止めた。


 『鳥居から外に出ると完全に死の世界にいくぞ』死ぬつもりでいたのだが少しホッとした。


 「誰ですか?」声が出るようになっていた。


 『私はこの神社の神の使いだ』お供えした稲荷寿司を食べながら白い狐が僕を見つめていた。


 光沢のある毛並みが水晶の光に反射して神々しくみえる。 


『これはお前が作ったのか?』


 「はい」

  

 『形はどうかと思うがなかなか美味かったぞ』狐は皿を綺麗に舐めきっていた。


 「ありがとうございます」

 

 『だがな、一度お供えした物を食べるという行動が気に入らんな』いつのまにか険しい顔になっていた。

 

 「すみませんでした」僕は先生の話をしようとしたが、百合は先生のおかげで助かったのは事実、この話は伏せておくことにした。


 『うむ、ならば選ぶがよい。死ぬか従魔契約するかを』


 「従魔契約!?」できれば死にたくはない。従魔契約しか選択肢にはなかった、ただ・・従魔契約って。


 「それは、僕が貴方をですか?」


 『フザケるな!私がお前をだ』毛を逆立てながら怒った。


 「ごめんなさい」あまりの迫力に腰を抜かしてしまった。


 『契約していいんだな?』


 「は・・はい、喜んで。ただ・・」


 『なんだ?』


「従魔って、僕がモンスターか何かってことですか?」

 

 『まあ、今は人ではない存在であるからそういうことになるだろうな!だが臆するな私が付いている』


 死んでしまったみたいなものだし、暗闇にずっといるよりは従魔になる方がマシだった。それよりも久々に話ができて嬉しかったのだ。


 「よろしくお願いいたします」


 『良い返事だ。こちらこそよろしく頼む』


 狐は口から青い炎を吐いた。その炎は僕の足元に円形に広がり魔法陣を作り出しそして消えていった。


 『契約完了だ』


 手の甲に先程みた魔法陣と同じものが浮き出てそして消えた。別段変わった所は無い──いや、心臓の鼓動を感じる。


 『元の世界のお前の体を生き返らせた』


 「では帰れるのですか?」


 『いや今の私の力ではこれが精一杯、元の世界に戻すには力を溜めなければならぬ。それに従魔契約したのにすぐに帰すわけにはいかぬのでな』


 「あの、これからどうすれば良いのですか?」


 『私の三度の食事と私の力を溜める為に一緒に来てもらいたい所がある』


 「食事って・・・大丈夫かな?」


 料理ができない僕は不安であったが、稲荷寿司も作れたのだからと少し得意になったつもりでいた。


 「あの・・、食材とかって何処にあるのですか?」

 

 『現地調達だ!さっそく向かうぞ、付いて来い』


 境内の扉がギシギシと音を立て開いていく──。


 


 

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