第18話 電話(2)
なぜなら親友の
現在の時刻は20時。もう戦いは終わっているはずの時間だ。それなのに、陽菜からの連絡はまだない。
はたして結果はどうなったのか?
それが気になって、自分の部屋にいてもそのことばかり考えてしまう。リラックスなんてできるわけない。今はとにかく、充電器に繋がれたままうんともすんとも言わない、あのスマートフォンが気になって仕方ない。
じっとスマホを睨み付けること
美羽はすかさずそれを手に取ると、ドアが閉まっていることを確認してからスピーカーモードにする。画面には陽菜の名前が表示されていた。
「まったく……。待ちくたびれたわよ」
開口一番苦言を
『ごめんごめん。どうせ結果は変わらないんだからいいかと思って。それに、今日はいろいろと疲れちゃって……』
「ふぅ……もういいわ。それで? 肝心の結果はどうなったの?」
遅れた理由など、もはやどうでもいい。本当に聞きたいのはこの先だ。
はやる気持ちを必死に抑えながら、美羽は先を促す。
『単刀直入に言うと、原田くんの勝ち』
「そう……。了解よ。ありがとう」
淡泊に美羽は答える。
「それで、報告は以上かしら?」
『いや、まだ伝えないといけないことはあって……』
陽菜は言い出しづらそうに口を開くと、今日の戦いで起こったことを伝える。
拓実が清司郎に取り引きを持ちかけ、清司郎がそれに乗ったこと。その取り引きとは、清司郎が拓実に勝利を譲る代わりに、拓実は清司郎が求めている真相(どうして美羽が拓実に告白したのか)を提供するというもの。取り引きが成立したことで、拓実と清司郎が協力関係になったこと。
それらを順序立てて陽菜は説明した。
聞き終わった美羽は、溜め息に似た大きく長い息を吐いてから言う。
「……なるほど。状況は理解したわ。まさか、あの先輩が『私がどうして原田くんに告白したのか』を知りたがるなんて、流石というか何というか……。ちょっと面倒なことになったわね」
『でしょ? だからといって邪魔するわけにはいかないし……』
電話の向こうで陽菜が困り顔をしているのが、美羽にはわかった。
陽菜を安心させるためにわざと明るく美羽は言う。
「……まあいいわ。了解よ。面倒なことになっちゃったけど、陽菜は何も気にしなくていいわよ」
『本当に? 無理してない?』
「大丈夫よ。要するに、原田くんがこれ以上勝ち進まなければ何の問題はないってことなんだから。ほらっ! 考えてみて。だって次の相手は順当に考えれば、
『ああ、そっか。確かに』
陽菜は納得する。
「安斎くんなら確実に倒してくれるでしょうから、私は秘密を原田くんに教えずに済む。何の問題もないわ」
『…………』
不意に陽菜が黙り込んだ。
電話の相手がいきなり黙ったものだから、美羽は焦る。
「どうかした?」
『……1つ訊いていい?』
「改まってどうしたの? どうぞ」
『美羽は原田くんと付き合う気はないの?』
「…………」
ストレートな質問。
今度は美羽が黙り込む番だった。
陽菜は問い詰める。
『聞いたよ。二人が別れたって噂を聞いた男子たちが、続々と美羽に告白しに来てるって。それなのに、美羽はどの告白もろくに聞きもせず断ってるって。やっぱり原田くんのこと好きなんじゃないの?』
美羽は答える。
「……原田くんが私と付き合うために頑張ってる最中なのに、他の男の子と付き合うのは不誠実でしょ。これは彼の想いに対しての私なりの誠意よ」
『そんなこと言って、本当は未練あるんじゃない?』
陽菜の問いに、ぽつりぽつりと言葉を紡ぎながら美羽は答える。
「……まあ正直、あんなに想われて嬉しくないなんてことはないわ。……私は原田くんを嫌いになったわけではないし、復縁するのも悪くないかなって思う」
『じゃあどうして?』
その問いに、美羽は食い気味に答える。
「原田くんは言ったわ。『私の元カレを全員倒す』と。つまり、このまま勝ち進めば原田くんは彼とも戦うことになるのよ」
電話越しに陽菜がハッと息を呑んだのが美羽にはわかった。
「秘密を守り通したいからというのも、もちろんあるわよ。だけどそれ以上に私は怖いの。もう誰にも傷ついて欲しくないし、傷つく姿を見たくない。あんなこともうたくさん。だから、原田くんにはここで負けてもらわないといけないの」
普段クールな美羽にしては珍しい感情の吐露。
どうして美羽がそんなに感情的になっているのか、それを知っているからこそ。陽菜は何も言うことが出来なかった。
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