第11話 VS蒼井清司郎(1)

 吉木くんと戦ったあの日から二日経った放課後。

 僕と恭平、高山さんの「元カレぶっ潰す委員会」三人組は揃ってボウリング場の前にやってきた。ただし、遊びに来たわけではない。

 ここに来たのは、飛鳥井さんの元カレ――蒼井清司郎あおいせいしろう先輩と会うためだ。

 なんでも今日、高山さんが一人で廊下を歩いていたところ、蒼井先輩からいきなり対決を持ちかけられたのだという。強引な蒼井先輩に押し切られるかたちで高山さんが了承し、こうして僕と蒼井先輩が戦うことが決定した。

 そして、彼が対決の舞台として選んだのがこのボウリング場だったと。

「えっと、本当にここなんだよな?」

 恭平が困惑しながら呟いた。

「うん……。多分……」

 高山さんはスマホに表示させた地図と目の前の建物を見比べながら答える。

 スマホの画面を見せてもらう。

 地図上のピンは明らかにここを刺さっているし、事前に聞いていた待ち合わせ場所の名前と、目の前の建物に掲げられた看板の文字が一致していた。ということは、ここが蒼井先輩の指定した対決場所で間違いないだろう。

 しかし、

「ボロくない?」

「……う、うん」

 目の前のボウリング場「ツバキボウル」は、本当に営業しているのか不安になるほど老朽化が進んでいた。二階建ての外壁は黒ずんで汚れており、入り口のガラス扉の中から漏れる明かりも心なしかどんよりとしている気がする。

 明かりもついているし、中からかすかに音が漏れ聞こえているため営業はしているようだが、入るのに少しだけ躊躇してしまう。

「蒼井先輩はもう来てるのかなあ……」

「ちょっと待って。……中で待ってるってLINE来てた」

 高山さんが画面を見せてくれる。なんでも、対決の約束を取り付けた際に連絡先を交換したそうだ。

 蒼井先輩が実際にどういう人なのか知らないが、事前に聞いていた噂と相まって、僕はなんとなく彼に対して軟派なイメージを抱いた。

「……それじゃあ待たせても悪いし、入ろうか」

「そうだな」

 自動ドアをくぐり、施設に入る。

 ツバキボウルの一階は小さなゲームセンターのような空間だった。

 薄暗い空間にやたら発光するクレーンゲームやメダルゲームの筐体が沢山並べられていて、ずっとここにいると目が疲れてしまいそうだ。

「ボウリング場は二階みたいだし、そっちじゃない?」

「そうだな」

 高山さんの指摘により、三人はエスカレーターで二階に上がる。

 ところでこの施設、今日が平日であることを抜きにしてもあまり賑わっている様子がない。駐車場には空きが目立ち、ゲームセンターには片手で数えられるほどしか客がいなかった。

 こんなんで経営はちゃんと成り立っているのだろうか? 

 余計なお世話かもしれないが、少し心配になった。

 そんなことを考えているとすぐに二回に到着した。

 どうやら二階はフロア全体がボウリング場のようである。

「いた! あれじゃないか?」

 恭平が蒼井先輩を見つけたようだ。僕はすかさず彼が指さす先に視線を向ける。

 受付近くの休憩スペース。そこには、僕らと同じ学校の制服を着た一人の男性が座っていた。

 僕は蒼井先輩と初対面だったが、紹介される前から彼がそうだとわかった。

 もちろんそれは、僕らに気付いた蒼井先輩が手を振ってくれたからというのもあるが、そうでなくても、僕はきっと彼が飛鳥井さんの元カレだと気付いただろう。

 なぜなら、そこにいた蒼井先輩はとてつもなくだったからだ。

 話だけは事前に聞いていたものの、実際に見た蒼井先輩は僕の想像していた数倍はイケメンだった。

 白く透き通った肌、大きな瞳、形のよい鼻、口元から時折顔をのぞかせる白い歯、百八十センチ以上はありそうな身長、スラリと長い脚、カッコいい部分を挙げていけばキリがない。飛鳥井さんと並んで立てば、美男美女でさぞかし映えただろう。

 僕たちは小走りで蒼井先輩の元へ向かう。

「お待たせしました」

 すると、蒼井先輩は僕たちに気付くとその場で立ち上がり、大げさに両手を広げて迎えてくれた。

「君が原田くんだね。初めまして。待ってたよ」

 そう言って、僕の肩をたたく。

「ここ、わかりづらかったでしょ。迷わなかった?」

「大丈夫です。……こちらこそ待たせてしまってごめんなさい」

「んーん、全然。ちゃんと来てくれただけで嬉しいよ。高山ちゃんと三浦くんもありがとうね」

「いえいえ……」

 なんというか、すごく感じの良い先輩だ。吉木くんもそうだったし、飛鳥井さんの彼氏は人格者ばかりなのかもしれない。

 まあ、考えてみれば、僕のわがままにこうして付き合ってくれている時点で、彼が人格者なのはわかりきっていたことなのだが。

「本当は原田くんに話したいことも訊きたいことも沢山あるんだけど、時間がもったいないからそれは追々。……とりあえず三人とも来てもらっていい?」

 そう言って蒼井先輩は一人でズンズン先に進み始める。

 僕たち「元カレぶっ潰す委員会」三人組は、それに少し遅れてついていく。

 これから飛鳥井さんの元カレとの第二回戦が始まる。

 相手は学校一のイケメン蒼井清司郎先輩。吉木くんと違って、蒼井先輩はこの戦いに積極的なようだし、きっと厳しい戦いになるだろう。

 しかし、負けるわけにはいかない。僕は気を引き締める。


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