第5話 プリズム

 胸糞悪いもん見たんですよねぇ。

 あ、どうも乾燥でまぶたが切れましたごきげんようおなつですくっそ痛ぇ。

 見たのは数日前なんですけれどもね、もよりのショッピングモールに、たまたま家族みんなで遅い時間に行ったんですよ。最初に見かけたのはお菓子売り場でした。4歳くらいじゃないかなあ、女の子がね、床にひっついてたんです。これだけ聞くとさ、ああよく見るよね、子どもがお菓子買ってほしくて駄々こねてんでしょ、って思うでしょ。そうでなくて、周りに親はいなくて、男の子、男の子、女の子、の兄妹でした。一番ちっちゃい女の子がさ、ちっちゃく足を折り曲げて、顔とお腹をぺったり床につけてちっちゃくなってたんです。あのさ、「ダンゴムシポーズ」ってわかりますか。学校や幼稚園で教えている、災害訓練のときのポーズなんですけど。これ地域性出てるやつだったらやだなぁ。全国区だと信じてまぁ書くけどさ。「ダンゴムシポーズ」はまさにダンゴムシのように丸くなって頭を守る体勢なんですけれども、その女の子は丸じゃなくてひらぺったくなってたんですよ。わたしは、それを見てあらあら、この子のブームなのかしら。お顔が汚れてしまうわよ。って思いました。

 次に見たのが、レジ横サッカー台、の、通路を挟んだ壁に設置してあるベンチでした。ばあちゃんの荷物詰めが終わるのを待ってるじいちゃん用、みたいなやつです。わたしはお買い物が終わったので、下の子くんとおててを繋ぎながら荷物の載ったカートを押しててくてく歩いてました。わたしらの目の前でね、一番上らしい男の子が、さっきのひらぺったくなってた女の子に回し蹴りをしたんです。女の子はまたベンチの上でひらぺったくなってました。あきらかに喧嘩でもじゃれ合いでもなかったです。わたし一度もその女の子の顔も見えてないし声も聞こえてないの。親の叱る声も聞こえてないの。声どころか親はそもそも姿を見てない。

 一瞬で「あ、これ虐待家庭やん」と思いました。蹴った男の子は、うちの下の子くんと同じくらいか、ちょっと上、かなぁ、くらいの歳でしたね。うちの下の子くんがちょっと体格デカめなので判断しきれなかったけど、まあ見た感じそんくらい。わたし自慢ですが人間観察が趣味なんですよ。加えて犯罪心理とか行動心理とかの本を読み漁ってたり飲み屋のお姉さんやったりしていたので、人を分析するのはわりと得意です。一部ではエスパー山田って呼ばれてますウフ。

 まあ、あれは誰が見てもそれなりの人数がピンとくるような感じだったろうと思うんですが、男の子の目つきとか表情を見て「これ完全にアウト案件や」って思いました。女の子がひらぺったくなってるのは、お腹のところに空間ができると彼女にとって不都合なことがあるからですね。だって難しいもん、あの体勢。顔も声も一度も上げなかった。男の子は善悪の区別のつく年齢でした。それでも公共の場で小さな妹に回し蹴りをすることに躊躇がないのは、それが「悪」だという明確な認識がないんでしょう。大人は隠すけど子どもはそのへん浅はかですね。

 わたしとおてて繋いでた下の子くんがその回し蹴りを目の前で見て、心の底から驚いたみたいで、2、3歩行き過ぎてから「かわいそう!」とわりとデカい声でわたしに言いました。あ、彼は喉にボリューム調節機能がついてないので、いつでも声デカいんですけどね。ナイショ話全部聞こえてるタイプです。でもわたしも敢えてデカい声で「そうね! かわいそう!」って返しました。後ろを振り向かなかったので彼らの様子はわかりませんでしたが、声が聞こえていればいいなと思いました。

 なんかねぇ、難しいところだなって思ったんですよ。親の姿を見れればもっといろいろわかったんだろうけど、いなかったしさ、あの男の子に軽くでも「あかんよ」と言ったところで、見知らぬおばはんからそんなこと言われようものなら、下手すればあの女の子はあとからもっと蹴られるでしょう。店員さんに言ってもしょうがないし、警備員さんに言ってもしょうがないし、お巡りさんに説明しようにも女の子の顔も名前も住所もわからんからなんの説明もできんし、できることがわからんかったん。それがめっちゃ悔しいなって思いました。今でもわからんもん、できること。

 でも取り敢えず、下の子くんが歩きながら「次にまた見たら、ぼくがあの男の子をなぐる!」などと言うので、「ちがうよ、それよりも先に、あの女の子のほうに優しくしてあげて」って言っときました。硬いものに硬い力でぶつかっても欠けるかへこむかしかないですからね。それよりも、壊れかけてるものを布で包んであげたほうが建設的。殴っても解決しないけど、寄り添ってあげることができたら、まあ結局なんの解決もできんけどさ、それでもほんの少し、心は救えるかもしれないじゃん。わたしにできるのは我が子を育てることだけですな。

 女の子の服装は背中しか見えなかったけど古くもひどく汚れてもいなさそうだったので、経済的に困窮していたわけではなさそうでした。男の子のシャツは西松屋っぽかったな。真ん中の子はほぼ空気だったので印象がないです。そんなに注視していたわけでもないしね。見たものからしか判断できないのでそれ以上のなにかがわかったわけでもないですし、わかったところでなにがどうなるわけでもないですけど、だからこそもやもやします。人んちの中なんて誰にも見えないですからねぇ。恐らくどこかになにかしらの問題があって、最初に助けてあげなきゃいけないのは実は親御さんなんだろうな、とかはふんわり思いましたけど。

 

 みなさんは、目の前で小学生男児が無抵抗の未就学女児に回し蹴りをしていたらどうします? もうねぇ、めっちゃもやもやするんよ。なのでみなさんにもやもやのお裾分けです。


 あとわたしが年末年始にどハマリしていた日本酒をご紹介しようと思っていたんですが、なにやら調べたら地元にしか売ってない代物だったらしいので断念です。ちっこい瓶に入った甘口の日本酒だったんですけれどもね、引くぐらい呑みやすかったんですよ。わたしあんま飲酒をしなくなってるんですけど、日本酒なのにグイグイいってしまって、しかも翌日に残らないっていうステキ商品でした。

 調子に乗って先日ワインを浴びたら普通に酔ったので、あの日本酒もっかい買おうかなあと画策しております。

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