第3話 元カレぶっ潰す委員会結成
――さて、どうしよう……?
あの暴走の翌日、登校してきた僕は二年A組の自分の席で頭を抱える。
暴走。あの出来事はもはや暴走としか言いようがない。
彼女から別れを切り出されて、それを了承するところまではまだ良かった。本当は別れたくないという思いを必死に抑えて、後腐れない別れを演出できたと思う。
だけど、そこから先が良くなかった。
『だったら、もしも僕が飛鳥井さんの元カレを全員倒すことができたら、もう一度僕と付き合ってくれる?』『……うん』
つまるところ僕はあの日、「飛鳥井さんの元カレ」に嫉妬してしまったのだ。
飛鳥井さんが別れを切り出した理由が、元カレと復縁するためなのか、それとも他の理由があるのか、僕は知らない。だけど、そこに元カレが関わっていることだけは確定していた。
飛鳥井さんは元カレのために僕をフった。
その事実がとても悔しくて、飛鳥井さんに対しての「好き」という思いが溢れて、結果的にあんなことを口走ってしまった。
完全にやらかした。出来ることならあのことをなかったことにしたい。そう願いながら、昨日は家に帰ってからずっと一人で悶えていた。
――やっぱり昨日、LINEで謝るべきだったかな? だけど、向こうが気にしてなかったら余計恥ずかしいし。っていうか、飛鳥井さんはどう思っているんだろう? ドン引きされたかな? されただろうな……。はぁ、どうしよう……?
昨日は言い逃げをした上、お互いにLINEのメッセージのやり取りもしていないので、飛鳥井さんが昨日のことについてどう思っているかわからない。
「はぁ……」
僕は何度目かもわからない溜め息をつく。
「……どうしたんだ? 朝から暗い顔して」
声に反応して顔を上げると、そこにはクラスメイトの
恭平との出会いは実に二ヶ月前、夏休み明けにこの学校に転校してきた僕に初めて声をかけてくれたのが彼だった。それに、飛鳥井さんと付き合い始めたという噂が立ったことで周りの男子からの態度が変わったときも、恭平だけは以前と変わらない態度で僕と接してくれた。僕はそのことにすごく感謝していた。
「実は……」
周りを見回して聞き耳を立てている者がいないことを充分に確認してから、恭平に昨日のことを話す。
飛鳥井さんがフリーになったという情報はトップシークレットだ。もし漏れれば、学校中の男子が告白のために飛鳥井さんの元へ殺到するだろう。警戒するに越したことはない。
僕の話を聞き終えた恭平は、ニヤニヤと笑って言った。
「……そんなことになってたのか。すげぇ面白そうじゃん。頑張れよ。
「他人事だと思って……。それに、やらないよ」
「そりゃまたどうして?」
恭平は不思議そうな表情を浮かべている。周りにいるクラスメイトに注目されることを警戒してか、リアクションは控えめだ。
「決まってるでしょ。あの時の僕はどうかしてたんだ。後で飛鳥井さんに謝って、なかったことにしてもらうよ」
「何だそれ。もったいない。やれよ」
「無理だって」
そう言って首を横に振る。
すると、恭平は一度大きなため息をついたかと思うと、今度は真剣な表情を浮かべた。そして僕の目を正面から見据えながら問いかけてきた。
「未練、あるんだろ?」
「……っ」
言葉に詰まった。図星だった。
「飛鳥井のことまだ好きなんだろ?」
「……」
「諦められないんだろ?」
「……」
恭平の視線が逃げを許さない。
僕がまだ飛鳥井さんのことを好きなことが完全に見抜かれていた。
そうだ。僕はまだ飛鳥井さんのことを諦められていない。彼女への恋心は少しも冷めていない。別れを告げられても、僕は彼女のことが好きなんだ。
その事を自覚すると、僕は無言で小さく頷いた。
「じゃあ、やるしかねえじゃん。何を迷うことがある?」
「……僕にやれるかな?」
「さぁ? でもチャレンジしなきゃどうにもならないぜ」
僕の中で答えはもう決まっていた。
「…………わかった。……やるよ」
僕の返事を聞くと、恭平はニッと小さく笑った。
「その意気だ。俺も手伝ってやるよ。『元カレぶっ潰す委員会』の結成だ」
「何? その物騒な名前?」
「俺たち二人のチーム名だ。物騒に聞こえるかもしれないが、それくらいの心構えと図々しさを持ってないと、この目標は成し遂げられないと思うぜ。なんてったって、相手はあの飛鳥井の元カレたちなんだからな」
「そっか……」
勢いに任せて僕は啖呵を切ってしまったが、恭平が言うには「飛鳥井さんの彼氏を全員倒す」という行為のハードルは相当高いようだ。
早くも不安になっていた。
……いや、弱気になってはいけない。気持ちで負けては勝てるものも勝てない。それこそ、元カレたちを「ぶっ潰す」くらいの心構えでないと。
「……それで、元カレを全員倒すって具体的に何をするんだ?」
恭平が訊ねてくる。
「勢いで言っただけだから何も……」
「なんじゃそりゃ。向こうからは何て?」
首を横に振る。教室から逃げ去って以来、飛鳥井さんと連絡すら取っていない。
あれっ? 今気付いたけど、これってやって大丈夫なのか?
もし仮に元カレたちを倒せたとしても、飛鳥井さんが認めていないなら約束自体が無効になるのでは?
元カレたちは何のメリットがあって僕と戦うの?
そもそも、倒すって物騒すぎない?
やると決めたのは良いが、細かいところを見ていくと、この計画は問題だらけである。前途多難どころの話じゃない。
しかし、恭平はそうは思わなかったようだ。
「ってことは、俺たちで勝手にやって良いってことか。……わかった。だったら俺に良い考えがある。任せろ」
頼もしい。恭平が友達で良かった。
「ごめんね。こんなことに付き合わせて」
「謝るなよ。俺は好きでやってるんだ」
「本当にありがとう」
「良いってことよ。気にすんな」
そう言うと、恭平はぶつぶつと自分の世界に入る。
「……まずはあいつに声をかけないとな。ついでにあいつにも。まったく、忙しいったらありゃしないぜ」
「ねえ、気のせいだったらごめんけど、なんだか恭平ってば楽しんでない?」
「気のせいだ」
そう言いつつ、顔がにやけていた。面白がっているのを隠そうともしない。
まあ、手伝ってくれるだけで僕としては有り難いのだが。
「よしっ、まずはあいつと話をつけに行こう。ついてこい」
歩き出した恭平についていく。
こうして「元カレぶっ潰す委員会」は始動した。
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